第35話 セカンドライフ

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「それで、孤児院に行った子供たちとは何か話をされましたか?」


「守秘義務……と言いたいところですが、あいにく話せておらずというところでですね、我々モンタージュですら会話を禁止されているのです。なので、事件に関する捜査も進まず、強制はできませんので」


 やっぱり、これは確定だ。奴らはカービージャンクに潜んでいる。そして孤児院に送られた子供たちを使って、また悪さをするつもりだ。行き着く先は、モンスター大戦。どうにかして阻止しなければ。


「その孤児院の子供たち、というより今回誘拐された子供たちに、何か裏があるとは思いませんか?」


「……と言いますと?」


「パン屋の地下にあるアジトだけでなく、倉庫でも事件が起きており、また近くの小屋では殺害された男の遺体もありました。これらの事件は、ゴロツキの金稼ぎで済むのか、何か組織生を感じませんか?」


「パン屋の主人もゴロツキの仲間だったと聞いて驚いたよ。市民の一員のはずの彼がそうだとしたら、カービージャンクにはもっと大勢の敵が潜んでいるかもしれない。これが、貴方の持っている情報ですか?」


 彼の言う通り、パン屋の主人は脅されていたとかではなく、本当にゴロツキの一味であった。つまり奴らはカービージャンクに潜んでおり、今もどこかで平気な顔して暮らしている。もはや、これはスパイだ。この事実が公になると、市民は暴動を起こしてしまう。誰が敵か味方か分からなくなり、混乱することだろう。


「……なるほど。それなら、我々もひとつ情報を開示しておきましょう。確定事項でないのがモンタージュとしても申し訳ないのですが、調査を行ってもらう意味では、致し方ないとして受け取ってください。それは---」




 ゴーン ゴーン ゴーン




 ヒルデヨ部長が話そうとした時、どこかから鐘の音が聞こえてきた。これは、何かの合図か、それとも午後を知らせるチャイムか。昨日はこんなの流れてなかったが、とても深く重い金属音が何回も流れるから、不気味で怖い気分になった。やがて鳴り止まった時、ボルトが叫んだ。




「これは上級モンスターの襲来警報です、上級モンスターがやってきます!」




 モンスターが、やって来るのか。僕のいた国ではモンスターなんてもう滅んだも同然だから見たことなんてなかった。それがこの国には、特にこの都市では活発的に出現するらしい。しかもそのうえ、今回は上級モンスターだなんて、何でこのタイミングで来るんだ。


「ビアスさんは市民ですので早く外へ、ヒルデヨ部長は私と共に対策本部へ移動しましょう。ひとまず、ビアスさんは私が誘導するので、部長は先に本部へ向かってください」


 ボルトの指示に従って、僕たちは部屋から脱出する。廊下に出ると、多くの警察官が武器を持って走っていく。そうか、カービージャンクには討伐者がいない。だからモンスターと戦うのは、必然的にモンタージュの人々になる。


「お前はモンスターを見るのも初めてだろ、だがそんないいもんじゃない。早く逃げろ!」


 僕はボルトに押し出されるようにして、モンタージュの外に出た。鐘の音を聞いた市民は右往左往していて、戸惑っている。混乱しているのか、上級モンスターだから為す術がないのか。


 ドンッ……ドンッ!


「逃げろ逃げろ逃げろ」

「早く!」

「もう来てるぞ!」


 ドンッ……ドンッ!


 巨大な足音の鳴る方を見てみると、そこには30mほどの巨人がゆっくりと街に迫ってきていた。髪の生えていない裸の人間を大きくしたような、これが噂の巨人か。ああ、とても恐ろしい。


「南に、南に逃げろ!」

「無駄だ、南からも来ている!」

「じゃあ東西に逃げろ!」

「それも、東西からも来てる!」


 逃げ場がないってことか。


 じゃあ、どうしたらいいんですか。


 そうだ、ウォーリアーズなら助けに来てくれるかもしれない!


 ……いや、ウォーリアーズは活動休止したんだ。


 この街にはちゃんとした討伐者がいない。


 じゃあ、どうしたらいいんですか。


 誰か、教えてください。


 誰か。


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〜巨人襲来の少し前〜


「痛たただただ」


 血にまみれて赤茶色になった包帯を取りながら、俺はベッドから起き上がった。くそ、あの事件から2週間経っているというのに、まだ体が本調子じゃない。


 一応、ダークエイジの活動は続けている。街のみんながそれを望んでいるから。しかし、それ以外は一旦お休みだ。俺は、ひとりの人間にしては多くを生きすぎた。偽るのはもう辞めたいが、辞めるにも辞められないところまで来てしまった。


 誘拐事件の解決から2週間、治安部隊もといデビルズオール社はカービージャンクから手を引いた。モンタージュも治安部隊から解放された。しかし完全に消えたわけじゃない。パン屋の主人が治安部隊に雇われたゴロツキだったように、今もなお市民に紛れて生活している治安部隊の奴らがいる可能性が高い。


 そうなると、今の俺じゃ太刀打ちできない。もっと強い存在が必要となる。それはさておき、最近はハードとボルトの力を借りてゴロツキ共を倒している。


 ハードが事件の噂を聞きつけ、俺が拳を振るい、ボルトが逮捕する。これにより、ボルトだけが得をしている。まあ、得なんてあまり関係ない世界だけどな。アイツだけが出世の道を行っている。


 色々とわけがあって、俺はアークを引退した。アークは新聞屋と仲良くなるために作った架空の人物だった。それが今、新聞屋ともビアスとも連絡をとってないため、アークそのものが必要なくなってきている。ビアスには悪いが、彼に無断で家を引っ越した。


 老朽化が進んで取り壊しが決定していたんだ、引っ越した矢先に引っ越す羽目になるなんて俺でも知らなかったんだよ。まあ、もう彼らに会うことなんてないだろうし、アーク・コータイガーはもう無かったことにしてしまっても大丈夫そうだ。


 さあ、ここからがセカンドライフの始まりだ。とは言っても、重苦しく血の味がしたライフだろうけどな。たかが知れてる、昼に工房で働いて、夜になったら拳を振るう。手を使う仕事なのに、夜で手を怪我する。これじゃ何のために働いているか、何のための拳なのか分からない。


 フンフンフン


 と、その時。空気の匂いが明らかに濁っていることが分かった。嗅いでみると、透明感がいつもより薄い。都市が森を燃やしているのか、それにしては焦げ臭くない。これは間違いない、人の死んだ臭いだ。森の方からだ、しかも胸騒ぎもする。


 いいや、行くしかないか。昼間だが、コスチュームは着ていこう。


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