第37話 諦めるな
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「逃げろ逃げろ!」
「子供がまだ中に!」
「いいから早く逃げろ!」
30mほどの巨人が、それも三方向から迫ってきている。そのため、カービージャンクの民は逃げ場がなくうろたえている。巨人は北からも東からも西からも出現しており、全員中心地へと向かっている。辺りの建物は奴らによって踏み潰された。
この街はまあまあ大きい、しかし森に囲まれているから外部からの助けは当分来ないものだと思われる。だから対抗手段は、この街にいるモンタージュの人間と訓練兵くらいしかない。討伐者は、この街にはいない。
「ウォーリアーズは来ないのか!」
「ダメだ、ウォーリアーズは活動休止中だ!」
屋根の上から、街全体が見える”トライデンの塔”に登る。見えるといっても、空気の流れで巨人のおおよその位置を感じて推測することしかできない。ただ、巨人はとても不気味な臭いを発しており、辺りを蹴散らす足音も大きく響いているから、場所は分かる。
どこに逃げていいか分からず怯える市民は、ウォーリアーズを待っている。しかし、ウォーリアーズは活動休止中だ。なるほどな、これがクロガの狙いか。ウォーリアーズは都市一の討伐者、しかし活動休止することによって巨人の襲来を阻止することなく、カービージャンクに誘き寄せられる。
奴らは「仲間を失ったから少しだけ休む」と言って、ウォーリアーズの活動を休止した。仲間というのは俺のことか、笑わせるな。お前らが殺そうとしてきたのに、今度は活動休止の言い訳に使われるなんてな。これが終わったら、今度は奴らを徹底的に追い詰めてやる。
このトライデンの塔の近くには、モンタージュの宿泊施設があったはずだ。ボルトは勤務中だからここには居ないだろうが、誰かしら休んでいるだろう。いや、緊急事態だから出動してるか。俺は塔を伝って地面に降りたのち、すぐにその宿泊施設へ向かった。
「やめろ、来るな!」
予想通り、その宿泊施設にはモンタージュで働いている警察官が何人かいた。彼らは出動を命じられたのか、着替えている最中だった。
「ダークエイジ、貴様を建物の侵入罪で逮捕する!」
今の格好はダークエイジだからか、彼らは俺のことを敵だと思っている。それもそうだ、モンタージュからすれば、俺は殺人犯だ。悪を代わりに成敗する男で、手柄はボルトにいってるとはいえ、誉められた所業ではない。
俺は鉄砲を取り出した男の首に手をかけ、肘で頭を突いてから鉄砲を奪い、それを彼の頭にそっと押し当てる。
「君たちに頼みがある」
「……やめろ、撃つな」
「俺は撃たない、君たちに頼みがある」
「……分かった。何だ?」
巨人の襲来にダークエイジの侵入、そのせいか彼らはとても怯えている。身長からしてとても若いのだろう、訓練所上がりってところか。制服にシワが少なく、出動経験も数える程しかないと思われる。そうだとしたら、この状況は彼らにとっては最悪中の最悪だよな。
「巨人が街を襲っている。そして市民は逃げ場がなく困っている。そこで、君たちに避難の誘導を頼みたい。巨人の討伐に急ぐな」
「……巨人は我々が倒す」
「……できるのか、この立地とその武器で」
そう言われると、彼らは黙った。モンタージュは警察組織で対人組織、だから巨人と戦って勝つなんて不可能に近い。ハンドガンで、巨人を倒せるわけがない。
「なら、巨人は誰が倒すんだ。貴様は人を殴ることはできても、巨人を殴れるほど強くはないだろう?」
「それは俺が強いと認めてくれたのか?」
「違う。巨人は誰が倒すのか、貴様に聞いている」
「……外部に緊急出動の要請はしたのか?」
「……そんなの言うわけないだろ!」
頭に鉄砲を当てられているというのに、彼は頑固に答えようとしない。ここで時間を取られてしまっては元も子もない。と、部屋の隅で立ち尽くしている男の心拍数が異常に上がっていることが判明した。ドクドクドクと、響く音が端から聞こえる。
俺は彼の目をチラッと見て、強く睨みつける。すると、彼は代わりに口を開いた。
「……治安部隊に連絡したのですが、何故か、連絡が取れません」
「馬鹿ッ、言うな!」
あまりにも怖かったのか、ありがたいことに重要な情報を教えてくれた。まだちゃんと脅してもないのに、拷問もしてないのに情報を吐いてくれるとはな、色々と助かったよ。
やはり治安部隊は動いていないのか。森に囲まれているから、外部に助けを呼ぶ手段は限られている。どういう方法を使ったかは分からないが、既にクロガたちによって対策されていたということだ。そもそも、治安部隊は通報されても動かないだろう。
「ありがとう。君たちは避難誘導に力を注いでくれ。巨人の討伐は……俺の知り合いに任せる」
それだけ告げて、俺は窓から飛び降りた。
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〜同時刻 モンタージュ近くの大通りにて〜
「逃げろ! 巨人は東西から来ている!」
「南からも来ている!」
「いいや、北だ、目の前にいるだろ!」
ダメだ、もうダメみたいです。髪の生えていない、無機質な表情をした30mほどの巨人は、辺りを破壊しながら一直線に進んでいる。遠くの方にも、同じような巨人が2体、東西の方から囲むようにして進んでいる。
そして僕の目の前には、虚ろな巨人が、何故か僕の目の前で立ち止まっている。奴らは人のことを襲わない、街を破壊するのも一直線に進んでいるから。どこに向かっているのか分からない、それで何故か巨人はカービージャンクの中心地へ向かっている。
「何言ってんだよ!」
「押すなよ!」
「早く逃げろって!」
大通りで、巨人は立ち止まっている。それを見た僕は腰を抜かしたのか、その場に座り込んでしまった。大勢の人が逃げ惑う中、僕だけがその場に留まろうとしている。何でだ、足を動かそうにも動かせない。これが、恐怖なんですか。
「子供がまだ中に!」
「もう無理だよ」
「やめてやめてやめてやめて」
恐怖に包まれた空間に耐えきれなくなった人たちは、耳を押さえながら発狂している。ああ、そうだ。助けは来ない、モンスターを倒す討伐者はこの都市には居ないんだ。
グオオオオオオオオ!!
やがて、巨人は咆哮を上げながら動き出した。これまで通り、まっすぐに南に向かっている。なのに僕はまだ怖いのか、その場から動けない。巨大な影が僕を包み込んでいるのに、もう少しで巨大な足に踏み潰されそうだというのに、僕はまだ、動けない。
ほんとうに、どうしたらいいですか。
「諦めるな!」
と、そこにはハンドガンを構えたボルトの姿が。
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