第32話 自爆

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〜数分前〜


「遅いな、助けに行くべきか?」


「まだいい、彼なら成し遂げてくれるはず」


「そうか、ならもう少し待ってみるか」


 ボルトはせっかちなのか、彼のことを心配しているのか、貧乏ゆすりをしながら待ち構えている。大丈夫だ、彼ならきっと子供たちを救ってくれるはず。


「お前は随分とダークを信用しているな」


 警察組織の一員だからか、ボルトは常に僕らを疑った目で見てくる。そういう生き様だと思えば仕方ないが、僕にとってはしんどい。向こうでもそういう扱いを受けてきたんだ、治安部隊のせいで。


「当たり前、彼は僕を助けてくれた」


「そうか? 俺の時は襲ってきたぞ、ハンドガンをぶち壊してな」


「君と話がしたかったんだろう。君がハンドガンを取り出したのが悪い」


「ほう、彼には敬語で俺には馴れ馴れしい口調か」


 何なんだ、この男は。ボルトは僕たちの味方じゃないのか。いや、彼もまた治安部隊の被害者だ。上司には捜査から外され、モンタージュも治安部隊の傘下となった。モンタージュの中で正義の心が残っているのは彼のみ。


「まあいい、この腐った街じゃあ誰もモンタージュに敬意を表さないか」


「……それは違う」


 このカービージャンクは腐った街らしいが、僕にはそう思えない。新聞だって八百屋だって、どの店も機能してるし商売をやっている。自由なんだ、どこもかしこも。僕の報道だって自由にできている。あの国は違った。治安部隊によって全て統制されていた。僕だけじゃない、みんなが見えない鎖に拘束されていた。


「この国は自由だ、だからこそ治安部隊に屈してはならない。僕と君と彼で、鎖をちぎろう」


「……鎖って、なんの話をしてるんだ」


 例えが上手く伝わらなかったか、ボルトは首を傾げている。


 はあ、まあいい。しかし、彼は無事かどうか心配だ。得体の知れないヒーローとは言っても、彼だって人間だし。敵は治安部隊の戦闘員、全員が全員戦闘員じゃないとしても、奴らは卑劣で武器を使ってくる。そんな中、彼はひとりで立ち向かって行った。


 やはり僕たちも行くべきだったか。けれども、僕が行ったところで足手まといになるだけだ。モンタージュで勤務しているボルトが行ったとしても、この人もまた新人だから無力に等しい。そうなると、やっぱり彼に任せるしかない。


 それにしても、治安部隊がもうここまでやってきたとは。僕を捕えるためにか、カービージャンクの子供たちを誘拐するためかは分からないけれども、奴らは確かにカービージャンクにいる。


 今までは治安部隊が戦闘員を送り込んだり、またゴロツキを金で雇ったりしてカービージャンクの子供たちを誘拐していたが、今回は本格的にカービージャンクを乗っ取ろうとしている。


 奴らは何が目的でここまでやっているんだ。モンスターを兵器にして世界大戦を起こすつもりなのか。治安部隊は、治安を良くするために発足されたギルドだった。なのに、戦争を起こすことを目的としてしまっては……元も子もないだろ。


 しかも治安部隊とデビルズオール社の不正に気づいているのは、僕ら3人だけ。他はみんな知らないか、消されていった。マユカだって、奴らに殺された。ピースなんて何も知らなかったのに、まだ子供なのに、奴らに殺された。


 治安部隊はどこまでも鬼畜でドス黒い、最低最悪のギルドだ。いや、モンスターを倒す討伐者の文化はもうほとんど残ってない。だからギルドじゃなく、チームとでも呼ぶべきか。何にせよ、モンスターはこの国にしか現れない。特に中心部の都市・マーベラスにしか。


 デビルズオール社はいつから治安部隊に目をつけていたんだろう。治安部隊が黒い組織になったのは、そう遠い過去じゃないはず。デビルズオール社が関わってから悪い組織になった、そう違いないはず。


「どうした、暗い顔して」


 ボルトは僕の表情に違和感を覚えたのか、心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫、問題ない」


「そうか」


 どうでもいい会話をしていた、その時だった。




 ドンッ!!!


「爆発が起きた、伏せろ!」


 ボルトの言う通りに急いで伏せると、パン屋から煙が上がった。何だ、何が起きてるんだ。中で爆発でもしたのか、彼は、彼は無事なのか。


「起きろ、これくらいの爆発なら建物は倒壊しない。しかし、ダークと子供たちが心配だ。お前はここに残れ、俺が見に行く」


 そう言って、ボルトは屋根から降り、煙の上がるパン屋へと向かった。しかし、瓦礫で扉が塞がっているのか、中に入れず手こずっているようだ。


「ボルト、手伝うことはあるか?」


「ない、お前はそこで見てろ」


「何かしら手伝わせてくれ」


「いいや、お前の仕事は報道だ。ここから起こる有り様をしかと見届けろ」


 そうこうしているうちに、瓦礫が崩れた。というよりも、内側から何者かが瓦礫を押し出しているように見える。敵か、ダークエイジか分からない。ボルトはハンドガンを構えて、ゆっくりと距離を置く。


 ドンッ!! ガンッ!!


 瓦礫を押し出す力はとても強く、徐々に明かりが見えてきた。見てるだけじゃ、無力だ。僕も手伝いたい、その思いで屋根から降りて、ボルトの元へ向かう。ボルトは警戒してハンドガンを構えたまま、1歩も動かない。


「ハード、来るな」


「頼む」


「お前の仕事は記者だろう、まだ出番じゃな……」


 ドゴッ!!


 瓦礫が粉々になる音と共に、中から現れたのはダークエイジだった。ボロボロで灰に包まれたのかコスチュームは白くなっており、所々出血しているのが確認できる。少しすると、彼の後ろから10人くらいの子供たちが次々に出てきた。みんな同じ白い服を着ている。これは間違いない、治安部隊によって誘拐された子たちだ。


「ぐはっ」


 ダークエイジは血を吐きながら、よろめきながらも何とか立ち上がり、脇腹を押さえたままボルトに話しかける。


「組織の奴らは自爆した。子供たちは全員無事だ。爆発が起きたんだ、これでモンタージュも動かざるを得ないだろう」


 やっぱり奴らは自爆したか、奴らが口を割ることはない。口を割るくらいなら命を落とした方がマシだと考える。それくらいに組織への忠誠心が凄まじい。続いてダークエイジは僕の前に来て、肩に手をかけながら呟く。


「この誘拐事件に関する記事を書いてくれ。組織の名前は出さなくていい、しかし誘拐事件があったことは公にするべきだ。そして、ダークエイジのことも書いてくれ。これが奴らに対する、抵抗だ」


 それだけ言って、彼は脇腹を押さえたまま路地裏の方へ向かっていった。お礼が言いたくて、僕も路地裏の方へ走っていったが、そこに彼はいなかった。


 ありがとう、ダークエイジさん。そう伝えるのは、また今度にしよう。ひとまず、ここからが僕たちの仕事だ。


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