怪談を謡う
調査依頼 (『中断と先達の加入』の後のお話)
八代先輩が二日後に私達三人に七不思議の案内をしてくれる事が決まり、その次の日に調べることにした。
「おはようございます、花島先生、上級生探しのお願いがあるのですが」
私達のクラス副担任の
まだ若く滅多にない華やかな美人で、背は高く、パンツタイプの露出の無いスーツ姿をしている。
話によるとハーフらしく色素の薄い肌と不思議な色彩の瞳を持つ派手な顔立ちと生まれつき明るめの茶髪をミディアムくらいに切り揃えている。
派手さを隠すようなメイクや服装しているようだが、それでも隠しきれない美人女教師である。
因みに帰国子女らしく担当教科は英語である、後マルチリンガルらしい。
「おはようございます、あら、稲見さんが頼み事とは珍しいですね」
良いですよ、とすぐに返事を貰えた。私自身が成績上位者で担任に雑事を色々任されてるのもあるだろう。
すいません、ありがとうございます、と頭を下げたあと本題に入った。
「昨日、放課後に友達と学校探検をやっていたのですが、最後の方で八代翠子先輩という髪の長く緑のネクタイをした三年生に会ったんです。明日、校内の案内をしてくださると約束して貰えたんですが。今日のうちにお礼と打ち合わせをしたくて、でもクラスを訊き忘れてしまって、クラスを教えて欲しいんです」
私の話を聞きながら花島先生は紫色に見える目で私をじっと見ていた。
「そうでしたか、では調べるのはヤシロミドリコ先輩の在籍クラスですね。」
「すいません、お願いします」
わかりました、とメモを取って花島先生は了承してくれた。
「ではお昼時までには知らせしますね」
花島先生はそう言って職員室に向かった。
職員室で隙間の時間に芳果はパソコンで生徒名簿を確認していた。
「あれ、見つからないわね……」
最初は三年生と二年生の生徒名簿を借りて読んだが該当の生徒は見つからず、今度はパソコンを使い名簿データで読み仮名で検索にも掛けたが見つからなかった。
「花島先生、さっきから生徒名簿を確認してどうしたんですか?」
白衣を着て中はタートルネックの緑色の服にスウェットでサンダル姿の先生がやってきた。
眠そうな不機嫌にも思える顔をした雑に髪を後ろに纏めて流した女性で担当教科は生物の
四十を越えてるらしいがそうには見えず、三十代にも見え、綺麗な肌をした先生である。
「あぁ、小林先生、副担任をしてるクラスの生徒にとある上級生の在籍クラスを調べてほしいと言われたのですが、見つからないのです」
あ、ここのパソコン使いますか?と芳果は言ってから何をしていたのか麻美に説明をした。
「ふーん、名前の覚え間違えとか……あるいは、そもそも嘘だったとかは?」
別にそこのパソコンは使わないから気にしないでと言ってから麻美は答えた。
「それについては一文字スペース空けたり、一文字消して探したり、色々試してみました。ですがそれっぽいものは見つからなかったです。嘘かどうかについてですが。相談した子は成績優秀で学年英語テスト一位の滅多に人に頼らない子なのでそういう事はしないかな……と見た感じ嘘は言ってませんでしたし。後、友達と居る時に会ったと言っていたのですぐバレる嘘はつかないか、と」
「花島先生が言うならそうなのかもね、というか相談者あの子か」
そう言って空いている隣の席に座った。
麻美は芳果の担当クラスの英語テスト一位で誰か特定したようだ。
「ところで誰を探しているのです?」
「ヤシロミドリコさんという人で髪は長い制服のネクタイは緑色だったそうです」
「おや」
麻美は一言告げたがそれ以上は口にしなかった。
「今年度の学年だと三年生の扱いなので三年生かと思ったのですが、見つからず……留年がこの学校ありますからそれで他の学年も探したのですが」
見つかりませんでした、と芳果は言った。
「……なるほどね、相談者は稲見さんでしょ?確かに嘘は言ってない」
「はい、相談者は稲見さんです」
「でもそのヤシロさんはそもそも生徒ではない」
「……えっ!?」
「あぁ、花島先生はまだここに勤めて数年で浅いし、帰国子女だから知らないか……」
「なんの事ですか?」
馬鹿にされてるわけでは無いんだろうがなんか嫌な言い回しなので率直に芳果は返事をした。
「花島先生は学校の怪談て知ってる?七不思議とも言うかもしれないけど」
「存在は知ってますが……小学生とかの作り話では?」
「別に小学生だけじゃなくて、大学とかにも存在するよ。殆どは花島先生の言う通り与太話だったりするけど、説明が出来ない現象が起こったりとかすることがあってそういう話も紛れてるのよ」
おそらく今回も話の発端はソレでね、と麻美は言った。
「今回の謎の女子生徒は」
「ここ学校の怪談に『謎の先輩女子』――ヤシロ先輩という三年生であろう人と話したが、後で教室を調べて会おうとするとそもそもそんな生徒は存在しなかった――というお話があるんですよ」
まさに今回の話そのものですね、と麻美は言った。
「それ大丈夫なんですか?セキュリティ的な意味でも不審者が居ることになるじゃないですか」
嘘じゃない事が問題の事象だと芳果は言う。
「因みにこの怪談について私はこの学校の生徒だったときから知ってたわ」
あ、私がここのOGなの知ってる?とついでに麻美は芳果に言った。
「……え?」
二つの意味で芳果は訊き返した。
「この怪談、学校が開校して暫くしてからはずっと存在する話で実際に年に何回か起こるのよね」
どういうことかわかるわよね?焦る芳果に対し冷静に麻美は告げた。
「ここ創立百年超えてますよね……?」
「そうよ、だから人間じゃないし、そもそも外から入ってきてるわけでもないから、どうしようもないわね」
「外から入ってきた訳では無い?」
「最近だと校門なり裏口の監視カメラの記録に出入りが確認出来なくても発生してるし、出ていくところも確認されてないから、学校のどこかに居ることになるわね」
「その後学校隈なく探したんですか?」
「一応何度か探したことはあったそうだけど、最終的に前の理事長にやっても無駄だと止められたそうよ」
実際見つからなかったそうだし、と麻美は言った。
「別に何かその後事件が起こった訳でもないし、探したところで多分幽霊か何かの類いだから意味ないでしょうね」
お社の管理をしてる人達なら色々知ってそうだけど、と麻美は淡々と言う。
「ここの学校、祠サイズではないお社が存在していたりスピリチュアルなモノがあったりするからそれに関する怪談や奇談も存在するからねー」
別に宗教の学校ではないんだけどね、と麻美は言った。
「それはそうですね……で、稲見さんにはどう説明すれば良いですかね……」
芳果は素直に麻美に相談する。
「『彼女は在校生ではないが、学校は出入りを黙認してる人物だ』とオブラートに包むしかないかな?あまり警戒心を煽るような真似は良くないし」
一旦嘘を言わない様に誤魔化すしか無いかな?と麻美は考え込む。
「警戒はしたほうが良いとは思いますが……」
何故誤魔化す必要が?と芳果は問う。
「いや、露骨に警戒されてヤシロ先輩の気を悪くさせて何か起こっても困るのよ。ヤシロ先輩は学校の敷地から出ないと逃れられないんだから」
転校なり学校辞めないと断ち切れないんだよね、と麻美は言った。
「……地縛霊か何かですか?」
「むしろ地縛霊だったらお社の人達がどうにかしてる筈だと思うよ」
それはない、と麻美は即答した。
「まぁ、わざと放置されてるのを見るに黙認というか下手に干渉出来ない、したらどうなるかわからないのかもしれないわね」
「この話もヤシロ先輩に聴かれてる可能性もあるしね」
そう言って口元に自身の人差し指を持ってくる。
「えっ、まさか……」
下手な事は言えない、と真顔で麻美が言うと冗談ですよね!?と芳果が焦りだした。
「…………」
麻美は否定もせず無言を貫く。
「嘘だと言ってくださいよ、ちょっと!」
芳果の顔が必死の形相になりかけていたのを見て、麻美は口を開いた。
「まぁ、ヤシロ先輩は今のところ悪戯好きだけど子供を見守るのが好きな
私も生徒の頃に会ったことあるから安心して、と麻美は手をポンと芳果の肩に置いた。
「聞かれてる事への否定はしないんですか!?」
「まぁね」
否定出来ないからね、と麻美はしれっと言った。
「あ、毎年新入生に苗字にヤシロさんが居ないか実はチェックされてるのよね、残念ながら今年の在籍する生徒にヤシロさんが居ないのはわかっているのよ」
「え……」
それはそれとして無駄骨宣言をされて芳果は固まる。
「なんていうか……御苦労様」
憐れみを込めて麻美は告げ芳果の肩をポンと軽く叩いた。
「……稲見さんにはぼんやりと伝えておきます」
肩を落としながら芳果は言った。
「――と言う訳で、一応出入りが黙認されてる人なのよ、あまり警戒しないであげてね」
お昼時に芳果は教室前で忍に報告した。
「……やはりそうでしたか」
ありがとうございます、と驚きもせず忍は言った。
「あれ、知ってたの?」
芳果は驚いていた、色々と言いたいことはあったが飲み込む。
「少しお話して、だいぶ昔の学校の事とか妙に詳しかったので上級生にしてもあまりに違和感がありました。なので確証が欲しかったので詳しくお伝えせずに先生にお願いしました」
半ば騙すような形になってしまいすいません、と忍は頭を下げた。
「いえ、貴方は嘘を言ってなかったのはわかっているから今回構わないわよ。今回に関しては素直に言われても信じられるか分からなかったから」
気にしないでと芳果は両手で否定した。
「その代わり、話せる範囲で良いから明日の放課後の出来事を後日報告するようにね」
人差し指でビシッと決めて言った後、芳果はお昼を食べに、教室前から立ち去っていった。
「ありがとうございました」
そう言って忍もお昼を食べる為に教室に戻っていった。
怪談話は伝染していく、そして色々な形に変質し乱立し偏在する存在となっていく。
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