第4話「英雄愛好家は出会う」
魔王。それは多くの人がイメージする悪の代名詞だろう。私としても昔から勇者にやられる魔王という妄想シチュで何度もベットのシミを作ったものだ。そして、魔王と言う存在はこの剣と魔法のファンタジー世界でも当たり前のように存在している。冒険者として活動しているとおのずといろんな情報が集まって来た。その中には魔王に関する者も多くあった。たまたまお酒の席で知り合った教会所属の生臭坊主をべろんべろんに酔わせて魔王に関して話をさせたことがある。曰く、
「魔王って言ったってねぇ?ここ50年一切活動してないんだぜ?俺だって直接この目で見たこともねぇよ。俺含めた若い奴なんて『魔王なんて昔の話だ。年寄り共が怖がってるだけだ』って感じさね。でも、そうさなぁ俺が爺さんの頃に聞いた話だと、前の魔王を倒そうと昔の騎士団長様がどでかいドラゴンと戦ってその結果そのドラゴンに呪われて今の騎士団長様は魔王ドラキュラになっちまったって話だ。あ!これ、教会でも秘密事項なんだけどよ、今の魔王って奴は人様の生き血を啜る怪物だって話なんだと。これ、ここだけの話だかんな嬢ちゃん?こんだけ話してやったんだからさ、今晩俺と熱い夜を……」
その後、この生臭さ坊主は近くの運河でどざえもんになって発見されたそうだ。理由はわからない。まぁ、運悪くシリアルキラーの快楽殺人鬼でも夜に誘ったのだろう。おかげですっきりした。ふぅ……
閑話休題
長々と魔王について語ってしまったが、つまりは、こうだ。
・魔王は吸血鬼である。
・伝説では元騎士団の人間だった?可能性は大。
・昔は人と戦争をしていたが今は(少なくとも人間にとっては)長い休戦状態
と、いうことが箇条書きだがわかる。私はこれになりたい。なぜかって?魔王の方が私の目標である英雄との殺し愛の上でとても便利な立場だからだ。あとは、私のような狂人は人間社会では何かと不便だ。故にいっそ、化け物側に落ちてみるのも一興だろう。そう思ったが吉日私はヤリチンくそ野郎の頭を真昼間にはねた後、街を脱出して、事前に図書館で調べた魔王の居場所へと向かう。どうやら、教会監督の資料通りならば北の厳しい大地に魔王の根城があるらしい。人が住むには厳しい地なので、魔力さえあれば生きていける特殊な生物、魔物や知能のある魔物である魔人以外は生物らしい生物はいないらしい。誰が呼んだか、人呼んで『魔界』。これから私のような人でなしが向かうところだ。
かくして私は人も寄り付かぬような極寒の地へと赴いた。なけなしのお金で寒さ対策の防寒具や食料、その他もろもろのサバイバル用具を一式そろえて猛吹雪を吹き荒れる山道を登ってゆく。最初こそ、雪を踏んだ時のザクザクとした音を心地よく感じていたが、雪をかき分けて道なき道を進んでいくにつれて私の心は吹雪の空模様と同じように灰色となっていった。前が見えず、渋々魔力探知で周囲の方角を認識する。ふと、目の前に人型の誰かがいることに気が付く。それは魔力探知で空間を認識したからこそわかったことであった。
「……誰でしょう?」
「……それを問うべきなのは吾輩の方であろう」
目の前に立っている男はいかにもな貴族風ないで立ちであった。くるぶしに着きそうなほどのマントを付けた燕尾服にシルクハット。片手にはカラスの顔をかたどったステッキを持っている。そして、顔が青白いまるで死人なのかとすら思うほどである。そして牙もある。それらの条件から、前世での記憶が彼を誰かなのかはっきりさせた。
「ドラキュラ伯爵……」
彼はまぎれもなく私が探していた魔王そのものであった。
「ほぉ、吾輩の名を知っているか。ただの迷子ではあるまいな貴公?だが、伯爵か、言い得て妙なものだ。確かに吾輩は王ではなく領地を持つ伯爵と呼ぶのがふさわしいのかもしれんな」
男、いや、ドラキュラは私が伯爵と言ったことに対して何やら考え込んでいた。その隙に攻撃して、眷属にしろとでも脅迫してやろうかと考えていた。この雪山を登ろうとした時からその腹積もりだった。そう、だった。立ち振る舞い、構え、昼間に殺したくそ騎士やろうなどとは比べることすらも馬鹿らしくなるほどに強い。自分すらも……まさしく
「あぁ、すまぬな。如何せん独り身故考え事をする時は物思いにふける癖が出来てしまっていてな、それで?何故吾輩を知っている?吾輩を探していたのだろう?」
「えぇ、その通りですよムッシュ。あなたを求めて私はここまで来ました」
その言葉にドラキュラは「ほぅ、」と珍しいものを見るような目でこちらを見てくる。
「そうかそうか。珍しいものだ吾輩に客とは……貴公も、魔王を打ち取った英雄の称号を求めてやってきたのか?」
そう言いながらドラキュラはステッキから隠していたであろう剣を抜いた。
「いいえ、違いますムッシュ。あなたのような魔王となるために私はここまで来たのです」
「なに?」
流石に予想外なのかドラキュラは困惑気味な声を上げる。
「ですから、ムッシュのような魔王になるためにここまで来たのですよ」
ここでためらっていても無駄なのではっきりとドラキュラに願望を吐き出す。その気品ある姿、いいですね!魔王とは違うかもしれませんが、なんか頭のいい悪役感あって憧れますね。
「ぷっ、あはっはっはっはぁ!いぃひひひくあははっは!!」
突然、ドラキュラは腹を抱えて大声で笑いだした。それはもういきなりだった。ドラキュラの笑い声は吹雪に負けることなく周囲に木霊する。
「面白いあぁ、まったく腹がよじれるわ……失敬。いやなに、いままで魔王を倒す勇者となるべき吾輩に会いに来るものは数多くあれど、後釜になりに来るものは初めてである。よかろう、弟子にしてやろうではないか」
「本当ですか!ムッシュ!?」
私は喜びを隠さずに両手を上げて喜んだ。
「だが……」
ドラキュラは片手で持っていた仕込み杖の刃で斬りかかって来る。
「……!!」
「それは吾輩との力の差を理解してからだ」
私は咄嗟に剣を抜きながらドラキュラの正面から半歩ほど横にずれて、私から見てドラキュラの眉間を通るように剣を振り下ろす。剣を振り落とした先にはドラキュラの手首があった。まずは武装を解除しようとする。が、
「甘いな、そのような小手先のテクニックが魔王に通用するとでも思ったか。たわけ」
流石は魔王、見事に当たった私の直剣は手首にあたったはずだというのに傷一つなく弾かれてしまった。よく、見るとオーラのようなものがドラキュラの手を覆っている。恐らく、魔力で体を守ったのだろうとあたりを付ける。
「なら!!」
すかさず、私はドラキュラの顔めがけて魔力で強化した銅貨を指で弾いく。
「ほぉ、小手先とは言ったがなかなかどうして興味深い技ではないか?」
ドラキュラは持ち前の反射神経で首をひねることで避けてしまう。しかし、銅貨がかすった頬にはわずかな切り傷が残っている。ドラキュラは傷から垂れている赤い自身の血液を指で拭って舌でなめる。
「しかも、これはグールの血か。なるほど、考え込まれているな」
心の底からドラキュラは感心したのか、ぱちぱちと手を叩いてこちらを称賛する。顔を見る限りは嘘ではないようである。
「面白い技を見させてもらった例だ。見せてやろう。魔王の御業をな」
そうゆうとドラキュラは反対の手で持っていた鞘を雪の中に投げ捨ててしまう。そして、両手で剣を構えはじめた。そして、剣に膨大な魔力が集まる。
「一つだけ、忠告しておこう。死ぬでないぞ」
ドラキュラは剣を振り上げて、ただ下ろした。
【
それは暴風だった。全身がかまいたちのように切り刻まれ、その勢いに体がその場にとどまれず、はるか後方まで吹き飛ばされてしまう。やがて、崖の岩肌にぶつかって岩肌に一か所人が入るくらいの小さなヒビが刻まれる。そのビビの中心点に私がいた。
(これが、魔王の力……すごいですね……)
痛みでも、嫉妬でもなくこの技を喰らった時に抱いた感想は感嘆の一つだけだった。やがて、あまりの力の差に乾いた笑みすら浮かんでくる。
「原型をとどめていおるな、素晴らしい咄嗟に魔力で全身を守ったのだろう。では、改めて問おう、貴公は何故ここまで来た?」
私は痛みを無視してドラキュラの言葉に噛みつく、
「魔王になることですよ、ムッシュ……私は英雄に殺されたいんです」
ドラキュラは私の消え入りそうな声を聞き逃すまいと目の前まで近づいてくる。
「ほぉ?」
ボロボロになってしまった剣を地面に突き立て何とか立ち上がる。視界が真っ赤に染まっているが関係ない。
「英雄に、悪として、一人の存在として残りたい。それが私の生きる意味!!!私の存在意義だ!!!!!!!!!!」
全ての力を振り絞り前を見据えてドラキュラに殴りかかる。剣を杖にして力の籠らないなよなよとした拳は触る程度の力でドラキュラの胸を叩く。そして私は脱力と共に倒れてしまう……かに思われたが、片手でドラキュラが私の腹のあたりを支えてくれる。
「お主の覚悟しかと受け取った。明日から励むがよい。我が眷属よ」
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