第0章――――その時、魔王が生まれた
第2話「転生した英雄愛好家」
ガタガタと馬車後部の客室が揺れ動いている。私の身体は精神とは無関係に泣き叫んでしまう。
「オギャーオギャー」
あぁ、まったくこんな場所で泣くとは情けない。穴があったら入りたいです。
「よしよし、ごめんね。今は馬車の中だからねルナ」
『ルナ』それが今世での私に与えられた名前。娘に対し『狂気』の意味を冠する言葉を名付けるとはいやはや、個性的で私にはない感性だと思う。そうそう、前世では私は男だったがなぜか女性として生まれ変わってしまったようです。まぁ、性別など私の前では誤差の範囲内でしかありませんよ。それよりも、転生。何とも素晴らしく甘美な響きか!私などと言う存在を作った神はあまり信仰はしてはいませんでしたが、どうやら私の願いを聞き入れてくれたようですね。謁見する機会があれば、ぜひともお礼として殺してさしあげたいですね。
「あう、あう……」
「あっ、泣きやんでくれたよかったぁ」
しかし、赤子の体と言うものは大変不便でございますね。どんなに言葉を発しようとしても喋れませんし、自然と泣き声が出てしまいます。目もほとんど見えませんし……なにより、おしめを変えてもらうのが何より恥ずかしいのです。
あれから、十何年の日がたちました。今や私も立派な14歳。
「あぁ、やっとこの家から出られます」
朝ベットから這い上がると静かに口角を上げる。そう、やっとだ。やっと一人で生きていられる位の年齢になれた。この日が来るまでとても長かった。やりたくもない勉強をさせられたり、大きくなったら騎士隊のエースとか言うさわやかイケメンな奴と結婚することを勝手に決められたり、などなど色々ストレスがかかることに耐えてきたがそれも今日が最期だ。そう、家族との別れだ。固く決意を露わにしながら私は着替えを済ませて寝室を後にする。
「あはようお姉ちゃん。今日も早いね」
弟のエドモンドが隣の部屋から出てくる。
「エドモンドそれを言うのであればあなたも大概早いのでは?」
「ははっ、違いないね」
軽口を叩き合いながらも私達姉弟は両親が待っているであろう食堂へと向かう。余談だが、元から丁寧な口調なこともあってか女性であっても違和感ない言葉遣いで生活できている。
「うむ、今日も私の子供たちは元気な姿を見せてくれているようで何よりだ」
食堂では案の定両親がテーブルの一番奥の席に向かい合うように座っていた。大抵の貴族では両親が育てるのではなく、乳母やメイドが子供を育てるものだがこの家は一代で成り上った貴族と言うか……騎士隊長である円卓騎士を輩出した一家である。それ故か貴族としての領地も爵位も持ち合わせてはいない。だがそれでも騎士団として稼いだ資金で成金となったのが我が家だ。つまり金持ち一家である。山奥のこの屋敷にもちらほらと少ないながらも私兵が警備として家を巡回しているのをよく見かけます。そうそう、この世界で生きる上で必要そうな知恵を色々学んできましたがその中でも傭兵と冒険者は違うそうです。『冒険者』とはダンジョン探索や魔物の討伐をなどの仕事をこなす人のこと。対した『傭兵』とは戦争などでやとわれて戦う人のことだそうです。それらとはまた違って国に正式に雇われた戦闘員のことを『騎士』と分類されるそうです。騎士は前述した二つの職業とはまた違い、国から認められた才能ある子どもだけが通うことを認められた『騎士養成学校』を卒業しなければならないそうです。その中で私はまず冒険者となることを選びました。なぜなら、自由そうですし、これから私は地位も家も財産も、家族も失いますから、犯罪歴さえないことを証明できれば誰でもなれる冒険者はうってつけだと思いました。
「そういえばルナ。来月だなお前が騎士養成学校に入学するのは?」
「えぇ、そうですねお父様。お父様に負けないくらい強い騎士になって見せますよ」
パンをちぎって口にしながら笑顔で受け答えする。残念ながら、父親の期待通り騎士になるつもりなど毛頭ない。別に騎士という階級が嫌いなわけではない。むしろ、好きなくらいだ。騎士の仕事は国内の警備が主だ。つまりは前世で言うところの警察だ。元々殺人鬼として追いかけれてきた側としては親近感すら感じる。彼を思いだして騎士になっても良いとすら考えもいました。それでも、輝かしいエリート人生をどぶに捨ててでもやりたいことがあるのですよ……
「いいなぁお姉ちゃん。僕も学校行きたいなぁ!騎士になって悪い奴を倒してやるんだ!」
「ふふふ、エドモンドには少し早すぎますね。後三年ほど待たなくてはいけません」
そう言いながら父のおねだりして買ってもらった腕時計を確認する。そろそろか……
「ルナ、そろそろ稽古の時間だ。食事を食べ終えなさい」
「えぇ、そうですね。食事の時間は終わりです」
私は立ち上がると同時に私兵が食堂に駆け込んでくる。どうやら彼は私のサプライズに気が付いたようである。
「おい、どうしたそんなに慌てて……」
「大変です!屋敷の裏山からならず者だちが来ております!!」
その言葉に父は驚きを露わにする。
「なに!?この屋敷が我らアインズ家のものと知っての狼藉か!?何人だ!」
「それが……」
警備の兵はいいよぞむ。
「何人だと言っているのだ!」
「百人ほどです!!」
自分でやっとおいてなんですが、やり過ぎましたかね?この屋敷の兵を相手させるだけなので50名ほどで良かった気がします。
「百だと!この屋敷にいる警備でも怪しいな」
この屋敷に警備についてよく理解している父は冷静な判断を下した。すなわち、負けるということである。
「はい!いま交戦中ですので旦那様たちは今すぐに非難を!」
「あいわかった」
警備の者たちにとって一番の目的は護衛対象の無事である。それさえ無事なら、警部の者たちが例え傷ついても明日の食事は何とかなると信じているからだ。まぁ、何が言いたいかと言うと警備の者たちの必死の抵抗は今こうして無に帰そうとしているということである。
「おい……ルナなにをしてる?」
父は困惑したぽかんとした表情を浮かべてこちらを見てくる。それはそうだろう。今しがた部屋から出ようとしたら私が扉を閉めて鍵をかけてのだから。
「何をしているかと聞かれましても……言うなれば、本懐ですかね?」
「何をふざけて……」
「グふぅ……」
父の言葉は次の瞬間吹き飛んだ。横にいた武装した兵がフォークで喉を貫かれたからだ。
「貴様、何のつもりだ?」
父は肌身離さず持っていた剣を抜刀する。
「いつまで父親のおつもりですか?今目の前にいるのは敵ですよ?」
「そうか、であるならば何も聞くまい……」
父は斬りかかって来るが、魔法で強化しているといのに流石に年なのだろうか……遅い。振りかぶった剣が振り落とされる瞬間に父の手首を掴み、添わせるように肘どうしをくっつけるようにして斬撃を中断させる。そして、相手の前に出している足の膝を自分の膝で押してやるとバランスをくじて倒れてしまう、それを傍観しながら自分は脇にずれる。そして食事に使っていたナイフを逆手に持ち、首にかけて――うなじを掻っ切る。いつもこの瞬間だけは一番記憶に残り、感触を忘れたくないという衝動を覚えさせてくれる。
「がぁぁ……」
地面にうつ伏せ状態で倒れ、斬られた首の痛みに悶えている。流石に、人を殺したとはいえ、自分の娘には無意識的に手加減をしてしまうものなのだろう父親という生き物は、とどめと言わんばかりに背中から心臓にナイフを突き刺す。ぐっしゃっとした肉の繊維が切れる音と共に父は完全にこと切れた。
「お、お姉ちゃん……どうしちゃったの……?」
弟が恐怖でひきつった顔で私を見てくる。
「あぁ、可愛いエドモンド。そのお顔……」
その顔に私は、私は……
「とっても素敵ですよ♪」
無くなったはずの陰茎をそり立たせていた。
別に私は家族をたいして恨んでいたわけでもなかった。冒険者になることを断られそうだからだとか、自分の殺人と言う唯一の趣味をできなかった腹いせとか色々あったが、結局は――
――自分を愛している人間が自分という愛する者に裏切られて殺されるのがたまらなく興奮するから
この一言に尽きる。だって、そうだろう?人殺しの快楽殺人鬼を家族として愛する人間を見たら、滑稽すぎて笑いたくもなる。大切な人を自分の手で殺すたびに自覚する。あぁ、私って狂ってるんだ。ってね?目の前に広がるのは弟、父、母だったもの達の物言わぬ肉袋たち。その光景を見ながら弟のズボンと下着を脱がせて私はスカートのすそを持ち上げそして――
屋敷には火の手が上がる。親のお小遣いを貯金して雇った傭兵どもがやがてこちらに向かってくるかもしれない。いや、屋敷の私兵にやられて全滅しているかもしれない。まぁ、傭兵とはそんな存在だ。気にすることもない。いまはこの余韻に浸って燃える屋敷をバックライトにダンスを舞うことの方が何倍も、何十倍も意味があって、有意義だ。相手もいない社交ダンスをしばらく踊った後、屋敷に残っていたいくつかの金貨と剣を持って灰となった屋敷を後にする
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