第39話 剣
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「剣なら、2階の武器庫にある!」
ボルトは苦しみに耐えながらも、剣の場所を教えてくれた。もう僕を逃がすのを諦めたのか、なら剣を探し当てて戦うしかない。
崩れそうな階段、天井から落ちてくる瓦礫、ゆっくりと鳴り響く巨人の足音、それを全てくぐり抜けて、2階の武器庫に着いた。何がモンスターに効く武器なのかは分からない、何故なら読めない字で書かれた記号しか書いてないから。
でも、ひとつだけ明らかに場違いな剣が置かれてあった。他はハンドガンかショットガンなのに、何に使うか分からない剣が、ロッカーの中に仕舞われていた。そうだ、これに違いない。
僕はその剣を手にして、そのまま2階から飛び降りた。下は草まみれだったから怪我せずに済んだ。変な行動力だ、まるでダークエイジを参考にしているかのよう。
そうだ、ダークエイジさんは助けに来てくれないのか。彼は人相手なら戦えても、討伐者じゃないからモンスターとは戦えない、そのはず。彼もまた市民だから、先に逃げてしまったか。
「ボルト、剣だ!」
「……もう、ダメみたいだ」
必死に巨人の手から逃げ出そうと抵抗していたボルトは、もう諦めたのか動いていない。それどころか白目を向いていて、腕もブランブランとしている。
グオオオオオオオオ!!
巨人は次のおもちゃを僕に定めたのか、力尽きたボルトをまじまじと眺めた後、虚ろな目をしたまま僕に向かってきた。次の標的は僕だ、手には剣がある、それでも一般市民だ。
でも、戦うしかない。ボルトを助け出すためには、僕が戦うしかないんだ!
「うおおおおおおおお!!」
剣を持って、迫り来る巨人に立ち向かおうとした、その時。背後から男の声が聞こえた。
「その剣、ちょっと借りるぞ」
振り向くと、そこには鎧を着た男が立っていた。彼は僕から剣を奪い取り、巨人に向かってまっすぐ走り出した。
グオオオオ!!
巨人は迫り来る鎧の男を脅威だと感じたのか、空いている左の拳で地面を叩く。
「危ない!」
しかし鎧の男は身軽に攻撃を避けながら、振り下ろした腕を伝って巨人の目の前に辿り着いた。
「これで終わりだ」
鎧の男は、剣を巨人の右目に強く突き刺した。
ブシャッ!!
すると巨人は目を押さえながら、暴れ始めた。痛がっているのか、咆哮を上げている。続けてもう一発、彼は巨人の左目に剣を突き刺す。すると、痛みに耐えきれずに巨人はボルトを振り下ろした。
「あっ!」
「任せろ!」
重力そのままに地面に落下していくボルトを、鎧の男がキャッチし助けた。そのまま彼は僕の前に来て、抱えたボルトを地面に置いた。
「これでもう大丈夫だ。安心しろ」
やがて巨人は、地面に倒れた。目から血が垂れている、ということは巨人は死んだのか。結局のところ弱点は目だった、しかしモンスターに対抗できる武器じゃないと目を攻撃することはできなかった、そういうことだったのか。
「剣はもう少し借りていくぞ」
そう言って、鎧の男は立ち去ろうとした。
「待て……」
その時、ボルトが意識を取り戻した。
「お前の名前は……何だ?」
そしてボルトは立ち去ろうとした鎧の男に向かって名前を聞いた。
「名乗るほどの者でもない。あえて言うとしたら……俺は、ウォーリアーズの元メンバー、ブレイク・カーディフだ」
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「……ここは?」
「モンタージュの跡地、巨人は死んだ」
少ししてから、ボルトは目を覚ました。巨人に強く握られ続けていたからか、足は動かなくなっていた。おそらく一時的に麻痺しているんだろう。
「そうだ、さっきの男は?」
「名前を言ったあと、巨人の討伐に向かった」
全身に鎧を着た男は、顔をアーマーで隠していた。だから顔が見えなかった。顔を隠しているのにも関わらず、巨人を倒すことに成功していた。あの鎧から察するに、討伐者なんだろうな。
「確か、ブレイク・カーディフと言っていたな。知っているのか?」
「よく分からない。けれども、ウォーリアーズの元メンバーと言っていた。そしてウォーリアーズにも、ブレイクという名前のメンバーはいた。でも、存在するわけがない」
「……どういうことだ?」
「彼は、数週間前に事故で命を落としたらしい……彼はもう死んでいるはずなんだ」
その言葉を聞いて、ボルトは首を傾げていた。言いたいことは分かる。そう、ブレイク・カーディフはウォーリアーズのメンバーとして活動していた。それは事実だ、僕もウォーリアーズについて調べていくうちに耳にした。
ウォーリアーズは5人組の討伐パーティーで、リーダーのクロガ、サブリーダーのブレイク、剣を巧みに扱うコロネ、遠距離攻撃を得意とするハルート、力持ちのパニッシュで構成されている。名前だけで顔は分からない、リーダーのクロガ以外はみんな顔を隠している。
そのウォーリアーズだが、数週間前に活動を休止した。理由は、メンバーが事故で亡くなったから。
亡くなったのはサブリーダーのブレイク、死因は明らかにされていない。そのショックで心を痛めたクロガはウォーリアーズの活動休止を決意した。都市一番の討伐パーティーだったから、それなりに期待度も高かった。その死んだはずのブレイクが、何でこんなところに。
「いや、結論づけるのはまだ早い。死者の名を騙っている可能性だってあるだろ。肩を貸してくれ」
「それもそうか」
ボルトの言う通り、ブレイクの死は世間に広まっている。だからこそ、あえて名前を騙った可能性もある。真相は不明だ、とりあえずボルトをどこかに運ばないと。
「巨人は残り2体だ、俺も現場に向かう」
「その怪我では無茶だ!」
「……くそ、今はあのブレイクとやらに任せるか」
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