第10話「何者になろうと英雄愛好家の本質は変わらない」
今日は素晴らしい日なのだろう、なにせ花の入学式なのだから。とりあえず今日はクラス分けの発表と購入すべき教科書の一覧表の配布だけで半日で終わるだろう。帰りにヒロやサリーを誘ってご飯でも食べようかね?
「帰りに一緒に食べに行かないかって?いいぜ!」
ヒロは二つ返事で気持ちのいい答えを返してくれた。流石私の英雄様だ。元気系主人公を全力で謳歌している。
「えぇ、ちょうどわたすしも商店街の市場を散策してみたかったですし、いいですよ」
サリーも乗り気なようで本当に今日はいい日だ。私のお気に入りも眺めながら食べるご飯を美味しい。それこそ死に立ての死体の血を啜るのと並ぶくらい美味だ。
「それはよかった。では、同じクラスになるように祈っておきましょう?」
そう言って私はルンルン気分でスキップになるくらいの駆け足で校舎の昇降口の奥へと向かっていく。奥には掲示用のボードが置いてあり、そこにクラス分けが書いてあるのだ。現に、同じ一年たちがわらわらと集まっているではないか。
「人がたくさんですね」
どうしたものかとサリーは口に手を当てておろおろとしている。
「おい、俺たち見えないぞ!どけどけ!」
「そうだそうだ」
が、一方で遠慮やためらいなどと言う言葉は良くも悪くも知らないし、辞書にもないヒロとリンは並みいる一年生たちをなぎ倒して最前列へと向かっていた邪魔者はすべて投げ飛ばされてしまっていて、地面に受け身をとって倒れているものもいる。そこには慈悲が一切感じされなかった。
「え、えぇ……ま、待ってくださーい!」
サリーはその光景に絶句しながらどうあれ友人であるヒロとリンの後を追うことにしたのだが同級生たちの波に揉まれてサリーは窮屈な思いをするはめになってしまっていた。
「最前列に来れましたね……」
「そうだな……って、おーい!サリーも来いよ!」
同級生たちを押しのけて一番前に来た二人は後ろにいるサリーの姿を確認すると呼びかけてきた。すると、他の一年度もはさっとサリーから離れだした。
「え?えっえ?」
サリーが状況を理解できぬまま一年たちは道を譲った。その光景はさながらモーゼの海割り、あるいは大名行列のようだった。恐る恐るとサリーはその一本道を複雑な心境で歩いて行った。さきほどのように人混みに揉まれることなく簡単に渡れるのは枠なのだが、こうして自分も変人と同じとみられるのはなんかいやだった。不承不承 ながらサリーはヒロの隣に並ぶことが出来た。ヒロを睨みながら、しかしヒロ本人は何事もないかのようにけろっとした顔をしていた。
「それで、私たちのクラスは……」
「1年E組、みんな同じクラスだ!」
「パーティだったことが影響したのかもしれませんがみんな一緒でよかったですわね」
二人とも喜んでいるが、実際は私が裏で手を回していたにすぎない。マネーパワーはこの学園において絶対の力なのだ。クラスの割り振りを決めていた先生を見つけて同じクラスになるようお願いしておいた。まぁ、前にも言ったかもしれないが私にとって金貨(一枚約10万円)数枚くらい痛くもかゆくもない。足りなくなったら魔界の鉱脈から
閑話休題
「まぁ、なにはともあれ同級生同士これからも仲良くしていきましょう」
「そうだな。改めてこれからよろしくなリン!サリー!」
「「えぇ、もちろん」ですわ」
そう言って私たちは仲良く教室へと向かっていった。E組の教室はここ南校舎の一階の奥にあったはずだ。奥の方にはなにもないというか不便なくらいだ。中庭に出るにも校舎から出るにだって遠回りをしなければいけない立地になっているし、購買からだって遠いのだ。騎士学校にはカーストがある。それはコミュニティであれば必ず生まれる必要な制度なのだろう。ヒロはともかくとしてサリーも何故かあまり知らないのだが。まぁ、それはいいや。カーストは先ほどクラス割りで別れたAからEまでの五段階が存在する。この騎士学校ではあまりカーストの高さは重要視されてはいないように見えるがそれも一年だけだ。これが二年三年でも続く、あるいは下のクラスに落ちるとたちまち負け犬扱いだ。これでいじめが発生するケースも存在するとかしないとか。まぁ、私達は最下層のE組だが、まだ一年生だ。入りたてはまだ実力が伸びきっていないだけかもしれないと思われているから一年ではE組はそこまで問題視されない。精々が努力して学力と武力を身に着けて上のクラス行けると良いねと言われるくらいだ。教師もベテランが配属されることが多いとか。ヒロのポテンシャルだったらすぐに上のクラスに行けるだろう。サリーも後方支援の僧侶みたいな戦い方を身に着ければつぐにランクアップするだろう。私も実力を少し上げれば問題ない。ヨシッ!暇なときは考え事をする癖というのは便利なものだ。気づいたら目的地についているから。
「ここか俺たちの教室は……」
ヒロはそう言ってヒロはガラガラと音を立てて立て付けの悪いと見える教室の扉を開ける。扉の先には私たちと同じ制服に身を包んだ人が多くいた。扉を開けて入ってきた私達を最初は好機の目で見た来たがそれも最初だけです具に興味を失ってしまったようで各々作った友人同士と話に戻ってしまった。
「なんだか明るいクラスですね?」
「そうですね、活気があるクラスで退屈しなさそうです」
私はサリーの言葉を肯定しながらもため息をついた。偏差値が低いヤンキー校かのようにここは騒がしいのだ。ここで一年間過ごすと思うと気が思いやられるがこれも私の最高の英雄育成のため我慢しなければなるまい。割り振られた席に座りながら私は担任が教卓の上がって何かを話しているのを眺めていた。
校舎と校舎の間の誰にも見えない場所にて、貴族の息子である坊ちゃんの一人は鬱憤を晴らそうと一人毒付いていた。
「くそっ!何で僕様がEクラスなんだ!」
彼は侯爵家の八男として生まれた。八男というあきらかに家督を得られない立場であったが末っ子だったこともあって甘やかされて育った。故に与えらるばかりで失うことも与える経験など一切なかったのだ。我儘を言えばそれが叶うそれが坊ちゃんが今まで生きてきたぬるま湯すら熱く感じるほどの世界だった。それを今日Aクラスと言う初めて欲しいものが得られなかった挫折を経験したのだ。それはこのあってないようなプライドで塗り固められたこの男にとってありえない話だった。この世の終わりに等しい出来事だったのだ。故に納得できず、何に対して起こるべきか考えていた。
「くそっ……ん?あの女は?」
そこに偶然、通りがかったのは水色の髪をした少女だった。どこか大人びていてミステリアス。見る人が見ればその立ち振る舞いから一定の実力者であるとわかるだろう。しかし、そんなことはこのボンクラバカ息子には哀れなことに理解できなかった。
「見覚えがあるぞ……たしかあの男の横にいた女だ。きっと恋人なんだろう。僕様からAクラスを奪ったんだ。女の一人や二人いなくなったんでいいいだろ」
品のない笑顔を作りながら、坊ちゃんは女を犯すと決めた。そして、女がこの場所を横切った瞬間、女の手を引いて連れ込んだ。否、してしまった……
「感謝しますよ、子豚さん。あなたのおかげで久々にすっきりできそうです」
「は?」
黄昏の時、昼でも夜でもない曖昧な時間。その時間に用務員は庭の花壇の雑草を抜いて手入れしていた。その時、ふと頭に何か液体のようなものがついたのを用務員は感じた。鳥の糞に爆撃されたか?と考えながら頭のてっぺんを触れるとそれは夕日に照らされて橙色に照らされた液体だった。そして鉄臭かった。驚きの声が出ぬまま用務員は液体が落ちてきたであろう上を見上げた。そして、息を呑んだ。
そこには荒縄で首を括った少年が全身血まみれで屋上からぶら下がっていたのだ。急いで用務員は教員を呼ぶために職員室へと駆けて行った。
――――こうして、学園生活は幕を上げた。
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