第2話「魔王と望まれた英雄」

 あの出会いを私はきっと未来永劫、運命に感謝することでしょう。そう思うほどに彼との再会は感動的であり、運命的であり、再び私の世界に赤色以外を与えてくれた出来事だった。その日私は血と求めていました。それは栄養補給とレベル上げ、そして自らの趣味を兼ねた狩りでした。適当に、そこそこ人数がいて、鍛えていそうな護衛を引き連れている商人の隊列を襲おうかと決めました。人数だけで言えば大陸全土の貿易や運輸業そして金融業の全てを担っているスイスイギルドの荷台を襲えばいいのですが、そうすると色々とリスクがデカすぎるので襲えません。まず、人数が多すぎるのと、強すぎること。ブリタニア王国の円卓騎士レベルの人員をうじゃうじゃとそろえている訳の分からないほどに潤沢し過ぎている人員数。そして、襲っても得られるものがないこと。例え、彼らを倒して血を吸ってその力を吸収したとしてもメリットなんてデメリットの方が1桁と万程に違いすぎる。なにせ私はスイスイ銀行に全財産である金貨たちを預けているのだ。スイスイ銀行の鉄壁神話はここ数百年聴くに飽きないほどに素晴らしいものだ。それこそ、今までどの国もこのギルドを敵に回して経済制裁に耐えられない者はいなかったのだから、魔王である私のように武力的な強者なのではなく、権力的、経済的な強者なので敵に回さないのが一番でしょう。触らぬ神になんとやらです……


閑話休題


 さて、長々とスイスイギルドについての話をしてきましたがようするに小さすぎず大きすぎない商人の一団が良いという訳です。その条件が満たされている馬車の群れを探そうと吸血鬼となった際に身に着けた猫やネズミ、カラス等の動物を眷属化させて、その視力を借りる魔術を使用して私は近くの森の中でちょうどいい切株をイスにして獲物を探していました。この魔術、遠くを監視できるのはいいのですが自分が動けないことと、共有できる視界が眷属の中の一体だけでしかも共有中は自分の視界を閉じていなけらばならないと中々代償が多いのが難点です。これは戦争などの長期的な戦闘では役に立ちますが、決闘などの戦いでは役に立ちませんね……などとこの魔術に実用性について考えていると、一体の猫がある一団の姿をとらえる。その一団は冒険者を雇っていて4人ほどのパーティーだ。眷属の位置の問題で冒険者としてのランクが刻まれているドックタグは見えないがそこそこのベテランであることがわかる。そして、一番弱い護衛対象の商人はというと中年の男性が一人。奥から少年程の男の子が一人の計二人の姿が見える。なんとなく、今日の獲物は子の一団でいいかと何となく決めた。どこかで時計が時を刻むチクタク音が聞こえてきた気がした……


 馬車が通るであろう場所に先回りして、待ち構える。そして剣を構えておく……ちょうど馬車が横を通った瞬間に龍の魔術……ドラキュラから教わった魔王の剣技の一つを放つ。


龍の咆哮ドラゴニックシャウト


魔力を剣に集約させその塊を斬撃として剣の振った先に飛ばすという技……つまるところ、漫画やアニメなどでよくみられる飛ぶ斬撃と言うやつである。初めてドラキュラと出会った時に本人が使ってきた技もこれだった。あの時は死なないように耐えるのが限界だったが今では自分自身で放つことが出来るようになった。確かな自身の成長を感じて私は何処か嬉しくなった。

「さて、混乱していらっしゃいますね?」

無理もない、いきなり護衛対象がやられたのだから状況を理解できないのも仕方のないことだろう。まぁ、戦場の上ではそんな油断許されるわけもないですが……横転した馬車を囲んでいる冒険者の集団に私は姿を現すように木々の影から姿を現す。

「貴様が襲撃しゃ……」


【龍の鉤爪・改】


パーティの中でもリーダー格の男が何か言っている間に私は仕込み杖を納刀し、踏み込みのエネルギーと魔力の強化によって超高速で敵に近づき、居合の要領で剣を抜刀する。魔力を纏わせて強化された剣戟は容易に人の首を宙に踊らせて、血しぶきが絵の具の作品のようにあたりに飛び散る。そして、他のパーティーメンバーが反応する前に、横に踏み込み隣の戦士のような斧を持った鎧の男の胴を斜めに両断する。さらに、反対側にいた魔法使いのようなローブを着込んだ尖がり帽子の女の柔らかい肉を布にハサミを添わせるようにいとも簡単に切りしてしまう。その三連撃の斬撃をルナは瞬きするほどの時間で全てこなしてしまった。残るは、僧侶風の回復担当だろうか?の女だけである。

「さて、独りぼっちになってしまいましたねマドモアゼル?」

「へ?」

一瞬女性は呆けたような顔をした。たったの数秒で仲間が死んだことに気づけなかったのだ。やがて、女性は状況を理解したのか腰を抜かして地面に膝を曲げて座り込んで小刻みに震えだした。その姿は古い洗濯機に似ていて何処か滑稽だった。

「そんな……嘘……化け物……」

女は泣きだし、碌に動かないであろう腰を動かそうとして後ずさろうとしていた。そうして魔王ルナは実感する。自分がこの女の命の決定権を握っているのだとその命を奪うという悪にルナは意地の悪い笑みを浮かべていた。

「えぇ、マドモアゼル私は化け物ですよ。ですが、空腹に飢えているわけではないので別に一人くらいいなくたっても問題ありませんよ……」

その言葉を聞いた瞬間に女は転がるほどの慌てぶりでこの場から去ろうとしていた。そして、ルナは文字通り動かずその場にじっとしたまま。逃げ出した白魔導士の女は森の奥まで逃げることが出来た。その瞬間に女は生き残ることが出来たという生存の喜びをかみしめるように笑みを浮かべた……目の前に魔物の群れが現れるまでは……その瞬間に白魔導士の女は何かを悟った。その流した涙は何の感情からか……

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

女の絶叫は森の奥、そのまた奥まで響いていった。それこそ魔王の耳に届くほどに……

「あぁ、素晴らしいですねぇ……白い希望のキャンパスが真っ黒な絶望の単色に染まるいい色だァ……」

空を仰ぎ、ルナは欲望が満たされる感覚に喘いでいた。やってはいけないと悪行であるとわかっているからこそ、ルナはよりこの感動が強くなると知っているのだ。

「さて、貴方だけですね少年ギャルソン

そう言って馬車から投げ出された少年に向き合う。少年は今やっと意識を取り戻したのか、冒険者だったもの達を見て一瞬驚きを露わにする。が、それは一瞬だけですぐさま気丈な戦士ような顔になった。間違いなく相応の修羅場を経験しているなとルナは感じた。もしかすればとルナは期待に胸を躍らせた。

「……お前が殺したのか?」

「えぇ、そうです。と、お答えした場合あなたはどうするつもりですか?」

「決まってる。お前は裁く……」

その答えはルナは聞く前からわかっていた。ないせ、少年は冒険者の亡骸から斧を剥ぎ取って持ち構えていたからだ。明らかに交戦するつもりだった。

「実力差はわかっているのですか?」

「考える前からわかってるよそんなの、でも……彼らは俺の命を金の為とはいえ守ってくれていた。だから、ここで逃げてはいけないんだ」

その言葉は彼のようだとどこかルナは思った。前世での親友ならばこうするこう言うだろうとまるで本人かのような行動を見せる。素晴らしい心がけだ。その善意、正義感、無謀さすべてがルナ好みだった。あとは諦めを淘汰できるかどうかにかかっていた。

「では、かかってきなさいムッシュ」

「俺はムッシュじゃないヒロだ!」

そう言ってでヒロは斧を振りかぶってルナの足を体を狙ってきた。そうだろうとルナは察していた。対格差から有利を取るに動きを潰すしかないからだ。ルナは逆手に持っている仕込み杖を納刀したままの状態で振り回し、下から打ち上げるようにヒロの肘を狙う。ヒロの肘の付近は鈍い音を立てて斧を手放なしてしまう。

「グぅ……」

すると、どうだろうヒロは折れていない方の手で殴りかかってきたではないか。これにはルナも笑みを隠しきれなかった。

「勝負は決したと思いますがまだ続けるつもりですか?」

「俺が武器落としたからなんだってんだ……まだ拳が握れるぞ、歯も折れてねぇぞ、足も生きてるぞ!」

死ぬまで心がおれないつもりのヒロの姿を見てルナは静かに呟く……

「合格です……」

杖でヒロの喉仏が出来るであろう場所を叩いて吹き飛ばす。勢いのまま飛んでいったヒロは背後の木にぶつかり、気を失ってしまう。ルナは近づいて脈と呼吸を確認して無事であることを確認する。そして心の中でもう一度決意を確かにするために発した


――――この子だ……。この子にこそ私の英雄様はふさわしい……

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