序章

異邦のほし

序.


 場所は霧深き天と地の境目が分からない世界。とても生物が生きられる環境ではなく、現実世界と隔離されていた。その世界は静かで、緩やかに時を刻んでいたが…


 雲海に覆われた山間部、そこは実に未知であった。険しい山脈が続き、麓から山頂にかけて、美しい銀世界を彩っていたが、それは雪山ではなかった。

謎の白い物体の正体は、超巨大生物であった。


 全長六千八百五十二メートル、全高三千五百二十六メートル、体重二兆トン。背びれがあり、それだけでも全高三百メートル以上ある。今はうつ伏せで寝ている状態で、立ち上がれば、富士山の標高と相当する。


クァ~…キィィ…グァ…


 耳をすませば、何やら動物の声が聴こえてくる。

 驚くことに、超巨大生物の体に野生動物がいた。そこは酸素濃度が高く、とても生物が生存できる場所ではなかったが、超巨大生物に棲みつく動物たちは、正常な状態であった。

 超巨大生物は、自身に棲みつく動物のことを一切気にせず、じっとしているわけだが、動かないのでなく動けなかった。超巨大生物は一万年近く生存しており、晩年期を経て、死期が近づいていた。

 超巨大生物の行く末は、地球・人類の今後に影響するものだった。


 地球及び人類は、陰で超巨大生物に守られていた。

 超巨大生物の余命は、終わりと始まりを意味しており、地球だけでなく、宇宙の存亡に影響するものであった。

 発端すべては地球人、人類が文明を築き始めた頃に遡る。


 人類が文明を築こうとした時代、異星難民が地球を訪れた。人類は異星難民と共存して、古代文明を築いていくわけだが…


 結局、平和の維持はできず、戦乱の世が蔓延り、互いの関係を断つことに。ただ、陰で人類を守る異邦者が存在し、お互い接触する時はそう遠くなかった…


 現在も、異邦者は地球に潜んでいた。彼らは長く人類と共存することはなかったが、対面する時が訪れて、事実を明かさなければならなかった。それには謎の超巨大生物が関係しており…

 そして――――


 舞台は二十世紀末。人類は想像絶する事態に遭遇した。

 富士山の北西山麗、富士五大湖の一つである本栖湖で巨大生物が発見されて、地元住民のみならず、日本国民は錯乱状態に陥った。


 日本政府は緊急対応に追われた。直ちに謎の巨大生物の分析と追跡を行うが、奴は獰猛な性格で避難指示は日本全土に広まり、首都東京にも脅威が迫っていた。


 陸・海・空の自衛隊は総力を挙げて、巨大生物の掃討に乗り出す。だが、奴の圧倒的な戦闘力に押されて、全く歯が立たなかった。


 また、後に巨大生物の供給物が放射能物質だと判明して、各地の原子力発電所が襲撃された。巨大生物が原子炉の炉心を取り出して、放射能エネルギーを全て吸収すると、ある異変が起こった。奴は進化していき、五十メートル近くあった体が八十メートル以上まで成長した。巨大生物はより凶暴になり、日本を縦断し、火の海にした後、世界中で暴れ回ることとなる…


 巨大生物の出現で、人類の築いた文明は呆気なく、崩壊の一途を辿っていた。

アメリカ軍とロシア軍は巨大生物を葬ろうと、熱核兵器を使用するが、焼け石に水であった。これで人類滅亡のカウントが刻まれようとしていたが…


 巨大生物は何を思ったのか、突然、虐殺行為・破壊活動を止めて最北地を目指した。奴は北極圏で消息を絶った。原因は分からないが、人類はようやく巨大生物の脅威から解放されて、平和を取り戻した。が…


 ある一人の物理学者は苦言を呈した。


「あの巨大生物は自然の摂理に反している…放射能物質で構成されているのなら、人類が生み出した兵器、核の力を放棄しないなら…奴はまた現れる」


 巨大生物を恐れる一方で、中には異論を唱える者もいた。


「あの巨大生物は人類では手に負えない神の化身、破壊の神…現代の科学では解明できない存在に違いない…地球の何処かに立ち入れない聖域がある」



 それから三十年の月日が流れ、人類は再び巨大生物と向き合わなければならなかった。

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