お社と巌

「お次は当たり前ですけどお社ですわね」


 最後はやはり神社らしい、皆で移動を開始する。

 大木からそれなりに離れてるとはいえ、校舎とは違って平面で直接行ける関係でわりとすぐに鳥居まで着いた。

 鳥居の傍らにはデカい岩が鎮座している。

 そして先輩が説明を始める。


「ある意味、この学校で一番古くからある建物ですわね。先ほどお話しした『常盤の庭』の人達が集まっていたり、お社の人が管理していたりしますわね」


「あれ、『常盤の庭』の人達ってお社に集まってるんですか?」


 そんなスペースあそこにあるの?と美貴が先輩に質問する。

 お社の前まで皆で少し移動した。


「あのお社はあくまで人が集まるための物なので、そこに所属し集まっていた人達が『常盤の庭』を出た後信奉者を集めたりもしてましたが。そもそも神社が祀る神様の御神体はお社、この社殿には無いんですのよ」


 実はね、といたずらが成功して嬉しがってるような顔で言い方をする。


「えぇっ、そうなんですかー!?」


「そうなんですよー」


 美貴はでかい声上げて驚く。

 その姿に先輩とても嬉しそうな顔をしていた。


「まぁ、斉木さんはご存知だと思いますけど」


 先輩はそう言って桃香の方を見た。


「えぇ、まぁ、社殿あそこに用があってお邪魔したことありますからね。和鏡とか石などのモノもなければ何かしらの仕切りとかは一切見当たらず、何というか生活感が溢れていた気がしますね」


 それっぽいものは無かったと桃香も頷いた。


「え、じゃあ、あの神社は何を祀っているのですかー?」


「うーん……が正しいのかしらね?」


 何か煮えきらない様な事を先輩は言った。


「え、ナニソレ、何なんですかー?」


「説明が難しいんですのよね。学校が建てられる前はこの神社では川の神として祀られてましたが、神社の領域が学校となり並立した関係で祀られた神様も変質したんですの。そして学校の怪談によって七不思議に変質したので、川の神だったモノに変貌した訳ですわね」


「ほえー、なるほどー」


「美貴、あなた絶対わかってないでしょ」


 桃香が美貴を見て冷静に言った。多分若干呆れてるよう。

 多分わかってないのだろうとは私も思う。


「御神体は本殿では祀られてないと先輩はおっしゃってましたが……もしかして鳥居の傍らのデカい岩ですか?」


 注連縄が巻かれてる緑色が混じるデカい岩を指して私は言った。


「あら、正解でしてよ」


 よくわかったわね、と先輩に褒められた。


「単純にここまでに得た情報を元に纏めたまでです」


 と言ってたので、と私は言った。

 正直なところもはやただの消去法である。


「そう……聡明な貴方なら前に進めるでしょうね、私自身は宮島さんの方が好きだけど」


 岩の前まで行ってから先輩は神妙な顔で私に向かって告げた。


「そうですか……」


「えっ、なんのはなしー?」


 そんな君が一番好きというフレーズを美貴に対して私は思い出した。


「本当に何の話なんだろうね」


 状況を飲み込めないのと空気が変わったのを感じた真顔の桃香も居た。


「ここで何をしてるんだ?」


 急にかなり低い男性の声がした。

 振り向くとかなり背が高く、Yシャツを着てても隠しきれない筋骨隆々の身体に赤のネクタイをして更にブレザーの代わりに何故か黒のチャック付きパーカーを羽織る威圧感満載の男子生徒が近付いてきた。

 顔も整っている方に見えるが野生的な印象が強く正直かなり怖い。

 ネクタイの色を見るに2年生である。

 二年生の先輩男子がこっちを睨んでくる上に殺気まで放っているように感じた。

 

「あ、龍野先輩、こんにちは」


 臆さずに桃香が前に出て挨拶をした。

 私と美貴も挨拶をする。


「斉木達だったか、何やってんだココで」


 何だお前かと言った後、龍野先輩の顔つきも無愛想な感じになり威圧感諸々がましになった。


「先輩と友達と七不思議ツアーをしてました」


「なるほど、その二人が友達か……で、先輩はどこだ?」


「えっ、岩の前に……えっ、先輩!?」


 私たちが岩の方を振り返ってみると岩の前に居た先輩がいつの間にか居なくなっていた。

 龍野先輩に私達が気を取られてる中で何処に身を隠したんだろうか?

 というか結局先輩は一体何者だったんだろうか?


「化かされたな」


 そういう言葉とともに音を立てず静かに龍野先輩と同じ赤いネクタイをして普通に制服を身に着けたあまりにも黒い絹糸のような綺麗な長い髪を緩く長く三つ編みにさせた先輩女子生徒が現れた。

 お社の管理をする「山のお社の一族」の祝実子先輩だった。

 あまりにも白い肌と長い睫毛から除くクロム透輝石のような瞳と人形めいた美貌は惹きつけられるのと同時に恐ろしさをも感じさせる


「祝先輩……えーと」


 三人共とりあえず挨拶をした。


「こんにちは」


 御丁寧にありがとうと返された。


「で、ミノリ、化かされたとはさっきまでそこになんか居たのか?」


「まぁ、とても悪戯好きなのが」


「居て良い奴なのかソレ」


「うーん……まぁ、取り敢えずここで話し込むのもなんだから、桃ちゃん達もお社にいらっしゃい」


「じゃあ、とりあえず行くぞ」


「はーい」


 そうやってお社の管理者の祝先輩に私達は招かれてそこに居た全員で移動した。




 

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