第5話 その1

異邦のほし

第一巻 巨大生物の謎


伍.


 都内某所。首相官邸近くの高層ビルの一室で、極秘の会議が行われていた。参加者は閣僚の人間と、学者や研究員で結成された怪獣調査団で、草凪 玲くさなぎれいの姿もあった。

 怪獣調査団はスヴァ―ルバル諸島での怪獣調査を終えて、結果を閣僚に報告しようと訪れているのだが…


 会議参加者は、室内に設置された大型モニターの映像を黙って観ていた。再生映像は、海ドローン(無人潜水機)が撮影したもので、北極圏海域の海底の様子が映し出されており…


「…これは!」

 閣僚の一人が再生映像を観て、思わず口を開いた。

「映っているのは…明らかにあの怪獣です、水深三千メートル~五千メートルで発見しました」

 調査団代表の大津 忠生おおつただおが口を開き、閣僚に説明を始めた。

「…あの怪獣は三十年前に北極で姿を消した、復活したということか?」

「北極が奴の縄張りテリトリーかと思われます、特殊な波動を発しているのですが…」

「解析できたのか?」

 閣僚の一人が訊ねると、大津は隣に座っている玲に委ねようとした。

「……私の能力で怪獣の心を探ってみましたが、暗号のような言葉で理解できませんでした…ただ、誰かと交信しているみたいで…」

「…それはつまり…他に仲間が存在るということか?」

「はい、恐らく…」

 玲は自信のない反応で、とりあえず返事をした。


「彼女の言う交信相手は未だに不明ですが…奴は海洋生物とコミュニケーションが取れます、何か会話している可能性もあるかと…」

「…とにかく、復活したのが事実ならば脅威だ…その後の行方は?」

「しばらく活動状況が確認できましたが…見失ってしまいました」

「それでおめおめと帰ってきたわけか…他に報告は?」

「いいえ特には…申し訳ありません」

 大津は横柄な態度で接する閣僚たちに頭を下げて、他のメンバーも彼と同じ対応をした。

 閣僚は呆れ果てて、会議は重い空気のままで幕を閉じた。


「…気にするな、私たちは言われた通りのことをやったまでだ」

「そうよ、あの連中は全然関心がないんだから…怪獣が現れても助けてくれないわ」

 大津と助手の杏沙あずさは、玲を元気づけていた。


「…しかし、嘘をつくのは気が引けます」

「君の力は本物だが、確証がなければ彼らも信じない、君のお告げで国が慌ただしくなるわけだから慎重に動かないと…もう少し様子を見よう」

 玲は大津に従って、真実を公表しなかった。彼女だけは怪獣の動きを感じ取っていた。そして…

 

 それから数日が経ち、怪獣の行方に進展が起き始めた。


 突如、アメリカで衝撃的な光景が広がり、世界を震撼させる事態となった。

問題の場所はカリフォルニア州、サンフランシスコの象徴といえる吊り橋、ゴールデンゲートブリッジから北太平洋の方を見ると、妙な物体が視認された。海面上に岩礁のようなものが浮き出ているが、それは巨大生物だった。

 世界中の民は、米国視聴者が報道機関に提供した映像に注目して、三十年前の悪夢が蘇った。


 アメリカ政府は直ちに軍隊をサンフランシスコへと派遣した。怪獣の出現で航行中の漁船は港に戻り、湾内のクルーズは中止となり、観光客は避難する必要があったのだが…

 

 アメリカ国家は怪獣の本土への上陸、サンフランシスコ侵攻を恐れていたが、どうにか危機は免れた。怪獣はアメリカ大陸に接近せず、何故か太平洋の方へと泳いでいった。その一方で…

 

 日本政府は怪獣出現により、緊急の閣議を開いた。首相官邸に閣僚が招集されるわけだが…


「次は日本に上陸するかもしれんぞ、どうして分からなかったんだ?」

「あんな小娘の力など当てになるか!」

「どれだけ金をつぎ込んでると思ってるんだ?もっと優秀なチームは居ないのか?」

責任のなすりつけ合いや問題発言で話はまとまらず、総理大臣は頭を抱えていた。

 その一方で場所は変わり…


 俺は都内の国立大学に足を運んでいた。その理由は友達がいるからだ。

 

 寺仲は友人の磯崎いそざきの職場へと遊びに来ていた。


「…駄目だ、ネットが繋がらない」

「怪獣の件で炎上パンクしているんだろう」

「奴はこっちに来るかな?」

「さあな…だだ、これで緊急特番は決まりだな」

「君と伊集院氏の喧嘩は見ものだよ」

が続いていたからな、忙しくなるぞ」

 政府が怪獣の対抗策で苦悩する中、俺たちは実に呑気だった。

 

 ほとんどの国家が怪獣に怖気づいていたが、アメリカは黙っちゃいない。


 アメリカ軍は、潜水艦で太平洋を横断する怪獣を追跡していた。空母と駆逐艦の出動準備も整っており、いつでも殲滅戦ができる状態だ。日本はアメリカの言いなりになるしかないと思われたが…


 雲行きが怪しくなる一方で、日本にも頼れる存在があった。

 

 場所は防衛省市ヶ谷庁舎。庁舎の会議室には陸海空自衛隊の最高位者、統合幕僚長をはじめ、自衛隊上層部の人間が集結していた。


「…大臣抜きで始めても大丈夫なんですか?」

「初入閣した青二才だ、我々だけで充分だよ」

 自衛隊幹部の一人が統合幕僚長に質問すると、彼は真っ直ぐな眼で現防衛大臣への不満を言い放った。

 閣僚が永田町で揉める中、自衛隊関係者は極秘で怪獣の対策会議を開くのであった。


「…怪獣の進行状況は?」

「現在、約五十ノットの速度で太平洋を潜航中…AI(人工知能)のシミュレーションによると、我が国の領海に進行すると予測されています…」

米国アメリカ側が追尾しているとのことだが…その影響は?」

「続々と武装した船が出港していますが、監視継続中です」

「利口だな、無暗に刺激しない方が良い、三十年前の戦闘で思い知ったからな…なあ、東城とうじょう君?」

「はい、火に油を注ぐだけかと…」

 統合幕僚長と同意見なのは、陸上自衛隊陸将の東城 秀雄とうじょうひでお

三十年前の東城の階級は少尉で、前線に立ち、日本に出現した怪獣と死闘を繰り広げた。彼は怪獣に多くの仲間の命を奪われて、心に深い傷を負っていたが…

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