第7話「二次試験:実技訓練・中編」

 釣り目と一律の長さに整えてある紫色の短髪も相まって厳格そうな雰囲気をただ寄せる監督官はその場にいるだけで緊張感を与えてくる。恐らく元騎士団所属の教官なのだろう軍人気質のようなものを感じる。

「……まず、知っての通り二次試験はこの森の中で行う。そして第一に受験生たちにはこの『魔晶石』を一人一つ付けてもらう」

監督官は片手を持ち上げて太陽光を反射して光る水色の水晶の首飾りのようなものを受験生たちに見せつける。

「これは一種の魔道具だ。持ち主の魔力波を吸収し、持ち主が一定の身体的被害を受けることで破壊され自動的に向こうの医療班が待機しているテントに転送される。その場合受験生は強制的に受験終了となる問答無用で不合格となるわけではないが後に詳しく説明するがペナルティがあるため心するように……」

そこで監督官は朝礼台の下を指差す。全員が一斉に同じ場所に視線を注目させる。そこには先ほど説明された魔晶石が箱に大量に敷き詰められていた。恐らく、人数分ピッタリあるのだろう。

「百閒は一見にしかずだ。まずは装備したまえ」

その言葉の後に監督官の横にいた教員たちが受験生一人ひとりに魔晶石は配っていく。

「おぉし!まずはあのカッコイイ奴もらうか!」

「かっこ……いい?」

あの修学旅行の男子中学生が買っていきそうなデザインの首飾りが!?……まぁ、ヒロだし、センスが小学生で止まっててもおかしくない。たぶんそうなのだろう。

「さて、全員に行き届いたかね?」

監督官は左右に首を振って舐めまわすように見渡してから握った手を口に当てて咳払いを一回する。

「それでもルール説明を続ける。諸君が持っている魔晶石にはクリスタルの内部で数字が見えるかね?」

首に下げていた魔晶石を手の平においてよく見てみると数字の『0』がデジタル文字のように白い光で映し出されていた。これは恐らく……

「諸君の中にはもうルールを知っている者もいるだろう。そう、この二次試験はその魔晶石に映し出されてた数字をポイントとし、その順位によって合否を決めることとなっている」

そう、そこがみそなのだ。この二次試験は何点を取れればいいという者でもない。真面目に受ける160名の中で100位以上を取れればそれで合格なのだ。だから、極論で言えば、マイナス点をたたき出しても自分より下の人間が60人いればそれでギリギリ合格なのだ。まぁ、そんなことはめったにないので地道に百何点取ればいいだろう。

「そして、点数を増やす方法として二つある。一つはこの訓練用の魔物を倒すことだ。一体25点となっている」

監督官の横には緑ががかった水色の鱗に覆われたを身長80センチほどの人型の魔物がいた。一般的に水辺に生息している『マーマン』である。個体そのものの危険度はそれほど高くなく一体だけなら訓練していない子供ですら場合によっては倒せることもある。そんな相手が試験に出てくるのはもう一つの稼ぎ方がメインであり、この魔物を倒すことによって点数を増やす方法は救済措置に過ぎない。

「もう一つのルールは同じ受験生の魔晶石を砕くことだ。この場合点数は100点だ。なお、この点数は魔晶石を砕かれた受験生の点数から引かれたものだ」

もともとこの試験の情報はあまり秘匿されていないため知っている人間が多数なのだがそれでも場には緊張感が自然と生まれてた。この場にいる全員が敵なのだ。しかも直接害してくるのだから、警戒しないはずがない。だが、全員が全員敵ではない。

「ヒロ君、ヒロ君」

「ん?なんだリン」

私はヒロに声をかけてある提案をする。

「二人で組みません?一人よりは安全ですよ?」

「それいいな!リンなら気が合うから安心して背中を任せられるし!……でもよ、その場合ポイントはどうなるんだ?」

ふむ、良い質問ですね。先ほど監督官は説明してこなかったが複数で組んだ場合はパーティとみなされて獲得したポイントは人数分で均等に分かれます。数が多い程有利ではありますが徒党を組んで仲良しこよしで合格できるほどこの試験は甘くはない。例えば、10人ほどで組んで魔物を倒せば一人当たり2.5点となり、人を倒せば10点となるはっきり言ってとても効率が悪い。そして、魔物の数はあまり多くはなく精々が十数体ほどでしょう。おのずと受験生同士の戦いとなる。これはそうゆう試験なのだ。騎士は魔物の相手もするがどちらかと言うと人間の犯罪者の方が多い。だからこそ、騎士団としては魔物相手の戦闘力より対魔法使いの戦力を見極めたいのだろう。

「二人ならばでポイントを半分ずつ分け合う形となります。つまりは二分の一となりますね」

「なるほどな、つまり魔物相手だと12点くらいか?人間相手だと50点ってわけか」

流石にこのくらいの計算はできるらしい。まぁ、商人を親に持っているから数字に関しては問題ないのだろう。なんか、ヒロの親の苦労が所々感じるが……気のせいだろう。

「よし、じゃあ頼んだぞリン!」

「えぇ、任されました」

そう言って私たちは互いの手をぶつけて無言の誓いを立てた。

「よし、諸君並びたまえそろそろ始めようではないか」

監督官の言葉に従って受験生たちは森の入り口に集まる。その様はリレーの開始直後に近いものがあった。

「……では、二次試験を開始する!!」

その言葉を皮切りに急ぎ受験生たちは追い立てられるように森の中を駆けて行った。リンもヒロも同じように少しでも有利を取るために時間に追われていた。


 土と葉っぱそして動物特有の匂いとで、人によっては不快感を覚えるであろう森の中木々の間を抜けて私とヒロは森の中をそれなりの速度で疾走していた。

「リン!そっちいったぞ!」

ヒロの声が聞こえ私は持っていた剣を両手で持ち直し、集中して辺りを見渡す。すると、三時の方向から切り傷だらけのマーマンが現れた。そのマーマンを逃がすことなく私は下から切り上げる形で剣を振るいマーマンを上下で斜めに真っ二つにする。剣の軌道上に心臓が来るよう狙って振るったのでマーマンは地面に倒れ伏し、地面のシミを新たに作る。

「やったな!」

汗をぬぐいながらヒロは喜びをあらわにする。

「えぇ、なんとかなりましたね」

軽く息を整えながら私は魔晶石を見る。やはり、人間の体は不便である。魔法によって身体能力もある程度この体の持ち主に合わせているのだがこれが酷いものだ。魔王として吸血鬼としてスペックの暴力をいかんなく振るってきた私だがこれほど人間の体が貧弱だとは思ってもみなかった。私はよく人間をやれてたものである。

「ポイント増えてますよ」

「おっ、ほんとだ。これで60点だな」

二次試験開始から二時間がたった。二次試験は昼には終わるため、開始時刻が午前九時だとすれば今は十一時。後一時間ほどしかないのだ。60点もあれば100位以下はないかもしれないがそれでも不安はある。それに順位が高ければ高いほど最初のクラスのレベルも上がる。別の最悪のクラスであろうとヒロがそこであれば私はそこに行こう。そこでヒロを成り上がらせる計画に変更すればいいだけだからだ。それはそうと魔物の数が減ってきた。そろそろ他の受験生を対象に……

「おいお前たち!」

すると、どこかから身なりの言い坊ちゃん風な豚……失礼、ただの肉袋が現れた。明らかに上から目線である。ふくよかな腹を震わせながら油びった気持ち悪い汗をかいている。しかも、身なりはかなりいいと来た。完全にコテコテのボンボン息子である。

「この侯爵子息の僕様にポイントを譲るのだ下民!」

その言葉に私とヒロはぽかんとしてしまった。阿呆だこいつ。どうせ騎士団に入るきっかけも厄介払いだろうな。

「なんで?」

「なんでもなにもあるまい。それが下々の役目であろう」

論理的思考が出来てねぇ……こいつ後で処分しよ。ここ最近殺人は控えてたし、良いストレス発散になるだろう。

「嫌ですけど?」

私も相手するのもばかばかしいのでさっさと醜いたんぱく質と脂質の塊にはご退場願おう。

「ふん!この僕様には向かうとは立場をわきまえん……」

そして、豚は青い流星となって医療班へと運ばれた。

「これで110点ですね中々いい点数になってきたんじゃないですか?」

「そうだな。じゃあそろそろ他の奴らと戦うか」

ヒロがそう宣言した瞬間、

「きゃあ!」

「うぐぅ」

「ヒロ君!?」

偶然通りかかったのか女子がヒロにぶつかって覆いかぶさってしまった。おぉ、言いご身分ですね主人公。ラッキースケベの気分はどうです?推定Fカップの爆乳につつまれてよかったぁでぇすねぇ?そのまま窒息しやがれ、そしてデカい乳の女も何らかの方法で死ね……

「ご、ごめんなさい。今退きますね」

「だ、だいじょうぶだ」

ピンク髪のおっとりとした雰囲気の女性は急いで下敷きとなっているヒロを認識し、慌てて退いた。対してヒロは鼻血を出していた、おう、幸せそうでなりよりじゃおっぱい星人。

「そんなにあわててどうしたんです?」

「えっ、実は……」

すると背後から強烈な魔力の波動を感じた。

「……どけ、下郎」

金髪の髪をオールバックにした顔の堀が深い槍を持った筋骨隆々の男が先ほど女性が来た方向と同じ方角から出てきた。明らかに戦う意思しかもっていないようである。どうやら、肉食獣の狩りを邪魔してしまったようである。

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