第2話 斎藤由奈

 どうやら、私は死んでしまったらしい――。

 

 私は斎藤由奈さいとうゆな。高校3年生。趣味はなし。特技はコンビニのバイト?


 死んだときの記憶は全くないが、茶碗が割れる音で目が覚め、母親が泣き叫ぶ声がうっすらと聞こえた。ぼんやりと『私、死んじゃったんだ……』と認識していて、そして、なぜか今、美月に話しかけている。どうやら、二人で撮ったスマホの中の写真の私が話しているらしい。私は、やけに落ち着いていた。

「これ、どういうこと?」

「こっちが聞きたいよ! どういうことなの?なんで由奈がここに? 死んじゃったんじゃないの? 生きてるの?」

 パニックになってる美月がかわいい。

「いや、ホントにわかんない。でも、死んでることは間違いないかな。」

「そうなんだ……。」

 涙で目が潤む美月がいじらしく愛おしい。今すぐ抱きしめてあげたい。

「私の死を悲しんでくれるんだね。」

「当たり前じゃない! なんで死んじゃったの? 誕生日会するって約束したじゃない。」

「ごめん。でも、死んだときの記憶が本当になくて……。私も何で死んだのか、わかんない。」

「あ……、由奈の方が辛いのに、責めるようなこと言ってごめんなさい。私、本当につらくて。」

「うん。美月の気持ち、わかってるよ。」

「由奈……、その……、本当に自殺なの……?」

「はぁ? 自殺? 私が? そんなわけ……。」

 

 言いかけて言うのをやめた。死んだ日の記憶が断片的で、真実はわからない。死んだときの状況を聞くと、どうやら私は、6月2日の20時頃に、自宅近くの廃墟ビルから転落死したらしい。

 生きることにそれほど執着がなかったのは事実だが、これまで自殺を考えたことはなかった。でも、何かがあって突発的に自殺することもあるかもしれない。そして、自殺でなければ、事故か他殺か?廃墟ビルにわざわざ行って事故に遭うことは考えづらい。他殺?私に恨みのある人間?通り魔?一瞬、ある男の顔が浮かぶ。あのクズ男がやったのか?でも、アイツの話はしたくない。


「う~~ん。わかんないな。私、案外おっちょこちょいだから、なんか間違いがあって落ちちゃったのかな?」

 ハハハっと笑うと、美月は納得していない様子で、こちらを見据えた。気が弱いけれど、人の仕草や声色で敏感に相手の深層心理を嗅ぎ取るのが得意だった。

「何か隠してるよね?最近、由奈の様子がおかしいの、本当は気付いてた。言ってくれるのを待とうって思ってたのに…。こんなことになるなら、無理にでも聞き出せばよかった。親友失格だよね。」

 私が自殺なんてするわけがないと信じつつも、最近の様子を鑑みて、もしかしたらその線もあるかもとせめぎ合っていたのだ。

「失格だなんて、そんなわけないじゃん。自分を責めないでよ。美月は何も悪くない。」


 どうしたら、美月は自身を責めずにいられるのか。そして私はなぜこのような形で美月と再会したのか。きっとこれには理由がある。美月に危険を冒させたくはないが、やはり私の死の真相は明らかにするべきだと思った。協力者が必要だ。


「美月、お願いがある。頼まれてくれないかな。」


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