第17話

☆☆☆


さすがにあれだけ大きな体で走ることはできなかったのかもしれない。

僕がカンナちゃんを連れて道路へ飛び出したときにはもう、功介の親の姿は見えなくなっていたようだ。


最寄りの交番へ駆け込むと男性警察官が驚いた顔を向けてきた。

「どうしたんだい?」

素足の女の子を連れた僕とカンナちゃんと交互に見てそう聞く。


僕はカンナちゃんの口から説明するほうがいいと思ったのだけれど、とてもそれができそうにないので、自分から説明することになった。

「カンナちゃんはたぶん虐待を受けています」


僕が警察官に事情を説明している間、カンナちゃんは隣に座ってずっとうつむいていた。

だけどその足には今日逃げる時についたわではない傷やアザが多く見つかり、警察官も信じてくれたみたいだ。


「君、もう少し事情を聞きたいから、今日の学校は午後からになってもいいかな?」

「はい、大丈夫です」

それに隣で震えているカンナちゃんをほっておくわけにはいかない。


「君……郁哉くんは友達の功介くんを見て家の異変に気がついたんだね?」

「はい。正確には和彰が功介の家の事情を教えてくれたんです」

「なるほど。それで、その功介くんはどこに?」


その質問に僕は左右に首を振った。

今日僕が家に飛び込んでいった時に功介の姿は見えなかった。

もしかしたら功介はまだあの家にいるんじゃないだろうか。


そう思うと、またいてもたってもいられない気持ちになってきてしまい、僕は警察官へ視線を戻した。

「功介はきっとまだ家にいます。助けてください!」


すがるように言う僕をカンナちゃんが驚いた顔で見つめていたのだった。


☆☆☆


「もう、本当にこの子は……!!」

連絡を受けて警察署へ駆けつけてくれた母親は泣き出してしまいそうな顔で僕を抱きしめた。


隣にカンナちゃんがいるからやめてほしかったけれど、もし功介の親に捕まっていたらと考えると、自分がどれだけ恐ろしいことをしてしまったかわかって、なにも言えなくなってしまった。


「こういうときはすぐに大人の人に相談しなきゃダメじゃないの! でも、よくやったわね。女の子を助けるなんてヒーローじゃない」

少し落ち着いてきたとき母親はそう言って僕の頭をくしゃくしゃとなでた。


それから僕は開放されたけれど、カンナちゃんはまだ警察署へ残るみたいだ。

もう家にはいられないから施設に入ることになるかもしれないと、聞いていた。

施設がどんなところか僕にはよくわからないけれど、そこが今の家よりもいいところであることを心から願った。


「午後からだけでも授業に出る?」

警察署から出て分かれ道へ差し掛かったとき、母親がそう声をかけてきた。


「うん。もしかしたら功介が来てるかもしれないし、行ってみる」

僕はそう言い、迎えに来てくれtあ母親とわかれて学校へと向かったのだった。


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