七つ目の正体

 私とは実子様に招かれて神社の御社の中に初めて入った。

 畳張りの集会所みたいな見た目をしてて、真ん中には低い長テーブルが置いてある。

 部屋の隅には箪笥などもあり、確かに生活感があった。

 私達は先輩達とはテーブルを挟んで畳の上に座り真ん中に桃香が居る形になっている。


「さて、一応自己紹介をしておくか、私は在学中この社の管理を担当している祝実子ほうりみのりこだ」


「自分は龍野紅葉たつのこうようだ、龍野の養子に入ってるが、血縁的には常盤の当主の兄の子供なので甥にあたる。普段はミノリのお目付け役等を兼ねている、なので基本的に直接話しかけられない限り話さないぞ」


 常盤家は私の血縁がある若葉家の本家である。そして常磐の当主はこの学校の理事長でもある。


「えーと、私は先輩お二方と昔からそれなりに面識がありますので私の友達を紹介する形ですね」


 そう言って桃香は友達のいる方を手の平で示し紹介を始めた。


「彼女は稲見忍さん、私の長い友達で実子さんは面識があるかもしれません。龍野先輩は恐らくなぜか初対面ですよね、彼女は若葉の子でもあります」


 そう、何故か初対面である。

 そしてそれを何で桃香が知っているのだろうか。

 先程の反応で察したのか、どうなのか謎である。


「始めまして、貴方が龍野先輩だったんですね、私は稲見忍です。私の母は若葉の当主の従姉妹なので一応若葉の娘でもあります」


「あぁ、と言うことは一応親戚か、いやじゃあ何で会ったことないんだ?」


 それは私が聞きたい。


「おそらく母が実家にすら顔を出さないからですね」


 母は親族に対する劣等感の塊だからだろうな、と私は思っている。


「そうだったか、こっちも微妙な立場なので常磐として接する必要は無いから宜しく」


「はい、わかりました龍野先輩……って龍野家も奥方が政理家の方じゃないですか」


 政理家は此処ら一帯の御三家の一つであり、一番経済力があり経済的支配や大都会の財閥にも血縁があったりする家である。


「そっちは公じゃなければ此処みたいな仲間内なら問題ない」


 養子だからな、と龍野先輩は言った。


「そ、そうですかぁ」


「では次はこの学校で知り合った友達の宮島美貴さんです。元々都会に住んでいたそうです」


「宮島さんとは一応会ったことはある、がだいぶ前だな。何故なら以前同じ事件に私の姉も巻き込まれたので祝家と政理家が同じ被害者の宮島さん一家を此方への移住を勧めてた筈」


「祝先輩のおっしゃる通りですね、私は宮島美貴です!龍野先輩は始めましてですねー」


 とても素直というかストレートに名乗っていた。

 美貴の家は招かれた家らしい。


「そうだったのか、済まんなさっきは態度が悪くて、威圧して悪かったな」


 自己紹介の後、龍野先輩は謝罪をしてきた。素の威圧感は凄いけど割と面倒見の良い人な気がした。


「いえー、仕方ないですよー、隠れちゃった八代先輩が言ってたんですー。あの岩は御神体だって、だから大事なものに悪さされないように警戒するのは普通ですよー」


 そういえば、八代先輩はどこに行っちゃったんですかねー?と呑気なことを美貴は言っている。


「八代先輩……そういえば斉木達は七不思議巡りをしていたんだったか?」


「はい、そうです」


 龍野先輩の問いに桃香が頷いた。


「七不思議か……」


 そう言ってクツクツと笑う。


「実子様?」


 どうしたんですか!?と私が言うと実子様は訊いてきた。


「そういえば七不思議はどこまで聞いたんだ?」


 それに対して桃香は答える。


「えーと、史料室と屋上の階段とトイレの鏡と、音楽室の隣のお琴、学校一番の大木、そしてここの社と岩でした」


「つまり六つか」


 実子様はなるほどと返事をした。


「最後の七番目はなんだろうねー?」


 美貴がマイペースにそう言った。

 するとブフォっと実子様が噴き出した。


「あ、だめだ、あはははは」


 無言で龍野先輩が実子様に水筒を差し出した。

 どうやら虚弱な実子様の荷物を龍野先輩は全部持ってきていたようだ。

 実子様は何も手に持ってなかったのに鞄が部屋の隅にいつの間にか置いてあった。


「先輩落ち着いて下さいー」


「あはははは」


 駄目みたいである。

 美貴の言葉で笑いはさらに持続している。


「そういえば八代先輩やたらと学校の事に詳しかったですね」


 怪しいレベルで色々な事を知ってたと見える。


「あぁ、それはね……彼女は学校の土地神だからね、学校の敷地において彼女に隠し事は出来ないよ」


 笑いが収まった実子様はそう言った。

 八代は社をもじったモノだったんだろうか。


「えぇっ!?そうだったんですかー?」


 美貴がデカい声で驚く。

 また実子様は笑いそうになりこらえる。


「あーうん、つまり、七番目は『謎の先輩女子生徒』、彼女が最後の七不思議だったわけだ……ぶふっ、ダメだ、ぶふっ」


 反応がツボだったのか実子様はまた大笑いし始めた。


「頼むから落ち着いてくれ、咳き込んで大変な事になるぞ」


 龍野先輩が慌てて実子様の背中を擦っていた。


「美貴は少し黙ってようか、龍野先輩が大変だから」


「えー、まじー?……ハイ」


 桃香が見かねて美貴に言うと、美貴が不満そうな顔をしたが龍野先輩に割とガチで睨まれてすんとなる。

 

「しかし……一応八代先輩が生徒じゃないことには割とすぐ気付いてましたが、土地神様だったとは流石にわかりませんでした」

 

「え」


 美貴は私の言葉に反応したが黙れと言われてたのを思い出したので、少しの声だけ上げるに留まった。


「確かにパパが毎年撮影してるって私も言われて、だったら私も八代先輩の姿の画像を、見たことあるはずなのに一切見覚えが無かったので、違和感を初対面で覚えました」


「あぁ、桃香のお父さんはカメラマンでここの広報の写真とか担当してるんだっけ、嘘は言ってないけど何か誤解されそうな言い方ね」


 大方、神社関連のモノを撮ってたということだろうけど、と実子様は言った。


「!?」


 美貴は声を上げなかったが、すごい顔をしていた。

 

「ふ……」

 

 既に落ち着いた実子様はそんな美貴を見て面白そうな顔をしていた。


「えーと、この神社に祀られているモノは、『川の神だったモノ』と八代先輩は言ってましたね」


 私が発言すると実子様が頷いた。


「その通り、御神体が岩なのはもう知ってると思うけど、元々はあの岩が採れた川の神様を祀っていたんだ。その後ここに学校を建てた関係で、神社の形は崩れなかったけど中身が変質した。最早御神体が岩そのものだった事川の神だった事を殆どの人が忘れて、いつの間にか学校の七不思議になっていたんだ」


「だから川の神というよりも学校の土地神の方が相応しい呼び名になってしまっている状態だ」


「あ、八代先輩の神社や岩の説明はアレ自己紹介だったんですか」


「……本人の話を聞いてないから断定は出来ないけど、おそらくは」


 たまには自分のアピールをしたいんだろう、と実子様は言った。


「川の神様、七不思議に取り込まれたような形になってますけど大丈夫なんですか?」


「えぇ、結果的に悪戯好きで幼くなった気がするかな。だがまぁ、死人が出るほどでもなければ何らかの損害で騒ぎにもなってない。川の神様が七不思議を纏める存在へと変質したことによって、学校内部が比較的安定してる状態だから下手に手を出せないというのが本音かな?」


 正直色々難しい、と実子様は言った。


「そうなんですかぁ……」


「御神体が岩でそれは揺るぎないし、祭祀は祝と姫川で管理してるから今のところは安定してるけど」


「そういえば、七不思議探索のときに八代先輩が度々鍵付の扉や鍵付の長櫃等を鍵を使わずに地味に開けたり閉めたりしていたのですが、あれは土地神様の力だったんでしょうか?」


 実はお琴のあたりとかで気になっていたので質問してみる。

 すると実子様は目をパチクリさせる、そして感心したような顔をした後説明してくれた。


「それはそう、よく見てたね。土地神様はその土地においては様々な力を行使できる存在で、その土地において土地神様には隠し事は出来ない。基本的には眠っているけど七不思議になった関係で活発で色々と遍在した存在になっているみたいね」


 まぁ、神様ってそういうところあるけど、と実子様はぼやいた。


「そうなんですかぁ」


 こうして、七不思議に関わった短い非日常は幕を降ろしたのだった。


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