第2話

☆☆☆


一通りの学校案内が終わったあとも、3人は僕のことを気にして休憩時間のたびに声をかけてくれた。

おとなしい誠と少し乱暴な功介を、利発な和彰がまとめて引っ張っていっているように見える。


「じゃあまた、明日な!」

放課後になり家に帰るのがもったいないと感じたのは久しぶりのことだった。


このままずっと学校で、4人でおしゃべりしていたい。

そんな気持ちを振り切って僕は3人に手を振って教室を出たのだった。


☆☆☆


「学校はどうだった?」

夕飯の席で父親が少し心配そうな顔を浮かべて聞いてきた。


僕は転校のたびに、この顔を見ている気がする。

「うん。面白い3人組に会ったよ」


今日の出来事をかいつまんで説明すると、父親と母親の表情が柔らかくなるのがわかった。

「そっか、いい友達ができそうで良かったな」


「うん」

「だけど残念ね。もう少し早く転校できれば春のバス遠足にだって参加できたのに」


母親が残念そうな顔つきで言う。

そのほうが早くクラスに溶け込むことができると思っていたみたいだ。


「仕方ないよ、仕事の都合なんだし」

と、僕が言うと、両親は顔を見合わせて笑い声をあげた。

「郁哉はまるで大人みたいなことを言うようになったな」


「そうかな?」

首をかしげていると、「問題は勉強ね」

と、母親の言葉に一気に現実に引き戻される。


大ヶ原中学校は僕が前に通っていた中学よりも少しだけ偏差値が高いらしい。

初日だからまだ実感はなかったけれど、テスト期間に入ればそれも白日の元にさらされるはずだ。


「和彰はきっと勉強もできるんだと思う」

オムレツを口に運びながら僕は言った。

それに読書好きな誠は国語が得意そうに見えた。


いざとなればふたりにすがりついて勉強を教えてもらおうという考えだ。

「さっそく友達を頼りにして、全く」


母親は呆れ顔だけれど、初日からそんなに信用できる友人ができたことが嬉しそうだ。

「ごちそうさま! 宿題しなきゃ」


僕はたべた後の食器を流しへと移動させて、そのまま自室へと向かったのだった。


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