四階トイレの鏡

 私達は南校舎四階まで上がりきった。南校舎南校舎の四階は美術室が二部屋と美術準備室など他にも美術関連の施設の部屋が多くある。


「気を取り直して、次は南校舎四階トイレの鏡ね!」

 

 元気な美貴が言った、もしかしたら空元気かもしれないが。


「さっきの出来事で私のテンションだだ下がりなんだけど」


「確かにしんどかったね」


 何だったんだアレと私が言うと桃香もそうだねと頷いた。

 別に美貴が悪い訳では無いが七不思議作ったのモノのセンスは無さそうだ。


「奥のトイレの鏡に関する事だった筈、なんか満月の日に合わせ鏡にしてから呪文を唱えると何かが鏡から召喚されると言うものみたい」


「えー何それ凄そー」


 召喚儀式かー、と美貴はわかりやすく目をキラキラさせていた。


「合わせ鏡?」


「どうもコンパクトミラーを持ち込めば良いみたい」

 

 私の問いに桃香は制服のポケットから折りたたみ式の四角い鏡を、取り出した。


「これをトイレの鏡に合わせれば合わせ鏡になるから」


「……これ条件とか緩すぎて誰でも出来るよね、召喚儀式」


 満月の日なら誰でも出来るよね、と私が言うと桃香もそうなんだよねと答えた。


「呪文も短いし、覚えやすいから誰でも出来るんだよね。だから何か問題が起こってたらトイレの鏡を移動させたり取ったりしてると思うから問題ないかなと」


 桃香は冷静というか冷めたように告げた。身も蓋もない言葉である。


「ま、まぁ、七不思議ってそういうもんだよね」


 まぁまぁ、美貴は場を和ませようとする、やる宣言をしたからには辞めづらいのもあるだろうけど。


「それで呪文なんだけど……」


「『ネガワクハ、キコシメセ、カワノタマヒメ』だって」


「確かに短い」


 これなら私でも覚えられるね、と美貴が言う。


「というか、高校生ならこの呪文『どうかお願いします、聞いてください、川の玉姫様』って言ってるだけだと分かるよねコレ」


 古典がどうとかと言うほどでもなくただの文語文である。


「え、シノちゃん分かるノー!?」


「え、ミキちゃん古文の時間何してるノー!?」


「……美貴ちゃんテスト大丈夫?」


 私が何となく同じテンションで返すと桃香が素で心配して言葉を投げかける。

 逆にそれは心にぐさりと来る追い打ちになっている気がする。


「あ゛ぁぁぁー!?」


 やっぱり駄目だったようだ、美貴は奇声を上げた。


「え!? あ、落ち着いて、儀式始めるよ!」


「あ゛ぁー?あー、うん」


 桃香の声かけでとりあえず正気に戻ったようだ。桃香が持っているコンパクトミラーを開けてトイレの鏡に合わせてから美貴が呪文をとなえる。


「願わくば、聞し召せ、川の玉姫様」

 

「で、何を訊くの?」


「え?」


 なんのこと?と美貴が言う。


「さっき言ったけど、これじゃただ『どうかお願いを聞いてください、川の玉姫様』としか言ってないでしょ」


「その後に願い事とか言うあるんじゃない?」


 そう私が言うとそうなの!?と美貴は言った。


「今回は美貴が呪文を言ったから、美貴の願い事を言うんだよね」


 鏡を合わせ鏡にし続けている桃香が美貴に促した。

 合わせ鏡と言い先程の屋上と比べると凝っている気がして七不思議を考えた人は別なのかなと私は思った、あるいはこれは本物の儀式に則したモノなのかと。

 でも私は本物なんてないと思っている。


「この学校の残った七不思議を全て教えて下さい!」


 美貴は大きな声で宣言した。

 その直後に美貴は壁にもたれてからずるずるとしゃがみ込んでしまった。


「あれ!?」


「どうしたの!?」


 私はしゃがんで美貴の肩を軽く手のひらで叩く。

 桃香もコンパクトミラーをしまってから私の反対側から美貴に声をかける。


「うーん?なんか力がいきなり抜けた」


 意識はしっかりあるようで美貴から返事が返ってきた。


「とりあえずトイレでしゃがみ続けるのはちょっと汚いから移動しよう」


 どうにか立てる、肩貸そうか?と私は聞き立ち上がる。


「うーんまぁ、動ける」


 そう言って、ノロノロ立ち上がりトイレの壁を伝うようにして出ようとした。

 するといきなりドアが開く。


「貴方達、こんな時間にこんな所で何をしているのかしら?」


 制服のネクタイの色は青で三年生ということを表しているとても髪の長い先輩がトイレ出入り口のドアを開けてやってきた。




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