第10話「英雄愛好家の基準」

 まず、私が魔王となり、英雄と愛し殺し合うための準備として始めたのは兵糧の備蓄でした。まぁ、貯蓄と言ってもいいかもしれません。吸血鬼という種族に変化したことに伴い。吸血鬼と言う存在を理解する為に少しばかり私はドラキュラの遺産である城の図書館の中に籠ることになりました。おかげでたった10年で様々なことがわかりました……あっという間でしたね……あぁ待って待ってこれは完全に感覚が上位者になってしまっていますね。まぁ、いいです。私が魔王という存在になれているという証拠ですから喜ばしいことであると受け止めましょう。


閑話休題


 そうしてドラキュラの過去の研究結果などを調べて分かったことは様々でした。まず、吸血鬼は年を取らない。これはまぁ、私としても前世の吸血鬼の鉄板だから外さないだろうとは思ってはいました。ですが、その次には流石に驚かされました……銀も木の杭もましてや太陽も効かないし何があっても復活する。記録が正しければ体を溶岩の中に突っ込んでも死ねなかったそうです。何があっても新しい体が復活する魂が存在する限り……これは驚きですね。吸血鬼は強いが弱点が存在しない種族と言うイメージでしたがたった一つの条件を満たさない限り死ねないというのですから。まぁ、伯爵様との修行の日々を思い出すと太陽にも焼かれてませんでしたし何なら見た目相応に日向ぼっこしている時ありましたからね。そして、吸血鬼、もとい魔王と言う存在が死ぬことが出来る唯一の条件こそが『自身と何らかの絆を結んだ相手に殺されること』そうすることで魔王いう存在をこの世もろとも引退すること出来るのです。あぁ、なんて……なんて……素晴らしい呪い《祝福》なんでしょう……。愛する英雄様に殺されたい私のような存在にこそふさわしい絶望の呪いではありませんか?ですが、ここで一つ問題があります。そう、それは私が死ねば英雄様に呪いを残すということです。これについては問題ありません。勝手に魔王化しててくださいな、寧ろ吸血鬼の呪いを残されたことで私を恨んでくれることで私と言う存在を覚えててくれるかもしれませんから……まったく独りよがりで最低の悪人ですね……私は……あぁ、そうそう。吸血行為についてですが、これは食事と言ってもいいでしょう。普通の人を同じものを食べられない、正確に言うならば食べても味がしないし栄養として消化できないかわりに、人ひとり分の血液だいたい4.6リットルを一度に牙から吸うことで一月は飲まず食わずで活動できるようになるそうです。吸血鬼であった張本人様の研究結果がそう言っているので信憑性は高いのでしょう。ついでに言えば、血を吸った瞬間に自分の体の負傷を完治させることもできるそうです。そして、ここからが重要なのですが吸血衝動、つまりは飢えは月一の頻度で訪れるそうですが事前に血を吸っておけば問題ないそうで、それは血を吸った人数に比例して飢えない期間も増えるそうです。つまりは、前もって血を体に蓄えておけば今後は飢えなくて済むということです……飢えないということは素晴らしい。あんな経験は二度とごめんですから……

 

そして、話は最初に戻ります。血を貯蓄するという建前を使って……

「殺しを正当化させるのは気持ちが良いですねぇ~」

死に物狂いで襲い掛かかって来る魔族の青年を私はドラキュラの持っていた仕込み杖を抜刀することなく杖の状態で小手を叩いて剣を振り落とす。そして、横に薙ぎ払って片目を潰し、痛みにひるんだすきに首元にかぶりつく。これまで何度も人間の血を吸ったことがありますが魔族は初めてでした。まぁ、とても味わい深くていいですね。人の血が赤ワインだとすれば、魔族の血は白ワインの味ですね。あぁ、魚介料理を食べたくなってきましたね。この襲撃の後に人間の町まで降りて酒場でアヒージョでも食べることにしましょう。そんな風に考えていると魔族の青年は干からびてミイラになってしまうのが見えた。私はもう用済みだと判断し、牙を首から抜いてミイラをそこらへんに投げ捨てました。殺せればそれでいいので、死体には用はありません。さて、首を血抜き死体から燃える村々へと向ける。あちこちで憎悪が、憎しみが、怒りが、悲しみが、絶望が、聞こえて見えて感じて私の五感を楽しませてくれる。その地獄の前で私は思う。なんて、なんて悪いことをしてしまったのだろうか私は……気持ちいなぁと。罪悪感はある。悪いことだとも思う理解もしている。だからこそ、私はその背徳感がたまらなく滾るのだ。もっと悪いことをしよう。もっと人を殺して罪の意識と快楽の間に挟まれて苦しみ続けよう。そうすれば、いつか正義のヒーローである英雄様が私を罰してくれるから……それがから私を形作るある方なのだからそうでないと私は……

「いけませんね、感傷は……」

約束はもう果たされないというのに……。こんな時こそ、気分転換にもっと殺しましょうか。私はそう結論付けて燃えている村を横切りながら生きている人間を探す。村の周りには結界の魔術をかけたので脱出することは難しいはずだ。もしできたとすれば騎士団の円卓騎士隊長クラスか、上位の冒険者くらいの者でしょう。だからこそ、村を放火させて隠れている紫色の角猿どもをあぶりでしているのです。隠れていても村は燃えて焼け死ぬだけ、村から脱出したければ私を説得するか殺すかの二択しかない。デスゲームというわけです。画面越しにルール説明とかしてみたいですね……

「かかって来い!魔王!お、お前なんて僕が倒してやる!」

なんてくだらないことを考えていると勇敢な少年が鉄剣を構えて私の前に立ちふさがって来る。なんと!こんな英雄候補が村にいたとは……この村を襲撃してよかったかもしれませんね。

「ほぉ?いいでしょう。かかってきなさい少年ギャルソン。あなたの強さを私に見せてみなさい!」

もし私があなたの心が強いと判断すれば未来の英雄様として教育して差し上げましょう!未来の魔王の権利はすぐそこですよ!

「やぁぁ!」

少年はあまりにもわかりやすい直線的な攻撃をしてきた。しかも、そこらの死体から拾ってきたのか剣を振るっているというより、剣に振り回されているという感じだった。それでも、私は貴方の勇気を認め、できる限り全力で応えましょう。少年の剣を杖で受け止め、逆手で持っている状態から剣を手放し少年の剣の反対方向へと回り込むように回転させて別の手で順手になるようにキャッチする。そして、少年の手をちょいと押してやる。すると、反対の方に力を入れていたのでするりと少年は剣を手放してしまう。鉄の剣はザクッと雪の中に型を作りながら落ちてしまう。

「うぅぅ……」

するとどうだろう。少年は目に涙をためて地面に尻を付いて座り込んでしまう。少年の足元には血とはまた違った匂いのする体液が雪にしみ込んでいた。

「どうしましたかギャルソン?あなたにはまだ手も足も口も頭も残っているではありませんか?剣を拾うなり、素手で戦うなり、方法はいくらでもあるでしょう?」

「無理だよ……勝てないよ……助けてママパパ……」

少年は泣いて助けを求めていた。その姿は圧倒的な絶望と言う現実の折れてしまっていた。

「あ”?」

諦めの境地に至ってしまった姿がこの狂人の逆鱗に触れてしまった。普通の魔王ならばここで落胆と共にとどめを刺すだけであるがルナ……英雄愛好家めんどくさい奴は違った。ルナは少年を蹴り飛ばして地面に寝かせてしまう。そして、杖を繁多の方、カラスの頭が付いた持ち手の方で生かさぬよう殺さぬように殴り続けた。

「ぐっ……痛い……やめてください……お願いしますお願いします」

「うるさい口ですね」

「もごご……」

少年ミハイルの懇願をハエの羽音程度にしか感じていないルナは足先をミハイルの口に突っ込んで無理矢理黙らせた。

「いいですか?英雄とはね!頑固なくらいに諦めが悪くて!力だけではなく心が誰よりも強くて!それでいて一度折れても何度でも立ち上がってくるような!そんな存在なんですよ!!」

ミハイルは自分を英雄だと入っていないし、そうゆう立場であるわけでもない。ただ一方的にルナが英雄候補に選び一方的に怒っているだけである。まさしく理不尽そのものである。しかし、そんなことはルナは一切気にしていないし、興味もなかった。ルナにとって自身の英雄であると殺人と自分の死以外に興味を持たないのだから、それ以外の事柄は学んだり理解することはあっても共感することも興味を持つことなどありはしないのだ。だからこそ彼女は魔王にふさわしいのだろう。いつしかミハイルは声すら上げず、叩かれたも体が反応しなくなった。

「ふぅ、まったく散々な一日でしたね。やはり、私の求める英雄様の代わりになる人物は中々いませんか」

それでもルナは諦めるつもりはなかった。英雄に殺されず、覚えられない人生など彼女にとっては何事においても恐怖すべきことなのだから、より多く求めるのであれば彼女ルナは彼にこそ命を奪って欲しかったのだ……

「あぁ、なぜ死んでしまったのか……愛する人モナミよ」

ルナは前世での自分の原点を思い出す……

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