学校の怪談とは

「そういえば、この学校の七不思議の中で『屋上の階段』だけが結局何も起きなくてよくわからなかったんですけどー」


 アレなんだったんですかね?と美貴は一部始終を説明したあとに饅頭を食べていた実子に訊く。

 すると実子はうーん、と唸ったあと答えた。


「あー、まず、七不思議というか怪談って流動的なモノなんだよ」


 そう言って実子は怪談の説明を始めた。


「その時の名物になった人とかをからかったりしたモノや人間が与太話を意図して流布して広まった嘘だったりするモノもある。怪談は極端な話、人が居る数だけ増える可能性もあるけれどすぐに風化していって消えてしまうモノが多い。だから世代交代してる怪談もあれば、土地神様のようにずっと健在のお話もある」


「なるほど、そうでしたかー」


 ありがとうございます、と美貴は言った後再び質問をした。


「と言うことは、『屋上の階段』は与太話のたぐいなんでしょうか?」


「はっきりとは言い切れないが、元々意味のあった怪談が廃れて他の怪談に役目を取って代わられ変質して無意味になったか、そもそもの与太話なのかのどちらかだと思うけど……」


 おそらく今回は後者だと思うが、と実子はお茶を飲んでから言った。


「いや本当に気まずかったんですよー、誰かが『なんだんす?』って言って階段の段の数を数えても何ら変わってないし、桃香が言葉遊び駄洒落とか言い出すしで場は凍りつくはで」


「なるほど、で、なんだんす?って訊いたのは誰だったんだ?」


 美貴が溢した愚痴に対して実子は引っかかり質問をする。


「……アレ、誰だっけ……?」


 そう言って桃香を見る、


「……少なくとも忍をふくめた私達ではありませんでしたね」


 桃香が口を開いた。

 暫しの間沈黙が走る。


「……全員が聞こえていたなら気のせいではないだろうが、他の人間が近くを通りかかるには行き止まりの屋上に用は無い。そもそもその手の怪談の儀式は元々夜やらないと意味がない筈だから愉快犯が居たんだろうな」


 生きた人間かはともかくとして、と実子は言った。


「え、ある意味私達は当たりをひいた……?」


 美貴の顔芸染みたリアクションを見ながら、実子は言った。


「まぁ、外れは一個くらいある方が個人的にはそれっぽくて良いとは思うがね」


 屋上は本来外れのようだけど、と実子は付け加える。


「野良の何かが干渉してきたかあるいは……」


 お社の入口の方をチラリと見て実子は言った。


「とまぁ、そんなところか」


 「屋上の怪談そのものは本来だと階段と扉を用いた儀式があったのか、あるいは駄洒落でそうなったのか……」


 頬の下あたりに自身の人差し指を持ってきて軽く叩くようにしながら実子は言った。


「怪談は多くの人を介して変質したり派生したり消え失せたりするから出所がわからないものも多い。済まないが今回の屋上の怪談の話も大まかな系統を推測することが出来ても、正直なところどうしてそれが怪談になったのかや本来の元のお話がわからないものは多いんだ」


 ご希望に添えず済まない、と実子は言った。

 すると美貴は濡れたあと水をとばす犬のように激しく首を横にブンブン振った。


「いえいえー、当たりはともかく外れは誰でも作れて広められる部分があるから元がわからないと言ってたじゃないですかー、仕方ないですよー。私はこれからも先輩から色んなお話が聞きたいです、なのでこれからも宜しくお願いします!」


 美貴は今度は縦に振りだす。


「う、うん、宜しく……」


 首やる前に辞めとこう、と実子が美貴を止めた。

 傍らにいた紅葉は普通に引いていた。


「すいません、たまにあぁなるんです」


 適当に斬り捨てるなりあしらって下さい、と桃香が実子二人に謝っていた。


「モモちゃーん、ちょっとソレどういう意味ー!?」


 泣くよー?、と目の前で全て見ていた美貴は突っ込んだ。


「仲が宜しくて何より」


 そう言って実子は二人にも個包装タイプこ饅頭を一つづつ渡した。


 



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