【コラボ配信小説】つめたい人

 冬のとても寒い日、稲風はふらふらと外を散歩していた。

「ああ、手先が冷えてきたな」

 そう思いつつ散歩を続けていると、公園にたどり着いた。そこでは小さな女の子が手足を真っ赤にしながら楽しそうに遊んでいる。

「寒い中、元気な子だね……」

 稲風は少し騒々しいなと思いつつも元気だなとも思い公園を後にしようとすると、突然女の子が稲風に声をかけてきた。

「お兄ちゃん、ジュース買って~」

「お母さんにお願いしな」

「やだ~お兄ちゃんに買って欲しいの~」

「はぁ、仕方がないな……小銭あったかな……はあ、切らしていたか」

 そう言って仕方がなく稲風は立ち上がる。女の子は嬉しそうに稲風の手を取るが、その女の子の手はとても冷たかった。

「事案発生」

 そう思い、稲風は女の子の手をそっと外した。

「お兄ちゃん、手を繋いでくれないの?」

「私じゃなくても最近の人は繋いでくれないんだよ」

「ケチ!」

「ジュース買ってあげるのにかい?」

「ジュースは欲しい!」

「じゃあ、ケチじゃないよね?」

 うぐぐと悔しそうにしながら女の子は近くの自動販売機へと向かう。

「これ! このジュースが欲しい!」

 女の子は最上段にあるボタンのジュースをピョンピョンと飛び跳ねながら示す。オレンジの缶ジュースであった。

「寒い中、こんなもの飲むのかい?」

「これがいい! これじゃないとダメなの!」

 しかたがなく、千円札を自動販売機に入れる。そして稲風はおもむろに自分用の缶コーヒーを購入した。

「あ~!!」

 女の子は驚愕の表情を浮かべる。

「なんであたしのより先に別のやつ買うの!」

「これでも握っておきな。私より冷たい手なんてどうかしてるよ」

 そう言って稲風はホットの缶コーヒーを女の子に渡す。女の子はふてくされた表情で稲風の手をはじいた。

「お兄ちゃんのケチ! 買ってくれない人なんて知らない!」

 女の子はその場からスウゥと消える。それに動じることなく稲風はため息を付いた。

「私は人間ではないのですが……」

 缶コーヒーのプルタブを引いて、口に含む。コクのない苦い水が口に広がった。

「つめたい人だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る