第3話 告白の返事
話しに聞いていた通り宿題は難しかった。
前の学校で習ったところから随分と先に進んでいて、教科書を読んだだけでは理解が追いつかない。
夕飯のときは半分冗談で友達に教えてもらうと言ったが、それが本当のことになりそうだ。
「あ、和彰」
朝の校舎を歩いていると和彰が前から歩いてきて僕はさっそく呼び止めた。
「おはよう郁哉」
「和彰は朝早いんだね? もう来てたんだ?」
僕も勉強するために早く登校してきたけれど、今和彰はトイレから出てきたみたいだ。
「あぁ。毎朝散歩してから来るんだけど、そうすると少し早めに到着するんだ」
「へぇ!」
散歩と聞いて思い浮かぶのは犬の散歩くらいな僕は驚いて目を丸くする。
「そうだ和彰、勉強を教えてくれないか?」
ふたりで教室へ向けて歩きながら聞くと、和彰はふたつ返事でOKしてくれた。
「勉強、難しいかい?」
「う~ん、こっちの学校のほうが進みが早いから、僕が習っていないところが終わってるんだ」
机の上に宿題のプリントと教科書を広げて答える。
Bの組の教室内には僕らしかいなかった。
「それは大変だ。早く授業に追いつかないと」
和彰はそう言うと丁寧に宿題を教えてくれた。
教えからも上手で、どんどん頭に入ってくる。
「この問題の数式はこれ」
「そっか。わかりやすいよ、ありがとう」
気がつけば他の生徒たちが登校してきていて、プリントの空白はすべて埋まっていた。
これでどうにか今日の宿題は提出できそうだとホッと胸をなでおろす。
「これくらいのことお安い御用さ。またわからないことがあったら言ってくれよ」
和彰はモテるんだろうな。
僕はそんなことを思ったのだった。
☆☆☆
この日も休憩時間になると和彰、誠、功介の3人が僕のところへやってきた。
転校生の僕が教室で1人にならないように気を使ってくれているのかもしれない。
「郁哉、お前宿題すげーじゃん」
功介が目を見開いてそう言ってきた。
数学の授業中に返還されたプリントは100点のマークがつけられていた。
それを見ていたみたいだ。
「100点? それはすごいね。数学は特別難しくてボクは平均点を取るのが難しいくらいだよ」
「僕だって全然できなかったよ。登校してきてから和彰に教えてもらったんだ」
ふたりに正直に打ち上けると、途端に納得したように頷いた。
「和彰は数学得意だから、そういうことかぁ」
「テスト前になるとボクらもよく和彰に数学を教えてもらうんだよ」
みんなに称賛されて和彰はどこか恥ずかしそうだ。
次は移動教室の音楽の授業があり、ここでも練習したことのない曲をピアノ演奏させられそうになって慌てて教科書が追いついていないことを説明した。
「ふぅ……転校生って大変だよ」
教室へともどり道にわざとらしくそう言うと3人は声を立てて笑ってくれた。
でも、実際に和彰たちがいなければ僕はもっと大変な目にあっていたと思う。
宿題も提出できていなかったかもしれないんだし。
「音楽を教えることはできないけど、一緒に頑張ろうな」
和彰のピアノ演奏はたしかに上手は言い難かった。
だけどこうして一緒に肩を並べて頑張れるのは心強い。
2年B組の教室が見えてきたとき、その教室から1人の女子生徒が出てくるのが見えた。
白い半袖ブラウスに紺色のスカートが翻る。
一足先に教室へ戻ってきていたその子は確か蒲生ユリという名前だったっけ。
蒲生という名字に似つかわしくなく、細くて白い体つきをしているのが印象的だった。
そのユリが僕らの横を通り過ぎる瞬間だった、誠が顔を伏せてその顔が耳まで真っ赤に染まっていることに気がついたのだ。
僕は思わず「えっ」と小さく口に出す。
だけど他の2人は気がついていないのか、さっさと教室に入っていってしまった。
「誠?」
「な、なんでもないよ」
僕が声をかけると、誠は真っ赤になった顔を伏せたままそう答えたのだった。
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