【ニコ生配信小説】罪悪感を抱えた観光客が、テントのなかにいる

 どうして、あんなことをしてしまったのか。いまだに自分が理解できない。あんなことをしなければこんな目に会わなかったのに。ソレをやってはいけなかったという思いだけが今は残っている。

 その男は、観光としてとある場所を訪れていた。有名で人があふれているというわけではないが、そこそこの観光客はいる場所で男はほんの少しの遊び心を思いついた。

(そうだ、この木にほんの少しだけ傷をつけてやろう。俺がこの場所に来たという証だ。観光客も人も少ないし、バレはしないだろう)

 そんな軽い気持ちで、近くにあった木に軽く傷をつけてみる。それだけでなんとなくここに来た意味がある気がした。

 それから、男は川辺のキャンプ地へと足を運んだ。テントを設置して寝泊りの準備をする。

「あ~なんか、今になって嫌な感じが出てきた……」

 あの木にどうして傷をつけたのか。今になってほんの少しの罪悪感が芽生える。そもそも、器物損壊になると今になって思うのになぜあの時は傷をつけてやろうかなどと思ったのだろうか?

「まあ、いっか。バレないバレない」

 そう言い聞かせながら、男は眠りについた。

 それからしばらくして、ふと男は目を覚ました。テントの近くに誰かがいる気配がしたからだ。

「え、誰……?」

 不審に思いながらも声をかける。その瞬間、テントがビリビリと音を響かせながら裂けた。

「ひっ!」

 暗闇にじっくりと目を凝らすと何かがいると感じるが、その何かがうまく見えない。その何かはテントを切り裂いたと思うと、スゥとその姿を消した。

「な、なんだったんだ……」

 突然の光景に放心していると、耳元で小さな声がする。

「これで、おあいこ。おあいこ」

 それはしゃがれている様で透き通っているようで、男のようで女のようで、様々な年齢や性別に聞こえる声であった。

「おあいこ……? あっ……!」

 男は慌ててテントから出る。そして切り裂かれたテントを見ると、その傷は寝る前に自分が木につけた傷と同じ形だと気が付いた。

「お、おあいこ……」

 たまたまテントでおあいこと言ってくれたから何とかなったが、この傷が自分についたらどうなったかと思うと男はゾッとした。

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