第5話
☆☆☆
一番うしろの席から観察していると、誠は授業中にもチラチラとユリちゃんの方へ視線を送っているのがわかった。
だけどユリちゃんはそれに気が付かずに真面目にノートをとっている。
見ているだけで誠のぎこちなさが伝わってきて、胸のあたりがモヤモヤした。
あんなに好きなのに、どうして返事を急かすつもりはないなんて言うんだろう。
本当は告白の返事を聞くのが怖いんじゃないだろうか?
もう何ヶ月も前に手紙を出しているみたいだし、それで未だに返事がないのはよくない結果だとわかっているからかもしれない。
僕はその後の授業をモヤモヤとした気持ちのまま受けることになったのだった。
☆☆☆
「ねぇ、ちょっといい?」
休憩時間に入ると、僕はすぐにユリちゃんへ声をかけた。
ユリちゃんは驚いた顔を浮かべていたけれど、すぐに笑顔になった。
「えっと、真崎くんだっけ? 私蒲生」
そういえばユリちゃんと自己紹介するのはこれが初めてだと気がついた。
僕は3人から色々と話を聞いているから、つい下の名前で呼びそうになってしまった。
「よろしく」
一応頭を下げると「それで、私に用事ってなにかな?」と、ユリちゃんが小首をかしげてきた。
その仕草は可愛らしくて誠が好きになるのも納得できると思った。
「ここじゃ、ちょっと……」
僕はそう言ってユリちゃんと一緒に廊下へ出た。
廊下のできるだけ人のいない隅へと移動してようやく立ち止まる。
「こんなところでなんの話?」
ユリちゃんはひと気のない場所に落ち着かない様子だ。
「あのさ、転校してきてすぐの僕がこんなことを質問するのはおかしいと思うかもしれないけど、友達の手助けをしたくてさ」
「うん?」
ここまで呼び出したもののやっぱり質問しにくくて回りくどいことを言ってしまった。
だけどこれじゃ余計にユリちゃんに怪しまれてしまう。
「単刀直入に聞くけれど、今好きな人とかいる?」
その質問にユリちゃんは一瞬固まってしまって、それから一気に耳まで真っ赤になった。
「あ、あの、僕がどうこうとかじゃなくて、さっき言ったように友達の手助けがしたくて、そのっ」
慌てって言い訳をすると自分でもなにを言っているのかわからなくなってきてしまった。
だけど目の前にいるユリちゃんはすぅと息を吸い込むと「そうだね」と、頷いた。
「好きになりかけていた人なら、いる」
その言葉に瞬時に誠の顔が浮かんできた。
「そ、それって……」
「森岡誠くんっていう子」
ユリちゃんの声が確かにそう言った。
誠とユリちゃんが両思いだったんだ。
それなら、その気持を早く誠に伝えてあげてほしい。
そう言おうとしたときだった「もう、いいかな?」まだほんのりと赤く染まった頬でユリちゃんが聞いてきた。
「あ、う、うん」
『好きになりかけていた』
それは一体どういう意味だろう?
僕は漠然とそんなことを考えながら、頷くしかなかったのだった。
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