学園の杜たる存在
「お待たせしたわね」
「お待たせ」
「上から下まで一気に降りたから疲れちゃいましたかー?」
昇降口で待っていた美貴と桃香に合流した。
「いや、少し先輩に質問をしててね……」
「先輩と二人で何をお話していたの?」
「さっきのお琴について、ね」
桃香に訊ねられ私は答えた。
「アレ、じゃあ、何で和室でしなかったのー?」
清々しいというか、色んな意味で無神経な事を美貴は言ってくる。
「あのねぇ、隣の部屋の人間から生気を吸えるようなモノの前で下手な質問出来ないでしょう?悪口とか下手なこと言おうものならガッツリ吸われかねないでしょうが」
一昨日の美貴の二の舞は嫌だと私は言った。
「あー、それもそっか……」
私は真っ直ぐで素直な美貴が良いと思う。
「つまり、デリケートな内容だったと」
美貴を横目に桃香が訊いてきた。
「例のお琴が何であんなに綺麗だったのかを訊いただけ」
「理由……答えは?」
あぁ、なるほどと桃香は私に促した。
「そのまま、吸い取った生気で綺麗な状態を維持しているらしい、と」
私はそう言いながら、ちらりと先輩に目配せをした。
「稲見さんの言っている通りでしてよ、ただ、この学校は昔から尖った子が多いからそういう意味でも大人しくさせる意味はあるのよね」
先輩の言う尖った子とは、現実離れした身体能力を持ってたり、一芸に秀でていたり、ひと目見ただけで
そういう人間には気性や挙動などに問題を抱えていたりする者も少からず居ると聞いたことはある。
「尖った子を見守り育てる目的がこの学校の前身の機関の頃からあったそうですしね。引き継いでるこの学校には元々山のお社の一族のような一芸あるいは力を持つ者、他所から流れてきた並み外れた身体能力の持ち主、一度見るだけでそつなく熟す天才が度々現れるのですけど、その分学級が荒れてしまうそうですよ」
「あー、そうなんですか……」
桃香の顔が真顔になっている、父親が先祖返りの問題児だからだろう。
「そういう子は力が有り余っていますし、若いから回復も早い。そういう意味でも問題になりにくいんですよね」
そもそも音楽の授業って選択科目の週一の二コマですし、と先輩は言った。
「美術と音楽と書道の選択ですね」
桃香が言った。
因みに桃香は美術、美貴は音楽、私は書道の授業をそれぞれ選択している。
音楽を選択しなければ音楽の授業に関わらずに卒業することになる。
「学校の前身の施設……か」
私は史料室の写真集を思い出した。ここは神社だったように思えたが、それだけではなかったのか。
気にはなるけど今は七不思議の探索が優先である。
「ところですいません、昇降口まで降りてきましたが次は何処に行けば良いのでしょうか?」
桃香は手を挙げて質問をした。
「お次は学園の一番大きい木についてですわね」
なので外の一番立派な木になりましてよ、と先輩は説明した。
「私も気になります!」
桃香の言葉に空気が凍りつく。
「……では参りましょう」
「はーい」
「あぁ、待って下さい!?」
何事もなかったように先輩の言葉に従って私たちは移動した。
私達は南校舎に近い学校の中で一番大きな木にたどり着いた。
「コレが例の木になりますかねー」
一番高い木はコレでしょと美貴は言った。
そしてまだ駄洒落を引き擦っていると見える。
「えぇ、杉の木になりますわねー」
意外にも先輩もノッてきた。
「その木になりますわー」
私もノッてみる。
「ゴメンて、わかったから!!」
流石に恥ずかしくなったらしく桃香が辞めてくれと言い出す。
「はい、ではこの杉の木は一応この学校にあるお社の御神木になりますわ」
先輩が元の調子で説明を始めた。
「え、そうなんですか!?」
結構離れてるのに、と美貴が言う。
「では、宮島さんに質問です。このご神木を擁する神社の領域ってどこまでだと思いますか?」
先輩が突然、美貴に問題を出す。
先輩は私と桃香にはしぃーっと言っちゃ駄目だとジェスチャーしてきた。
「えっ……!?鳥居はある周りだけだとこのご神木の説明がつかなくなりますよねー……?」
うーん、と美貴が真面目に悩む。
別に美貴は馬鹿ではないのだ、持っている情報をある程度は扱えるのだから。
その為逆に何をしでかすのか分からないのだが。
「学校の西半分でしょうかー?」
自信無さ気に美貴は答えを述べた。
それを聞いて先輩はニヤリとして口を開く。
「うーん、惜しいー。正解はこの学校の敷地全てが神社の領域でしたー」
だいたい正解でしてよー、と若干美貴の口調の真似をしながら言った。
「へー、そうなんですかぁ」
私は知らなかったので普通に驚いていた。
桃香は表情は一切変わっていない、知っていたのだろう。
「あら、斉木さんは知っていそうな顔をしてますわね、説明は出来まして?」
「えっ!?あ……」
急に話を振られて桃香は焦りだすも、一呼吸してから話しだした。
「えーと、山のお社の先輩が聞いたんですけど、神社の社殿はあくまで人の為のものだったりすることが多いと。自然を崇拝、御神体とするモノは建物はなおさら特に飾りに近いと。大昔は建物は無かったそうで神社としての機能は建物が無くても機能すると言ってました。そしてお社の先輩曰く、重要なのは御神体と何より神の領域を分ける為の
若干しどろもどろだったがどうにか桃香は言い切った。
緊張から解放されたのか若干息切れしている。
「はい、とても良い答えですわ」
その通りでしてよ、と先輩は桃香を褒める。
「学校の地図では鳥居と社の周りが神社であるかのような表記になってますが、神社から見たら学校の敷地が全て神社、神の領域に実はなっているんですよね」
おそらく意図的なんでしょうけど、と先輩は言う。
「あー確かに全周を多くの木が囲って茂ってるし、学校の外から見たら確かに森っぽいですもんねー」
美貴がなるほどーと頷く。
「神社と言う割に、別にここの学校は私学だけど神道とか宗教を主張してる訳でもないですよね?」
鳥居と小さな社以外は主張していないと私は思っている、ある一つの点を除けば。
「あー、それについては、前身の施設自体も神社が運営してたけど、目的は別にあったからですわね。神道の教えとかは正直どうでも良くて、形さえ整えてあれば問題は無かったのですわ」
教えを信じなくても、問題ないと宗教とか信仰心とかなんか攻めた発言をしてくる先輩が居た。
「あっ、そういえばー先程の琴の話にも出てきましたが、前身の施設とは何なのですかー?」
美貴が施設について質問をした。
すると先輩は桃香の方に目配せをした後、口を開いた。
「かつては『常盤の庭』と呼ばれる集まりがあって、様々な所から子供を集めて学ばせて居たそうです。優れたこの中には、名君を支える懐刀みたいな家臣になったり、名君の母になったりと大成した者も居たそうですよ」
今でも互助会の形で名前が残ってますわね、と先輩は説明した。
「へーすごーい」
美貴は素直に驚いていた。
桃香の方を見ると微妙な顔をしている。
おそらく先輩は間違った事を言ってはいないが本当の事も意図的に言ってない部分がある。
まぁ、それは今重要な事では無いが。
「つまり、形さえ整えてあれば問題は無い、だから、学校の形も神社の杜の体裁に整っていればぱっと見の神社の部分が小さかろうが問題ないと」
そういうことですかね、と私は先輩をじっと見て言った。
すると、先輩はニコッと私を見て笑い口を開いた。
「はい、稲見さんの仰る通りでしてよ」
良く出来ましたね、と先輩に褒められた。
「ここでの七不思議は
この学校の根幹的な部分を暗に示す重要なファクターなんだろうと私は思った。
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