第4話 鈴木凛

 鈴木凛すずきりん。小学3年生。母親と二人暮らし。


 6月9日㈯11:30。

 いつもの場所で由奈姉ちゃんを待つ。出会って、ちょうど1年ぐらいかな。美人で優しくて大好き。いっぱい遊んでくれるし、食べ物もくれる。髪も可愛くしてくれるし、凛を変な目で見ない。いつからだろう。お部屋がぐじゃぐじゃになったのは。おばあちゃんがいなくなってからかな。

 その頃から、近所のおばちゃんたちがヒソヒソ話をするようになった。凛たちは、悪いことしてないのにな。最近、学校の友だちとも遊ばなくなった。凛が近づくと、友だちに「凛ちゃん、なんか臭い。」って言われたから。そうなのかな、自分ではよくわからない。うちのお風呂場は、ちょっと前から使えなくなった。水を流すと詰まっちゃうから、水を出すなっていわれた。今は、お風呂場も物がたくさん置かれてて、入れない。だから最近は、台所のものをのけて髪を洗ったり、あとは時々、お母さんがお風呂屋さんに連れて行ってくれたりする。トイレも使いづらいから、なるべく外でするようにしてる。

 みんな、お母さんのことを悪く言う。学校の先生も、色々と聞いてくるけど、お母さんが悪く思われるのは嫌だから、ごまかすの。

 保護者のサインがいるお手紙は、凛がきれいな字で書いて出してるけど、バレてないかな。給食着のお洗濯はできなくて、汚さないように使って持って行ってるけど、バレてないかな。遠足の時、コンビニのおにぎりを持って行ったら、先生がつらそうな顔をした気がしたけど、いけなかったのかな?

 凛のお母さん別に悪くないの。お仕事が忙しくて、帰らない日もあるけど、凛の好きなものを買ってくれるし、時々優しい。夜はちょっと寂しいけど、お母さんは凛のために働いてくれてるんだもん。我慢しなきゃね。凛は大丈夫。あぁ、お腹すいたなー。今日のこども食堂のメニューなんだろうな。

 

 「あの…、凛ちゃん…かな?」

 今日は、知らないお姉ちゃんとお兄ちゃんが声を掛けてきた。知らない人とおしゃべりしない方が良いと思ったけど、黙って頷いた。

「あのね、私は田嶋美月って言います。こっちのお兄ちゃんは矢野翔太さん。私たちは、斎藤由奈のお友達なんだ。ちょっとお話したいんだけど、隣に座ってもいい?」

 お兄ちゃんは少し離れたところに立っていて、美月お姉ちゃんだけが、隣に座った。

「由奈姉ちゃんのお友達なの?わぁ!嬉しい!由奈姉ちゃんは?」

「うん……。由奈はね、事情があってここには来られないんだ。」

「そうなんだ。それを言いに来てくれたの?」

「うん。凛ちゃんはいつも土曜日と日曜日に由奈と一緒にここで待ち合わせをしてたの?」

「うん。そうだよ。第1第3土曜日は一緒に”こども食堂”に行って、第2・第4日曜日はここで一緒にパンを食べてたよ。でも6月から毎週土曜日に、こども食堂をすることになったから、今日もここで待ってたの。」

「そう。先週の土曜日のことなんだけど、由奈はここに来た?」

「うん。来たよ。そこの教会でやってるこども食堂でお昼ご飯を一緒に食べたよ。」

 凛はとんがり屋根の上に十字架のある建物を指さした。

「そうなんだ。由奈とはいつ別れたの?」

「うーんとね。凛はね、いつもご飯が終わったら、そこに来てる友達と遊んでから帰るの。行きは由奈姉ちゃんと一緒に行ってるんだけど、帰りはバラバラなんだ。由奈姉ちゃんは、いつも片付けを手伝ってから帰ってるみたいだよ。凛たちと一緒に遊んで、一緒にバイバイすることもあるけど……。この前は、どうだったかなぁ。今日は、お姉ちゃんたちが一緒にこども食堂へ行くの?」

「うん、行ってみようかな。」

「じゃぁ、凛が案内してあげる!こっちこっち。」

 『由奈姉ちゃんのお友達、優しそう。うれしいな。』凛は美月ちゃんの手をひいて、ウキウキしながら教会に向かった。


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