トイレと合わせ鏡

 美貴と桃香は実子からもらった饅頭を包みを開けて食べ始めた。


「あ、儀式といえばー、四階のトイレの鏡の儀式についてなんですけどー、今日ここに来られなかったシノちゃんが言ってたんですけどー」


「忍ちゃんがね……何て言ってた?」


 今日用事があって来られなかった忍からの感想と疑問について美貴が実子に質問した。


「『屋上の階段』に比べて『四階のトイレの鏡』の方はあまりにも考えられてるって言ってましたー。後、こちらも似たような話なんですけどー、条件の満月とか『合わせ鏡』を用いていたりとか何か凝っていることに疑問に思ってたみたいですねー」


「へー、忍ちゃんがそう言ってたんだ?」


「はい、一昨日のつまり最初の七不思議探検した翌日に言ってましたねー」


「あー確かにその後起こった出来事も含めて印象的だったんだと思います。」


 実子の問いに対して美貴が答え、それに桃香が付け加えた。


「あー、宮島さんが調子悪くなったんだっけ。そういえば、今日最初に言ってたね」


 なるほど、と実子は言った。


「さて、どこから話すべきかな……」


 そう言って実子はお茶を一口飲んでから再び話し始めた。


「さっき話した怪談の分類の話だけど、与太話が流布された事例と本物の儀式が変質して流布された事例があるというモノだが、コレは少なくともと推測できる」


「鏡と鏡を向かい合わせたいわゆる合わせ鏡は霊的な通り道になるんだが知ってるか?それと月そのものにも日の光を跳ね返す鏡の特性がある」


 そういう意味で儀式に則っているものと推測できると実子は言った。


「後は、トイレという場所についてだが……まず、学校のトイレは水洗トイレなので水場の扱いになる。それと古来から厠というのは汚れを受け止めてくれる場所であり、境界の近くでもあったりするんだが、難しい話だから今回は省こう」


 簡単に言えばトイレは家の中でも外側に近いところにあるだろう、と実子は言った。


「後は、満月に霊力が満ちることで実行者が受ける一部の儀式の代償を減らして成功率を上げたりするんだが、結果的に宮島さんは儀式を成功させてしまったようだね。因みに色々危険が伴ったりするから普通にやらない方が良いよ」


 そういう意味でも宮島さんは素質がある、と実子は言った。


「え、そうだったんですかー!?」


 美貴はかなりの大声を出して驚いていた。そして嬉しそうにする。


「ちょっと、もう少し静かに喋って!!」


「ご、ごめん……」


 そして一番近くにいた桃香の耳がやられて美貴は怒られた。


「急に力が抜けたのは代償を払わされたからだろう、そして召喚の儀式が成功したことで近くに居た怪異を呼び寄せられたと」


 口許に人差し指を立てながらしぃーと、実子は言った。

 実子は耳が良いので少し今回の大声は辛かったようだ。

 結果、紅葉にも美貴は睨まれる。


「すいません……えーとつまりやってきたのは土地神様だったのでしょうかー?」


 美貴は頭を下げたあと実子に質問する。


「さぁ、単純に気になってたから来ただけな気もするが……もしかして何か要求したりしたか?」


「あっ!?」


 目を見開き美貴は声を出す、そのとき口に手を当てていた。


「どうした?」


「あ、いえ、確かにシノちゃんがナニかを呼んでどうするの?と言ってきて、『七不思議を教えて下さい』と叫びました」


「叫んだのか……」


 実子はそこに反応した、桃香がピクっとなったがそれに気付いたのは紅葉だけでチラッと見るだけであった。


「そして体の力が抜けてトイレからフラフラ出る時に廊下からヤシロ先輩が来ました」


「うーん、なるほど……」


 美貴から一部始終を聞き実子は唸る。

 ツッコミどころ満載なのもそうだし、傍らにいる紅葉は呆れた顔半分、干渉する気は皆無な態度を取る。

 桃香は別の方向を見て目を逸らしていた。


「まぁ、結果的に土地神様が来たんだろう……あと、あまり変な要求すると呼び寄せられたモノによっては生気を衰弱死する程奪われたり、異界に引き摺り込まれたりするから辞めよう」


 気を付けよう、実子は忠告した。


「は、はい!!」


「あの……変な要求とは例えば不老不死とかお金持ちになりたいとかそういうのでしょうか?」


 桃香が手を挙げて質問する。


「そうだね。無茶な事だと無意味に生気を根こそぎ奪われて殺されたり、分不相応だ、と怒らせて殺されたり、彼の世などの異界に引き摺りこまれたり、碌なことにならない」


 まぁ怪異だから、と実子は言った。


「ひぇ……」


 美貴が小さな悲鳴をあげた。


「だから七不思議を知りたいという願いはまだマシかと、ただ呼び寄せた怪異次第ではあるが」


 土地神だからまだ良かった、と言って実子はお茶を飲む。


「領域の主でもあるヤシロ先輩なら此処の様々な怪談おはなしを知っているからな、一番の当たりを引いたわけだ」


 この上ない当たりではある、実子はそう評した。

 それを聞いたあと桃香は口を開く。


「そういえば、ヤシロ先輩も知ってほしい部分があったから後日も協力して下さったんでしょうか?」


「単純に儀式による契約だから七不思議を教えるまで続いていたんだろう。尤も宮島さんと土地神なら力関係が明確だから土地神が契約を別に破ったところで不利益は殆どないが」


 まぁ土地神だからこそ守ったのかもしれない、と実子は言った。


「土地神だから、と言いますと?」


 桃香は実子に問う。


「土地神は主とも呼ばれてその土地の領域内では無類の強さを誇ったり様々な権能を使えるという話を昨日したが、今回は三人に色々知ってほしい事があったり、宮島さんに悪戯したり、宮島さんをおちょくったり暇潰しして付き合ってたのもありそうだ」


 最終的にお気に入りの子を見つけてお社ここまで連れてきたんだろうけど、と実子は言った。


「あ、土地神には隠し事が出来ないと昨日言ったが、学校内で悪口言うと聞かれるって言う意味でもあるから気を付けて」


 実子は思い出して付け加えた。


「はーい!!」


「はい」


 素直に手を挙げて美貴は従った。

 まぁ、でしょうね、という感じに桃香は頷いた。


『ふふふ……』


 何故かここには居ない筈なのに聞き覚えのある声がした。


「えっ……!?」


 そう言って美貴はキョロキョロ辺りも首振って見回した。


「まぁ、そういう事だ。さて、そろそろ時間だ。ここを閉めて帰らないと……」


 美貴を横目に下校時間だよ、と壁掛けの時計を見て実子は言う。


「はーい、今日はご馳走様でした」


「実子様ご馳走様でした」


 美貴と桃香がお礼の言葉を述べる。


「えーと、今回のゴミは袋に入れて外のゴミ箱に捨てれば良いですか?」


 その後桃香がゴミを集めて実子に訊く。


「あぁ、ソレで大丈夫。お願いできる?」


 ありがとう、と言って実子は立ち上がった。


「さて、空秀うつほー。帰るよー」

 

 そう言って、実子は入口から見て一番奥の物の影へ行きそこに転がってる女子生徒を右手で揺すって起こそうとする。

 美貴と桃香からは死角の位置で人が居たことに気付かなかった。立っていたり座っていれば見えたが寝転がっているとちょうど見えない位置である。


「そこにいたんですか、間先輩」


「え、ヤバ、ヒトが寝てたのに大声出しちゃったんだけど……」


 桃香の知人で『常盤の庭』に所属する人であり、桃香も存在に気付いていなかった。

 美貴はギョッとした。


「大丈夫、爆睡しててまだ起きてないから」


 一度寝ると寝起きが物凄く悪いんだ、と実子は言いながら転がってる女子生徒を揺すっても起きないので両手で両肩を掴んでさらにぶんぶん揺さぶった。

 

「起きなさい」


「んー……あ……はよう」


 ようやく、空秀は起きた。

 空秀と呼ばれた女子生徒は顔は整っているが酷い隈を目元につけている。毛先が傷んだロングヘアのボサボサ頭で学校指定ジャージ姿でヨボヨボと起き上がった。


「おはよう空秀、もう帰る時間だ」


「あー……ゎかった……んー……桃香と誰?」


 目をこすりながら起き上がると美貴と桃香を眠そうな目でじいっと見た。

 

「今日から新しく『常盤の庭』に入った一年の宮島美貴さん、桃香ちゃんも正式に入ったよ」


 実子が空秀に美貴の事を紹介する。


「こんにちはー、初めまして、一年の宮島美貴です。これから宜しくお願いします!」


 美貴はそう言って頭を下げた。


「ん……二年の間空秀はざまうつほ、苗字なら実子様から聞いた事ある……宜しく……美貴」


 そう言って空秀は美貴に向けて手を伸ばした。


「宜しくお願いします、間先輩!」


 そう言って空秀の手を両手で捕まえて握手した。


「……空秀先輩呼びが良い」


 空秀は握手をしたあと小声で美貴に言った。

 

「ハイ、空秀先輩お願いします」


「……ん」


 そう言って頷き空秀は近くに転がっていた荷物の鞄を拾って背負いノロノロ外に出る準備を始める。


「間先輩がまともに対応してるの珍しいですね」


「それはそう、やっぱり何か持ってるのか」


 空秀と美貴のやり取りを聞いてヒソヒソと桃香と実子が話していた。


「二年の筆記試験一位はそこの空秀だよ。二位は紅葉」


 因みに私は得意不得意の結果点数平均より上程度、と実子が言った。

 

「え、そうなんですかー?スゴーイ」


「……」


 空秀は何も言わずに美貴にVサインアピールをした。


「私なんてクラスで下から数えた方が早いですよーアハハ」


「……あのクラスなら問題ない」


「そうなんですかー?」


 因みに一年三人のクラスは特級クラスなので、学年平均より上くらいの順位でもクラスの下から数えて片手に収まる人数になる。


「やっぱスゴイなあの子」


「あそこまで行くと嫌味に聞こえないのが不思議なんですよね」


「仲悪いよか良いがな」


 まぁ何より、と実子は言った。

 実子が自分の荷物を持とうとしたら紅葉が鞄など大半を持ちあげた。


「ん、ありがとう。じゃあお社から出るよ」


 実子がそう言った後全員でお社から出て鍵を閉める。

 そして今日の『常盤の庭』は解散となった。




 

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