【コラボ配信小説】コーヒーとfrosti
ああ、お前がアメリカから来た学者さんかい? なんでも、妖精を研究しているとか。奇特な人だねぇ。おまけにあいつを研究したいなんて本当に奇特なやつだ。
そこに座れよ、コーヒーは好きか? コーヒーでも飲みながらあいつの話をしよう。
あいつはね、frostiという霜の妖精なんだ。霜男とも呼ばれているが、俺はその呼び名はあんまり好きじゃない。あいつは男というには綺麗すぎるからね。
呼び名は地方によってさまざまだから、フロッティなんて呼び方をする奴もいる。可愛いだろう?
俺は稲風って呼んでる。ここらの他の奴もそう呼んでる。夏の季語で7月くらいの青田を撫でる涼し気な風景そのものを稲風って言うんだ。
人間は寒さの由来にこういう理由があってもおかしくないんじゃないかって名前を付けないと気が済まない。見る人によって変わる寒さの具現化がfrostiだ。寒さを綺麗だなって思う奴はfrostiは綺麗に見えるし、寒さを怖いと思う奴はfrostiは恐ろしく見える。
俺にとって稲風っていうfrostiは、夏になっても涼し気な冬の精霊のfrostiって感じだ。
でだ、その稲風と俺たちとの出会いはすごく簡単だ。
冬の森で狩りをしていて、俺らは寒いから焚火を付けたんだ。それでコーヒーを啜っていたらそいつは現れた。
「おや、ワイルドな飲み方をする客人ですね」
いきなり話掛けられたんでびっくりしたね。振り返ったら全身白と青で統一された綺麗な人が立っていたんだ。だが、俺たちはすぐそいつが人じゃないと気が付いた。冬の雪山に入るにしては随分と薄着だったんだ。
一緒に狩りに来ていたそいつは一目見たら恐怖のあまり失神したよ。俺はなんとか自分を奮い立たせてそいつを見た。
「お、俺らはコーヒーを飲んでただけだぜ?」
「そちらのコーヒー、ワイルドなのはいいですが。少し煮た立てすぎではありませんか?」
そいつは少し冷たいが柔らかな声でそんなことを言い出した。
「体が冷えているのは分かりますが、豆が可哀そうじゃありませんか。とはいえ、珍しい飲み方に釣られて寄った身ではありますが……せっかくなので一口いただけませんか?」
俺はポカンとした。そして、新しいマグに残りのコーヒーを入れてそいつに恐る恐る差し出す。そいつはコーヒーを一口飲むとこう言った。
「やはり、えぐみがありますね。でも、油はしっかりと出ていてこれはこれで……はて、小屋の中はほどほどに暖かいように思いますが。なぜ震えているのですか?」
俺の祖母から話は聞いていた。自然には様々な妖精がいて、俺たちのすぐそばにいる。それは友好的な奴もいれば恐ろしい奴もいる。初めて見た人間ではない存在はどっちなんだと困惑した。
「あ、あんたって……なに?」
「なに……とは? 我々の名前を決めたのはそちら側では?」
お互いに当惑した。今までの人生で一番当惑した。学者のあんたならわかるだろうけど、稲風の言葉を借りるならこうらしい。
「形を持たない我々に名前を名付けて存在を確立させたのは、あなたたちでしょう?」
俺は学者じゃないからよくわからんが、そうらしい。まあ、祖母や他の奴らから聞いているからそうなんじゃないか?
俺たちと稲風の出会いはそんな感じだ。コーヒーで繋がった縁ってやつだ。
それから、俺と稲風との関係はゆるく続いている。コーヒーを持って冬の狩りに行って、たまにコーヒーに誘われてあいつが現れる。
学者さん、あいつの研究をしてたみたいだけど俺からしたらあいつはコーヒー好きのお隣さんって感じだな。
あいつに会いたきゃ、ちゃんとコーヒーを持っていくと良いぞ。
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