第1話 その2

異邦のほし

第一巻 巨大生物の謎


壱.


 日本政府は謎の巨獣を危険視し、直ちに撃退作戦を決行した。

 自衛隊組織の発表によれば、巨獣の生息地とされる本栖湖の底に大きな穴があることから、そこを塞いで上陸を防ぐとのこと。


 政府の命で本栖湖に自衛隊が派遣され、湖の底に強力な爆弾を投下、仕掛けた爆弾を一斉に起爆、水中衝撃波により、本栖湖は高飛沫たかしぶきを上げた。

 作戦は成功したようで、巨獣は封印された。しかし、それは一時的なことに過ぎなかった…


 それから数ヵ月経ち、一九九九年盛夏。待ちに待った夏休みに突入していた。俺は宿題を後回しにして、遊び呆ける道を選んだが、どうやら思い通りに行きそうになかった。


[…臨時ニュースをお伝えします]

 俺は毎週欠かさず観ているアニメ番組があり、チャンネルを合わせたが、急に映像が切り替わり、つい口がぽかんと開いた。お気に入りのアニメ番組は自然消滅して、緊急の報道番組が放送された。

 俺は夕方の楽しみを奪われて苛立っていたが、報道番組の内容を耳にすると、目が点になり、自然とテレビ画面に釘付けとなった。


[…江ノ島に巨大生物が出現しました]

 また、巨獣が現れた。富士山域にいた同じ個体と判明して、日本国民は再び注目した。江ノ島海域が本栖湖と繋がっていたことも驚きで、現地に避難指示が出た。政府は自衛隊出動を要請、総理大臣の指示で重火器使用許可、市街地での攻撃許可が出た。

 

 巨獣が歩けば、付近の日本家屋の瓦屋根が大きく揺れて、しまいにはずれ落ちて割れる瓦が恐怖を掻き立てる。さらに、威嚇咆哮は一キロメートル以上離れた建造物の窓ガラスを破壊することができて、奴の恐ろしさを物語る。


 巨獣は容赦なく、人口密集地に進行していくが、奴が目指す場所は原子力関連施設であった。

 巨獣は神奈川県の原子力発電所を襲撃して、核の放射能エネルギーを自身の体内に取り込んだ。すると、異変が起こりだして…


ギャォアァァァァ…


 巨獣が雄叫びを上げると、まばゆい光に包まれて、奴は二倍近くの大きさ(八十三.九メートル)に巨大化するのであった。

 変わったのは体の大きさだけではない。少々愛嬌があった顔つきは消えて、凶悪かつ険しい面構えとなった。その他に印象的な特徴は、頭部の鶏冠トサカ、全身の筋肉が発達して前傾姿勢から直立状態で歩行、皮膚は暗い緑から灰色に変色、鋭い牙に爪、手足にはえらがあり、全身は鱗で覆われて、長い尻尾や折り畳まれた鋭利な背びれ等。そのフォルムはまさしく〝怪獣〟であった。


 巨獣が怪獣に進化すると、東京都心部を目指した。防衛ラインには自衛隊派遣部隊が待機しており、ついに対決する時が迫っていた。


 報道番組の中継映像には、戦闘ヘリや戦車、武装する自衛隊員が映っており、まるで特撮映画の撮影風景のようであった。戦闘の模様はテレビで確認できなかったが、予想を遥かに超えたものだったに違いない。

 現場に派遣された自衛隊員の報告によれば、怪獣には火器やミサイルなど物理的攻撃が一切通用せず、全くの無傷とのこと。そして、奴は反撃を行った。


 怪獣は折り畳まれた背びれを展開。奴は展開された背びれが発光すると口を大きく開いた。そして、口腔内から広範囲に火炎を噴射した。まるで強力な火炎放射器のようで、奴は四方八方に有害な炎を。さらには、怪獣は背びれを発光させたのに加えて、全身の鱗を逆立てて…


 怪獣は美しいエメラルドグリーンの光、核熱光線を腔内から吐いた。その威力は凄まじく、一瞬で自衛隊兵器を破壊、山岳地帯は広く深く抉られた。


 おまけに怪獣は身体能力が異常に高く、走行することも可能で、猛スピードで突進するのと同時に、戦車隊をサッカーボールのように蹴飛ばしたそうだ。奴は防衛ラインの自衛隊部隊・在日米軍隊をあっさりと全滅させた。防衛ラインを突破されれば、我々国民は逃げるしかない。


 怪獣は都内を侵攻、政府に怪獣を撃退する術はなかった。日本の首都は核を発する炎に包まれて、奴の体を赤く染めていた。そして、破壊活動に飽きてきたのか、怪獣は東京湾で姿を消した。


 ひとまず安心したが、日本は多大なダメージを受けて、復興は容易なことではなかった。日経平均株価の暴落、核汚染の脅威、怪獣被災者への対応、今後の怪獣対策と政府の宿題は山積みであった。

 俺も怪獣被災者の一人である。夏休み中に小学校の運動場に集まることとなり、全校集会が開かれた。うちの地域は幸い被害を免れたが、東京がちゃんと機能しないことから、生徒家族の転校、転居が相次いだ。

 俺の家族も、バラバラに生活することとなった。俺は父方の祖父母に預けられて、家族全員と再会するのは成人となった頃であった。


 怪獣は度々出現して、原発で腹中を満腹にした後、運動するかのように破壊活動を行う。台風や地震のような自然災害と同じ類で、どうにも防ぎようがない。

 また、俺の面倒を見てくれた祖父母は戦争を思い出すと言っていた。確かに怪獣出現を知らせる警報音は気味が悪く、空襲を連想するのだろう。

そして…


 怪獣は日本から海外に進出して、世界各国の人々を恐怖に陥れた。アメリカ軍とロシア軍は自棄ヤケを起こして熱核攻撃を行うが、効果はなかった。

 その後、怪獣は世界に大きな爪痕を残して、静かに北極圏で消息を絶った。気づけば、季節は冬であった。


 以上、今まで語った内容は、俺が執筆した小説の一部である。実体験をもとに大学在学中に投稿した作品が見事、準入選した。


 タイトル名は『破壊獣上陸』

 大物作家やノンフィクションライターから高評価を得る一方で、国民の悲惨さをネタにして、金儲けするなという批判的な意見も寄せられた。そのため、発行部数はあまり伸びなかった。ただ、ベストセラーとまではいかないが、処女作にしては、上出来だと自画自賛した。


 こうして、俺はSF作家として有名になっていくが、実は怪獣の話は終わっておらず、『破壊獣上陸』の続編製作に取り掛からなければいけないようであった。

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