第38話 はやく、逃げろ

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「諦めるな!」


 そこには、ハンドガンを構えたボルトが立っていた。


「警察官をなめるなよ!」


 バン! バン! ドン!


 そして、彼は巨人に対してハンドガンを3発撃った。それが無意味な攻撃だと分かっているだろう、それでも彼は正義の味方として倒せるわけがない巨人に対して抵抗しているんだ。


 撃たれた巨人は何事もなかったかのように、痛がる様子もなく歩き始めた。しかし、撃った男の様子が気になるのか、少しだけ方向転換をして、ボルトの方へと向かっていった。


「よし、巨人よ、俺についてこい」


 そうしてボルトは自ら、モンタージュ裏の狭い路地へと走っていく。そうか、ボルトは自らを犠牲にしてまで巨人を引きつけているんだ。これは時間稼ぎのつもりか、それとも僕を助けたかったのか、それは全く分からない。でも、彼は、間違いなく警察官だ。


「くそ、もう弾切れか」


 彼は弾の切れたハンドガンを補充しながらも、狭い路地の中に入る。すると巨人はモンタージュの建物を破壊しながら路地に入ろうとする。


「マジかよ、力強すぎるだろ!」


 ボルトは苦言を大きく声にして叫びながらも、弾を補充したハンドガンで巨人の目を撃つ。しかし効果はなく、ただ巨人を微妙に刺激するだけに終わった。さっきまでいた建物が、跡形もなく破壊されていく姿を僕はただ見ているしかできなかった。


「くそ、どこが弱点なんだよ!」


 巨人は上級モンスター、それしか情報は知らない。だから弱点がどこにあるかとか、少なくとも僕は何も知らない。でも弱点は必ずどこかにあるはずだ、討伐者なら間違いなく知っていると思う。


 でも、この街に討伐者はいない。都市一番の討伐者パーティーのウォーリアーズは活動休止した。こんな時にどうして、仲間を失ったから仕方ないけど。タイミングが最悪だったんだろう。


「おい、ビアス! お前は巨人の動きを観察して、巨人の弱点を見つけろ! これも報道の一種だ!」


 ボルトはゆっくりのっしりと動く巨人に追われながらも、弱点を探すよう言ってきた。流石は警察官、若くても情報把握能力は優れている。そうだ、僕は記者だ、推理力は人以上にある。僕にできる仕事はこれしかない、巨人に怯えてるよりは、こっちの方が性にあってる。


「分かった、絶対に死ぬな!」


「当たり前だ、俺をなめるな!」


 僕は巨人とボルトから距離を取りつつも、ゆっくりと着いていく。


 巨人は刺激を与えた人間に興味が動くのか、さっきボルトが撃ってから目的が変わった。引き続きボルトは巨人の目を撃っているが、弾かれているのか命中しているのにも関わらずダメージを与えられているようには見えない。


 北から南に向かっていたはずの巨人は、ボルトの方へと向かっていくようになった。虚ろな表情で、急に立ち止まったりする奇行が見られても、元はモンスターだ。だからこそ、弱点は絶対どこかにあるはず。


「やべっ、行き止まりだ」


 それもつかの間、ボルトが見せた一瞬の隙を狙って、巨人が地面を思いっきり叩いた。その瞬間、巨人の攻撃によってもろくなっていた建物が一気に崩壊した。ボルトはおろか、巨人も崩壊に巻き込まれてしまった。


 ドシャン!!


 崩壊の衝撃波によって僕は軽く10mくらい吹き飛ばされて、地面を強く転がった。すぐに起き上がって、腰を押さえながらその場所に向かうも瓦礫があるだけで、ボルトや巨人の姿は全く見えない。


 ボルト、おいボルト。大丈夫か、想像以上にレンガがもろくなっていたのか、それで巨人の攻撃に耐えられなくて崩壊したのか。やめろ、ボルト、頼む、生きててくれ、巨人は死んでいて構わないから、ボルト。


 グオオオオオオオオ!!


 少しすると、巨人がボルトを握りながら、咆哮を上げて起き上がってきた。ボルトは生きているのか、巨人の右手に収まっていてここからでは判別できない。生きていても生きていなくても、彼は巨人に捕まったんだ。その事実が、僕にはとても恐ろしかった。


「なんだよ……これ……」


 ボルト、なあボルト。大丈夫か、もう周りに市民はいない。ここには僕しかいない。ボルトを助けられるのも僕だけだ。でも、弱点を探そうにも手がかりが掴めない。本当に、どうしたらいいんですか。


 バンッ!!


 カンッ!!


 手を震わせながらも、僕は鞄からハンドガンを取り出し、それを巨人の背中めがけて撃ち放った。しかし、やっぱりモンスターに普通の武器は通用しないのか、簡単に弾かれてしまった。


「ビア……ハード、早く逃げろ!」


「君を置いて行けるものか!」


「お前の仕事は報道だ、この有様を後世に伝えろ!」


 巨人は少しずつ僕の方へと近づいていく。握る力も強くなっているのか、ボルトの顔はゆっくりと青白くなっていくのが見えた。


「はやく、にげろ」


「嫌だ、逃げない!」


 そうだ、モンスターを倒すには専用の武器が必要なんだ。ハンドガンや普通のナイフじゃ巨人には効かない。そしてここはモンタージュ、モンスターを倒すための武器くらい中にはあるはずだ。僕は急いでモンタージュに近づき、今にも倒壊しそうな建物の中から必死に剣を探し出す。


「なにを、している」


「剣を探している!」


 昔読んだ本に書いてあった、異国の地にはモンスターがまだ現れるから討伐者が市民を守るために戦っていると。そこには特別な剣を持った勇者たちが描かれていた。その本で戦っていた相手のモンスターはオークだったけど、巨人にも剣は効くはずだ。


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