第4話 その2

異邦のほし

第一巻 巨大生物の謎


肆.


「…まさか、これもそうか?」

「恐らくね…撮影時期は一九五〇年代…場所はアメリカのネバダ州…当時、そこで頻繁に核実験が行われていた」

「…核実験!」


「あの巨大生物は自然の摂理に反している…放射能物質で構成されているのなら、人類が生み出した兵器だ、核の力を放棄しないなら…奴はまた現れるだろう…」


 ふと、犬猿の仲である物理学者、伊集院 猛いじゅういん たける の発言が俺の頭の中に過った。その現象は何を意味するのか、嫌な予感がした。


「…我々だけで盛り上がるのは勿体ないな、話の続きは番組で扱わないか?特番の企画にしたいんだけど…」

「そりゃ良いな、磯崎も協力してくれよ」

「しょうがないな、ネタの提供料は高いよ、はは」

 俺と磯崎は偶然一緒にいたテレビプロデューサーの提案に乗った。その夜は実に楽しかった。


 ここで場所は変わる。

 関東圏の長閑な土地に位置する<サイキック開発センター>

 センター施設には下界の夜景が一望できるテラスがあり、一人の十代女性がいた。


「…そろそろ帰りましょう、何か考え事?」

 また一人、女性が現れた。彼女は十代女性の母親である。

「うん、ちょっとね…」

 テラスで思い詰めた表情を浮かべていたのは、草凪玲くさなぎれいだった。

 玲の母親の名は草凪弓くさなぎゆみ。<サイキック開発センター>所長、最高責任者を務めている。ちなみに離婚歴ありバツイチで、玲が小学生の時に離婚、シングルマザーとして玲を育て上げた。


「あなた、帰国したばかりで疲れているでしょう?しっかり眠った方が良いわ、例の怪獣の件で大事な会議に参加するんでしょう?」

「大丈夫よ、時差ボケはもうないわ…それより気になることがあってね…感じるの、を…」

「怪獣のこと?母さんの力は衰えてるから、よく感じないのよ」「…を閉じて」

 玲はそう言って、母親の手を優しく握りながら一緒に瞳を閉じた。


 草凪母娘には不思議な力が宿っている。母親の弓は、超能力者サイキッカーとしての現役を退いているが、娘の玲に能力が遺伝、受け継がれていた。

 サイキッカーには〝念〟という特殊な力が体内に注がれており、放出することも可能。よって、手をつないだ相手はサイキッカーと同じ体験ができる。


「…成程、確かに、まだ遠い場所に居るようだけど…」

「ええ、でも目指している場所は恐らく…」

「大津さんたちに伝えるの?」

「伝えるしかないでしょ…重要な問題よ」

 その時、弓は玲の握った手を離して、複雑な表情を浮かべた。


「…世間に情報が漏れるのも時間の問題ね、面倒なことを押し付けて、申し訳ないと思ってるわ」

「何よ今更…人の役に立てる仕事だから、苦痛に感じたことはないわ」

「利口ね…私があなたくらいの頃、目覚めた力に対して嫌悪感しかなかったわ…突然、政府のお偉いさんに、人類の救世主になれと言われてもね…」

「母さんが怪獣を撃退したことが世間に公表されないのは何故?」

 実娘の質問に弓は素直に答えようとした。


「人は、未知なる力に魅かれるのと同時に恐怖感を持ち、差別される運命よ、魔女のようなものね…」

「私は魔女の娘と思ってないわ、母さんの苦労も知ってる…父さんとは不仲じゃなかったんでしょ?」

「ええ…私たちと向き合って生きていけるか不安だったんでしょうね」

「今でも連絡を取り合っているのよ、母さんのことも心配してたわ」

「そう、優しい人だってことは分かってるけど…結婚どうきょは難しいわね」

「今度、三人で会って食事しましょうよ、良いでしょう?」

 弓は愛娘の要求に対して、笑みを浮かべて承諾した。

 その日の夜は雲が一切なく、星々がよく見えた。草凪母娘は流れ星が見える度に、怪獣の脅威が迫ってこないことを願ったが…


 どうやら、草凪母娘の願いは叶いそうにないようだ。


 場所は北極海の海域。夜空にはオーロラが発生しており、海原を優雅に泳いでいるのは、シロイルカの群れだった。ただ、彼らの近くにとてつもなく大きな影があった。謎の巨大物体せいぶつはペースを乱さず泳ぎ続けていた。

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