第2話 その1

異邦のほし

第一巻 巨大生物の謎


弐.

 

 人類と怪獣の戦いから十年経ち、日本は復興が進み、日常の生活を取り戻そうとしていた。その頃の俺(寺仲)は大学生、成人を迎えたばかりで、ようやく、離れ離れになった家族との再会が実現したのだが…


 兄は社会人で出世街道まっしぐら、さらに結婚して子供もいる。姉も就職して婚約者がいた。兄姉とは仲は良くも悪くもなかったが、元気そうな顔を見て、とりあえず安心した。


 家族全員で食事する予定だったが、そこに父母の姿はなかった。親父とお袋は別の場所で待っていた。兄姉に連れられたのは都内の総合病院であった。


「…皆、元気そうだね、健ちゃんも久しぶり~」

 病室に入るとお袋が出迎えたが、奥のベッドを見て、思わず口が開いた。兄たちに連れてこられた病室には、変わり果てた親父の姿があった。

 親父は大病を患っていた。ここ数年、入退院、自宅療養を繰り返して、闘病生活を送っていたが、希望は薄くなっていき、病状は悪化の一途を辿っていた。


 親父は五十代だが、病気で体が痩せ細り、まるで生気がない老人であった。親父の病気を知らなかったのは俺だけだった。

 お袋は働きながら、毎日欠かさず親父の見舞いを行って看病に尽力していた。その疲れのせいか、お袋はかなり痩せていた。


 親父もまた、重度の怪獣被災者の一人である。怪獣襲来で日本経済は大打撃を受けて、親父が務めていた会社は経営難に陥り、転勤が続き、全国を駆け回ったそうだ。孤軍奮闘の日々、壮絶な人生だったに違いない。

 そういえば連絡が取れない時期があったが、必死に働いていたのだろう。俺たちの学費をちゃんと払ってくれた。兄は親父を頼らず、奨学金の手続きをしたそうだが…


 病室で再会した親父はまともな会話ができないが、意識ははっきりしており、俺たちの顔を見ると、うっすら笑みを浮かべて、とても嬉しそうだと伝わった。 


 これは勝手な思い込みだが、特に俺の顔をじっと見ているように思えた。

 そして…


 再会した日から一年後、親父は静かに旅立った。最期は家族だけで見送ろうと密葬を行ったが、葬儀後、親父の友人や知人、同僚が続々と線香をあげに訪れた。その時、亡き父の人間性の良さが垣間見えたような気がした。


 ふと瞳を閉じれば、親父と過ごした日々が鮮明に映った。キャッチボールにスポーツ観戦、映画鑑賞…父との思い出は数え切れないが、怪獣を一緒に見に行ったことに関してはあまり触れたくない。奴との遭遇がきっかけで大事な人を失ったのは事実だ…


 俺は大学在学中に小説家デビューしたわけだが、真っ先に父に知らせたかった。大袈裟にお祝いしてくれる親父の姿が目に浮かぶ。

 俺は就職せずに作家人生を志すのだが…


 大学卒業後、俺の密着取材を担当した女性記者と結ばれることとなり、子宝に恵まれた。社会人になって早々、俺は家族を養う立場になり、それなりに焦った。

 作家となった以上、ひたすら創作、執筆作業に打ち込まなければならない。

 怪獣や宇宙人が棲みつく地球を舞台にしたコメディ、タイムマシンで恐竜がいる時代に向かい、スリルを体験するアドベンチャー、夢の世界と現実の世界が入り混じるファンタジー、次々と自作品を世に出したが、何処か新鮮味がなく、打ち切りが検討されるものばかりだった。

 不人気スランプが続く中、出版社は早く新作を書けというが、ペンは思うように進まない。

 しかし、その矢先、転機が訪れた。


 小説家デビュー作『破壊獣上陸』の漫画・アニメ化が決定した。俺は原作者のため、特にすることはなく、専門の技術屋に任せればいい。怪獣襲来を知らない世代が興味を持ったことでメガヒットした。その結果、がっぽがっぽと印税が原作者(俺)の懐に入っていき…


 勢いは止まらず、今度は映画化が正式に発表された。大手映画会社が製作費を全て負担してくれて、出演者もベテラン俳優から旬の若手俳優という豪華な顔ぶれ、しかも監督と脚本は俺に任された。

 ただ条件があり、あの恐ろしい怪獣がメインだが、単なる怪獣映画ではなく、ドキュメントタッチを盛り込んでほしいと映画会社側から注文が入った。そして…


 慣れないことで体調を壊したこともあったが、無事に映画は完成した。評価は合格点で国内のみならず、海外でも評判が良く、名誉ある映画賞を受賞した。この時は変な話、怪獣に感謝した。さらに…


 人気の波に乗る中、次の仕事が舞い込んだ。ある日、学生時代の友人と再会したのだが…


 友人は民放テレビ局で働いており、敏腕ディレクターとして業界で知られていた。彼は新番組のキャスティングを任されていて、その作業は難航しているようであった。話は弾んでいき…


 友人は特別に新番組の企画書を見せてくれた。

 番組内容についてだが、時事ネタなど、設定されたテーマに沿って、討論するバラエティ番組で、ゲストは各分野の学者、専門家、旬の著名人にする予定である。


「…うちの番組に出てみないか?」


 俺は友人の予期せぬ一言で、しばらく脳が上手く機能しなかった。俺はまんまと友人の口車に乗せられて、新番組の記念すべき第一回にゲスト出演することとなった。

 当時、俺は時の人であるため、テレビ局側や視聴者側も納得していた。そして…

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