第3話 その2

異邦のほし

第一巻 巨大生物の謎


参.


「佐野君…科学で解けないことはいくらでもある、実は彼女の母親も超能力者なんだ」

「え…そうなんですか、何か凄いですね」

「…彼女の母親は優秀なサイキッカーだった、三十年前に現れた怪獣のことは知っているか?」

「はい…親から話を聞いたことがあります」

「あの生物は世界を滅ぼす力があった…人類は滅亡するかと思われたが、ある時、〝奇跡〟が起きてね…」

「奇跡?」

 杏沙は重大な事実を知ることとなった。大津は玲の左肩に優しく触れた後、こう述べた。


「このの母親は怪獣と交信できる唯一の人間だった、救世主といってもいい」

「…そんな重要人物なのに、何故、世間に公表しないんですか?」

「いろいろと事情があってね、とにかく、草凪君は母親の力を引き継いだ」

「まさか…怪獣と関係があるんですか?」

「それは調べてみないと分からない、彼女の力が導くかもしれない」

 杏沙はまだ頭の中の整理ができていないが、ひとまず玲の力を借りることに同意した。

 どうやら、今回の案件では玲がカギを握っているようで、大津率いる研究チームは謎の波動の解析に尽力した。


 それから三カ月後。舞台は日本に戻る。都内の閑静な住宅街、一軒の豪邸前に男女の二人組が立っていた。

「もう他所よそ様の家になっちゃうのね」

「ああ、三人で暮らしていた頃が懐かしいな」

 俺は長女むすめ静流しずるを連れて、かつての我が家の前で思い出に浸ろうとした。


「お父さん、ほとんど家に居なかったじゃない、朝方帰りで、よく玄関で寝ていたことは憶えているけど…」

 家族との良い思い出はなく、静流の冷たい返答が胸に深く突き刺さった。


「…悪かったよ、でも、小さい時は遊んでやっただろ」

「そんなこと憶えてないわよ、お母さんに任せっきりで親らしいことしてないでしょう?バレエの発表会は、一度も見に来てくれなかったし…」

 静流むすめ反論クレームは続き、俺に父親としての貫禄はなかった。親権がないのは当然のことである


「反省はしてるよ…母さんは元気か?」

「ええ、働きに出てる、に戻るらしいわ」

「母さんは優秀な記者だったからな、ブランクは問題ないだろう~」

 俺の脳裏に、結婚する前の元妻の姿が浮かんだ。あの頃は良かったとしみじみ感じるわけで…


「父さんこそ…独りでちゃんとやってんの?」

「まあな…今は都会の喧騒から離れた山奥に住んでいる、何かと不便だが、夜の空は澄んでいて、星がよく見えるぞ…」

「独身暮らしを楽しんでるわけだ…お金に余裕はあるの?」

「ああ、学費の方は心配するな、来年から大学生だろう?」

「その予定よ、受験勉強の真っ最中だけど、たまには息抜きしないとね~」

「母さんに黙って来たのか?」

「勿論、友達と遊んでくるって嘘ついちゃった」

「名誉挽回のために今日は言うことを聞いてやるよ」

「それじゃあ、買い物に付き合ってもらうわ」

「…もうここに来ることはないから、記念写真撮っておこうか?」

「何の記念よ?馬鹿じゃないの!」

 俺の冗談は静流に通じず、言いなりになるしかなかった。変な話、結婚時より、父娘の絆が深まったような気がする。そして…

 

 俺が家族に贖罪している最中、何か計り知れないものが蠢いていた。

 

 舞台は再び、ノルウェー領 スヴァ―ルバル諸島。スヴァ―ルバル諸島には街がいくつかあり…


 北緯七十九度に位置する小さな街。そこは不思議な光景に包まれていた。野生動物をよく見かけるが、人間が住んでいる気配はなかった。そこは世界最北のゴーストタウン〝ピラミデン〟。

 街の背後にそびえるピラミッド形の山にちなんで名づけられた。


 街の建造物は廃れていき、野鳥の巣と化しているが、かつて、炭鉱で栄えていた。欧州諸国は次々とこの地へと進出、旧ソビエト連邦によって開拓されて、最盛期には千人以上の人々が暮らしていた。

 しかし、町の繁栄は長続きせず、石炭が採れなくなると、人々は去って行き、廃墟だけが残った。


 ピラミデンは、見捨てられた街として時を刻んでいるわけだが、大津率いる調査隊が訪れてから三カ月後、異変が起こった。


 ある時、地震が発生した。震源地は北極点付近。マグニチュード5以上という比較的大きなもので、北極エリアで大規模な地震が起きるということは何を意味するのか、実に異常な事態であった。そして…


 ピラミデンの地に妙な窪みがあった。それは巨大生物の足跡だった。最北の地で奴が目覚めた。

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