【ニコ生配信小説】裕福な商社マンが、タイムバーゲンの列にいる。

 ギラギラとした品定めをする視線、決して欲しい商品を譲らないという気配。異常なまでの熱量がその場を支配していた。

「こ、これがタイムバーゲン……」

 黒崎はそのすさまじさに気圧された。

 優秀な商社マンである黒崎は、営業トップの成績を誇りお金も稼いで裕福な生活を送っている。そんな黒崎にとある仕事が来た。

【A社の主催するタイムバーゲン調査をしてほしい】

 その会社は黒崎の所属する会社とはそれなりに縁がある会社であるので、抜擢された黒崎はきちんと仕事をするべくA社へと向かった。

「やあ、黒崎君。よく来てくれたね」

 A社の社長がにこやかに迎え入れてくれたので黒崎も朗らかに返す。

「私でよければご助力をさせてください」

「助かるよ。タイムバーゲンは修羅場だからね~毎年大変なんだよ」

(修羅場?)

 実家も裕福であったので、黒崎は今までの人生で一度もタイムセールやタイムバーゲンを経験したことがない。そのため、社長の言う『修羅場』の意味がいまいちわからなかった。

 それから約1時間後。バーゲン会場に来た黒崎は、バーゲンを狙う老若男女の列を目撃した。

「大盛況ですね」

「来てくれるのは嬉しい限りだよ。でもね、黒崎君。危ないから外側から見ていようね。僕らの仕事はバーゲンが終わった後の調査だから」

「は、はい」

(危ないとは?) 

 商品が並べられ、レジには店員が立つ。そのレジ店員の顔は引き締まっており、妙な緊張感を持っていた。

「まもなく、タイムバーゲンを開始いたします!」

 その声とともに、扉が開く。その瞬間、客は速足で店内を歩き回りその場で目についたものをカゴに入れていった。その素早さは黒崎の想像を軽く超えるものであった。

「は、はやい……」

 それがひとりやふたりではない。10人20人単位、いやそれ以上の数が店内に入ってきて商品を次々とカゴに入れていく。ものの5分でレジに向かう人も現れた。

 レジでは店員がカゴから素早く商品を取り出してバーコードを読み込ませ、会計済みのカゴへと移していく。流れ作業ではあるがその手さばきは歴戦の猛者である。

「この日のために、いろんな支社から優秀なレジ店員を集めてきたんだよ~」

 社長はのんきにそう言っているが、黒崎はその素早さと手際の良さに驚きを隠せなかった。

 それから30分が経過したころには、商品はほとんど無くなり購入者の人々も帰って行った。まさに修羅場が去ったのである。

「いやあ、今回もすごかったね~」

「は、はい……」

「じゃあ、いろいろ調べようか」

 売れ残った商品や、客の導線の合理性などを検証する。そうしてみると、さらに驚くことが見つかった。客はあのものの数分で価値のあるものを見つけて的確にカゴに入れていたのである。残っていた商品はあまり需要のない物であり、あらかじめ売り上げが期待できない物ばかりであった。

「やっぱりお客さんってよく見ているんだよね~あの短時間でこれだけ選別できるんだもの」

「ですね……」

 調査の結果を記録して会社の資料とする。その作業を終えた黒崎は一言つぶやいた。

「タイムバーゲン……恐ろしいものだな……」

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