第6話「二次試験:実戦訓練・前編」

 その後、一次試験が終了して二次試験へと移行する運びとなった。試験が一区切りついたと言う事実に安堵した受験生たちはガヤガヤと受験会場を後にする。その後、私やヒロを含めた下級国民の受験生は学園内の寮部屋か近くの宿などを貸し切ってもらい一泊することとなった。残念ながら、貴族などの上流階級あるいは成金などの中流階級は迎えが来ていて別荘か、一等地の宿に泊まっていることだろう。あぁ、そうそう。学園内の寮に泊れるのは教育してくれた領主などが金を払っておいてある場合だけである。それ以外の受験生は残念ながら安宿に泊まるしかない。まぁ、三流の宿でも雨風はしのげるし、藁を包んだ袋のベットで寝れる。つまりは野宿よりはましレベルの環境に泊れるという訳である。学園側の配慮が見られますな。


 そんなわけでヒロは何のコネも後ろ盾もいないため強制的に学園側が貸し切っている安いぼろ宿に泊まることなった。一泊黄銅貨三枚(三千円ほど)である。無論、彼に合わせた方が何かと何かと都合がいいので私もその宿に泊まることとなった。こんな経験は冒険者時代以来である。

「いや~まさか同じ部屋になるとは思わなかったぜ。よろしくなリン!」

私とは反対側のベットに腰かけて元気はつらつにそう言ってくるヒロ。彼は偶然だとでも思っているのだろうが、実際はそうなるよう仕組んでおいたに過ぎない。まぁ、地獄の沙汰も金次第とはよく言ったものだ。

「えぇ、今後ともよろしくお願いしますねヒロさん」

裏表なく私は心の底からこの言葉を発した。なぜなら、今後もあなたは私の仕込んだ戦いに巻き込まれていくのでしょうから。ですが、入学までの少しの間は平和でしょうからそれまでせいぜい剣でも研いでおいてくださいね。

「そういえば、俺たちみたいに宿に泊まっている奴以外に学校に泊る奴もいたけどなんで別れてるんだ?」

ふむ、この国の唯一心教すら知らないくらいですから世間知らずなヒロならば当たり前の疑問でしょう。

「彼らは一言で言えば貴族に期待されている子たちですよ」

「?」

まぁ、これだけではわかりませんよね。まず、この騎士団養成学校の入学資格というのは国が発行している。強制ではないが生まれつき魔力を扱える才覚を持った子供は皆例外なく受験できる権利を得られる。そして、騎士とはちなわち警察組織そのものだ。国の犯罪などを取り締まり、脱税などを管理する組織なのだ。だからこそ、一つの土地を任されている領主は自身が有利になるよう物覚えが良いと思った子を一人か二人ほど自分の子息と同じように教育するのだ。そうして、騎士団に入ってもらい運よくポストなどに入ってくれれば領主たちは自分の一声で騎士団の一部を操れるよう画策するというわけである。少なくとも騎士団の中で偵察騎士になる者の多くは地元が大半なので自分の汚い部分を見逃してもらえるようにそうやって自身の駒として教育するのである。

「????」

「まぁ、ヒロ君には難しい話でしたかね」

私はヒロが頭から煙を出しているのを眺めながら紅茶を口にする。ふむ、市場で売っている安い茶葉も捨てたものではありませんね。

「かみ砕いて説明すれば、貴族のお気に入りの子だけの特権だということです」

「なんか……フコーヘイだな」

口をあひるのように尖らせて不平を訴える。

「そう思わっても仕方ないかもしれないけどそれでも社会は公平でも平等なければ……」

『弱者の自由すらない』

私は驚いてカップをソーラーに大きな音と共に置いた。その時の顔は見えなかったがきっと、笑ってしまうくらいおかしな顔をしていたのだろう。なにせ、私の言おうとしていたことをヒロは先読みしていたかのように発したのだから。この言葉は前世で以外に喋ったことがないからだ。もしかして……

「いえ、ただの偶然でしょう」

そう結論付ける。きっと、そうだろう。彼はもういないのだ。希望的観測で絶望するのはもう疲れた。

「ん?どうした?」

ヒロは何でもないような顔をしながら市場で買った夕食を食べている。

「なんでもありませんよ。ただ私の言いたいことを先読みするとは思えなくて……」

「あぁ、勘で分かった」

その言葉に私は思わずクスッとしてしまった。その日の夕食は久方ぶりに楽しいものとなったように感じた。


 そして次の日、ベットから服や体に張り付いてきたダニやらシラミやらをはたき落としながら朝早くから学園へと向かっていった。ヒロに限っては先ほどから頭を掻きむしっているためかぼさぼさ髪になってしまっている。せっかく顔だけはいいのだから容姿くらいは磨いた方が良いだろうに……身なりが良いと何かと便利だ。特に事件現場に遭遇しても犯行を疑われないとか色々あるだろうに、

「ヒロ君。二次試験について理解してますよね?」

どうせしてないだろうとは思うのだが一応聞いておく。

「え?全然知らねぇ」

「でしょうよ」

思わず考えが口から洩れてしまう。いつもならもっと言葉を選ぶのだがいかんせんこうゆう真っ直ぐバカが相手だと嘘をつくのが逆にばかばかしく感じてしまう。自然体で話せるという点ではある意味利点なのかもしれない。

「問題ないですよ。どうせ、これから……」

試験会場である学園近くの森に監督官三名がに森の入り口付近で仁王立ちして一列に並び始めた。

「説明がありますから」

「……静粛に」

その一言で受験生たちは無風の海の中のように静かにしなってしまった。

「これから二次試験、実技試験についての説明を開始する。騎士の卵たちよ心して聞くがよい」

三人のうち真ん中にいたリーダーのような眼帯の監督官が高圧的に受験生たちを首を曲げて見下すように話しかけてくる。

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