第5話 その2

異邦のほし

第一巻 巨大生物の謎


伍.


「…無念を晴らす時が来たな、我々の戦力は、三十年前とは比べ物にならないくらいほど進化している」

「ええ、は順調です、いつでも出撃できるかと…」

「よし…大臣は上手く説得しておく、引き続き、衛星と人工知能を利用して標的の動きを予測、分析するんだ」

「…例の超能力者はどうしますか?」

「無論、協力してもらう…なるべく、穏便に済ませたい気持ちもある…」

 自衛隊幹部たちはサイキッカーの玲について、言及し始めた。


「…信用できますか?どうも非科学的なものは苦手で…」

「そう言うな…彼女の母親の活躍で地球は助かったんだから…」

 東城は上官の一言で、ひとまず納得いかない気持ちを封じ込めた。

 自衛隊幹部による極秘会議は終了となり、会議参加者は退室していくわけだが…


「…東城君だけ残ってくれないか」

 気づけば、会議室内には統合幕僚長と東城の二人きりだった。


「退任されるそうですね…」

「ああ、今の案件が落ちつけばな…後は任せたぞ」

「買いかぶらないで下さい、出世には興味ありませんので…」

「そう言うな、偉くなれば何かと都合が良い」

ですが…私だけでは務まりませんよ」

「謙遜するな、最近、父上に似てきたぞ…」

「………」

 東城の父親も自衛隊組織の人間だった。怪獣が初めて出現した当時、東城の父親が統合幕僚長を務めていた。東城父子は上官と部下として接しており、家族の会話は一切なかった。東城は父親のことが話題になると黙り込んだ。


「ドローンや人工知能だけでは役不足だ…お前のように現場で経験を積んだ人材が必要なんだよ」

 東城は人望が厚く、統合幕僚長は彼に自衛隊の未来を託した。

 

 今や日本は、敵対国の核攻撃、テロ行為、自然災害の他に、怪獣のような未知なる存在を相手にしなければならなかった。

 それに伴い、自衛隊は組織の変革に取り組まなければならない。日米安保条約の改正、援軍、米軍の支援に頼らずとも、我が国を防衛できる体制を構築するわけだが、政府側は乗り気ではなかった。


「計画は難航…会議室の連中の指示を待っていたら、日本くにほろびるぞ」

「おっしゃる通りです、何とか対策を練らないと…」

「今思えば、よく守れたもんだな、下手すれば日本は…死人の巣になっていたかもな…」

 東城たちは、三十年前の怪獣との戦いのことを思い出した。

 

 二十世紀末、晩秋頃。日本国家は怪獣の襲撃により、正常な機能を失いつつあった。

 怪獣は放射能物質が補給源のため、日本各地の原子力関連施設が襲撃された。怪獣は体内の放射能物質を拡散していき、原発の運転停止、閉鎖を余儀なくされた。

多くの市町村が放射能汚染の被害に遭い、怪獣被災者は地下で生活しなければならなかった。

 そして、原発防衛はことごとく失敗に終わり、壊滅的な日本に打つ手はないかと思われたが…

 

 自衛隊が怪獣の肉片を入手したことで事態は一変した。

 回収した怪獣の肉片は研究者や専門学者が徹底的に分析・解析した。

 肉片から怪獣の細胞を採取すると、好冷性の環境微生物が生息していることが判明した。それは怪獣の体内環境を形成する役割があった。

 そして、自衛隊組織は〝怪獣撲滅兵器〟を完成させて、日本政府の命で作戦を実行に移すのであった。


 作戦が実施されるのは、日本領海に浮かぶ孤島。サイキッカーの草凪弓くさなぎゆみの力で怪獣を島におびき寄せようとした。

 怪獣が島に上陸すれば、作戦は開始される。待ち伏せていた陸・海・空自衛隊の全火器が怪獣に集中した。通常兵器が奴に通用しないことは把握済みで、これも作戦のうちである。


 自衛隊チームが弾幕を張ると、怪獣は核熱光線を発した。怪獣の体内に潜む微生物は、高温状態では生育・増殖しないため、自衛隊のありったけの火力で奴の体温を上げようとした。


 弾が尽きれば、新兵器の出番となる。赤と青のツートンカラーの特殊戦闘機、《朱雀すざく》が出撃して、怪獣と対決する。


《朱雀》には、放射能エネルギーを消滅させる〝アトミック・キャンセラー〟という散弾武器が備わっており、それは恵みの雨だった。

 さらに血液凝固剤も装備されていて、次第に怪獣は《朱雀》に押されていき、徐々に体力が奪われて倒れ込んだ。

 これで、自衛隊側の勝利は確実かと思われたが…


 沈黙した怪獣の調査に向かったのは、東城が率いる小隊だった。怪獣からは微量の放射能しか検出されなかったが、そこで油断が生じた。

 

 怪獣は急に起き上がって、東城たちに容赦なく襲い掛かった。気づけば、東城独りだけが生き残っていた。

 そして、怪獣は力を使い果たしたのか、静かに海の方へと消えていった。


 東城は何かと怪獣と因縁があった。彼らの再戦の日は近かった。

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