第12話 目撃する

功介の苦しみを知ったのに僕たちにはなにもできないんだろうか。

大人たちに相談するくらいならできるけれど、それは功介本人が嫌がっている。


なら、どうすればいいのか……。

いい考えが浮かばなくて1人悩んでいるとユリちゃんが泣きながら教室へ入ってくるのを見た。


泣いているユリちゃんの横には女友達がよりそっている。

「なにかあったのか?」

そう声をかけたのは淳だった。


めずらしくクラスメートのことを心配しているみたいだ。

「うっ……うぅ」

それでもユリちゃんは嗚咽をもらずばかりでとても話ができそうにない。


かわりに口を開いたのは友人の方だった。

ユリちゃんに寄り添ってはいるものの、その女の子も顔色が悪い。


「今、トイレで変なものを見たの」

ユリちゃんの友達の声は震えている。


「変なもの?」

「うん。学校の七不思議に花子さんっているでしょう? それにそっくりな女の子を見たの」


どうやらトイレの花子さんの話をしているみたいだ。

トイレの花子さんは白いブラウスに赤いスカートをはいたおかっぱ頭の女の子で、女子トイレに出ると言われている幽霊だ。


興味本位に花子さんを呼び出すと、トイレに引きずりこまれてしまうらしい。

「トイレの花子さん? なんでそんなことしたんだよ?」

「違う! 私達花子さんを呼び出したりなんてしてないよ! だけど、トイレを済ませて個室から出たとき、そこにいたの」


それを聞いた淳がくるりとこちらを振り向いた。

視線がぶつかったが、慌ててそらせる。

淳は僕に対してキツク当たってくるから、やっぱりあまり関わり合いを持ちたくなかった。


「あんなの気にするな」

後からそう声をかけてきたのは和彰だった。

和彰は呆れ顔でユリちゃんたちを見ている。


「もともとあの子たちは嘘つきなんだよ。幽霊を見たとか、芸能人を家に泊めたとか、そんなのばっかりさ」

「そうなんだ? でもユリちゃんが嘘つきには見えないけど」


あまり会話はしたことがないけれど、ユリちゃんは聡明で、誠が好きになった子だ。

そんなに悪い子じゃないと思う。

嘘をつくにしても、ユリちゃんならもっとバレないような嘘がつけるはずだ。


「そう見えないだけだって。さ、もう行こう。トイレの花子さんなんてくだらない」

和彰が貴重な昼休みが無駄になるとつぶやいて教室を出ていく。


僕は「うん」と小さな声で頷いてその後をついて歩き出した。

教室を出る前に振り返ってみると、ユリちゃんはまだ泣いていたのだった。


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