書類受理 (『七不思議が導いたモノ』の後)

 一年副担任の英語教師花島芳果は忍からの依頼の二日後、出来事の翌朝に本人から報告ではなく本人含めた三人から書類を受け取っていた。

 忍、桃香、美貴三人の生徒から芳果は『常磐の庭』の所属報告書を受け取り職員室に向かったのだった。


「おはよー、花島先生ー」


 職員室にて頭が寝癖を隠しきれてない二年生担当の生物教師小林麻美が眠た気な口調で話しかけてきた。


「おはようございます、小林先生」


「そういえば例の件、昨日の放課後だって言う話だったよねー。どうなったのか気になって」


 そう言って麻美は芳果に近づいた。


「いえ、詳しくはまだ何も聞いてないのですが、本人達から書類を渡されました」


 多分結果の一つでしょう、と言って書類の上部分を見せた。


「おー懐かしいなーコレ、私も昔書いたよ」


 麻美の眠気が消え失せて朝からテンションを上がった。


「コレ、学年主任に渡せば良いんですかね?」


 初めて受け取ったからわからないんですが、と気にせず芳果は質問する。


「それはそうなんだけど、なんで彼女達は担任に渡さなかったんだろうね、必ず朝会うのに」


 結果は同じではあるけれど、と麻美は呟いた。


「確かに……そうですね、私が『常盤の庭』の名目上の副顧問だなんて知るはずもないでしょうし」


 そして心当たりがあるのをあまり隠す気のない返事をする。


「あー今年は一年のクラス荒れそうだな」


 まだ五月なんだけど、と麻美はため息をついた。


「被害を受けるの私なんですけどソレは」


 やめてくださいよ本当に、と芳果は言った。


「もう、生徒があからさまに不信感と不満を募らせ始めてるからねー」


 反感を買うような事でもしたんじゃない?と麻美は言った。


「……人によって雑事を押し付けたり、なんか色々やってるっぽいんですよね、キーキー煩いとか発言が鼻につくとかって言ってる生徒も居ましたね」


「大丈夫かなそのクラス本当に」


「いや本当に辞めて下さいよ」


 後にその懸念が本当になるとは芳果は思いもしなかった。


「しかしあの三人もこれで『常盤の庭』所属かー」


 やっぱりかー、と麻美は呟いた、これでも名目上の『常盤の庭』の顧問で戸締まりの確認だけ普段はしている。

 行事をするときの予算や都合をつけるのをその時のお社の管理者と相談して行っていたりと仕事をしているときもある。


「『常盤の庭』には名目上の副顧問として、挨拶に行ったり、書類を届けたりしてますが、所属している人の基準が私にはわからないんですよね。何が基準になってるんですかね?」


 テスト結果とか見ても統一性があまりないですし、と芳果は言った。


「あー、明確には公開されてないのよね、私は長く顧問をやっているからなんとなくわかるけど具体的に上手く説明は出来ないかな……」


 そう言った後、先ず、と話が始まった。


「うーんと、もし花島先生がこの学校に通っていたとしたら、入学してすぐに所属の勧誘や紹介をされてたと思うかな。実際今副顧問だし」


 基本的に『特別な子』が勧誘されるわね、と麻美は言った。


「『特別な子』とは具体的になんなのでしょうか?」


「それは文字通り『特別な子』よ、基準がまちまちで、生まれつき目が悪くて恐ろしく耳が良かったりとか、腕力が人並外れてる上に燃費が良かったりとか、逆に燃費が悪くて素早かったり完全記憶が出来る代わりに睡眠に難を抱えてたりとかまぁ、色々ね」


 気性に難を抱えてたり、人と交われなかったり、逆に人を汚染したり、とそういう意味でも様々で説明が難しいと麻美は言った。


「先天的なモノだけでなく、後天的にナニかを得ることで『特別な子』になることもあるから説明が難しいわね」


 死ぬような思いをして何かに目覚め輝きを得た者が居たと麻美は話す。


「基本的に『常盤の庭』はその時のお社の管理者が最終的に所属の許可を出してる訳だけど、独断と偏見という訳ではなく基準はしっかり決められてるみたいなのよねぇ」


 やっぱりお社に特定の人間を集める事に意味があるのかなー、と麻美は言った。


「感覚的にしかやっぱりわからなくて、なんというか四次元基準の物を三次元の理屈や法則で見てる感じなのかな?と私は思うけど、そういうのも含めて神秘なのかもしれないかな?」


「なんていうか……神秘とか怪奇現象なんて言葉を理系の小林先生が使ってるのがシュールですね」


「別に生物は解明されてないものは普通にあるし、生命の神秘とかそういう言い回しもあるし」


 気にすることでも無いよ、と麻美は言った。


「結局、あの三人は正式に『常盤の庭』へ所属するとしてそこに導いたのは、十中八九ヤシロ先輩だろうね……ん?」


 あれ、と麻美が声を上げる。


「小林先生どうかしましたか?」


 芳果は心配の言葉をかけた。


「いや、何でもないわ」


 麻美は無理矢理話を切り上げた。

 ヤシロ先輩の存在も意図も知らない立場なのでこれ以上は考えないほうが良いと思ったからだ。

 朝の職員会議の後、芳果は学年主任に三枚の書類を提出してから次の授業の準備の為に用意した多くのプリントなど教材を取りに資料室へ移動する。


「……まぁ、これが神の思し召しって奴なのかな」


 麻美は芳果と別れた後そう呟いた。

 麻美は麻美で職員室から出て科学実験室に向かう。


「賢い子は好きよ」


「!?」


 不意に声がして麻美は振り向く、すると去っていく嘗て高校生の時に見た時と変わらない長い黒髪に二つの小さなお団子をしている後ろ姿の女子生徒を遠くに見た。


「やっぱり聞かれてますか……」


 あまり変に話をしなくて正解だったな、と心の中で麻美は思いつつ冷や汗を掻きながら実験室まで急いだ。




 七不思議のヤシロ先輩は偏在する存在になっていて

 土地神でもあるヤシロ先輩には学校内でのだ。





 


 

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