第31話 地下室での闘い

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 深夜0時、みんなが寝静まった頃、俺は動き始める。エスポジートというパン屋の地下室には、誘拐された数多くの子供たちが閉じ込められているらしい。俺は彼らを救うために、戦う。


「昨日の早朝にも、馬車の行き来が確認された。しかし想像される地下室の大きさからして、もうそろそろ人数がオーバーする。そうなれば、奴らは子供たちを輸送するだろう。今日が最後のチャンスかもしれない」


「分かった。馬車作戦は使えないだろうな」


 近くの建物の屋根の上で、俺とボルトは話し合う。ハードは路地裏で運転手の格好をして待機している。予備の馬車作戦のためだが、ハードは乗り気ではない。当たり前だ、あまりにも強行突破すぎるから。


「馬は別の場所に待機させてある。お前の奇襲作戦が上手くいかなかったら、馬に突撃させる。子供たちを保護しなければ、事件の立証ができない」


 ボルトの言葉を聞いて、俺は地面に降り立つ。そのまま静かにパン屋に向かい、路地裏に入る。そしてゆっくりと裏口に近づいていくと、男の声が聞こえた。


「輸送日は明日か、楽しみだな」


「ああ、美味しいパンができそうだ」


 彼らはただの従業員なのか、パンの話をしている。とりあえず扉の向こうに人はいない、だからゆっくりと扉を開けてみるとそこには倉庫があり、小麦粉がたくさん積まれていた。話している従業員はどうやらキッチンの方にいるらしい。


 コツコツコツコツ


 彼らに見つからないように倉庫の中を歩き回る。どうやらここにあるのは小麦粉だけのようだ。しかし、空気がどこかからか漏れているような気がする。もちろん裏口の扉からも漏れているのだが……どこかに隠し扉があるな。


 ヒューヒューヒュー


 風の漏れている場所に耳を近づけると、確かに向こう側に空間があるということが分かった。しかし隠し扉を開ける方法が見当たらない。ただ、地面に指を近づけると、コツコツと小さな振動を感じる。隠し扉のカラクリがあるとしたら、この振動がそれだろう。


 コツコツコツコツ


 振動の鳴る方向に行くと、小麦粉の束の奥にスイッチが隠されていた。それを押すと、ゴゴゴという重い音と共に地下室への扉が開いた。やっぱり、ここはただのパン屋じゃなさそうだ。


「明日の輸送に備えて、アイツらに最後の食事を与えとけ」


「分かった。きっといいパンが育つぞ〜」


 どうやらパンという単語は隠語のようだ。それに部屋の奥からは多くの子供たちの心拍音が聞こえてきた。間違いない、誘拐された子供たちだ。みんな緊張していて、とても怯えている。


 目の前には分厚い鉄の扉がある、これがボルトの言っていたやつだな。ダイヤル式で、6桁もある。この扉の向こう側には廊下があり、そこを右に曲がると奴らの部屋と子供たちが幽閉されている大部屋に繋がる。


 ダイヤル式を開けるのに、普通の人なら苦労するだろうが俺は普通の人じゃない。


 1......2......カチャ。1......3......5......カチャ。2……5……9……0……カチャ。8......2......9......カチャ。6……8……2……カチャ。4……7……2……8……カチャ!!


 250928か。この優れた聴覚でどこの数字が正解なのか、ダイヤルを回すだけで分かるようになっていた。ゆっくりと重い扉を開けると、とても古びたレンガで作られた廊下に繋がっていた。曲がったらそれぞれの小部屋があり、奥にある大部屋に子供たちが隠されている。


 静かに重い深呼吸をしてから曲がり、小部屋の扉の前に立つ。中には武器を持った奴らがいる、それくらいは空気の流れで分かる。1回でも入れば、もう後には引き返せない。いや、引き返すことなんてないか。俺は子供たちを助けて、家に返す。そして、奴らの陰謀を阻止する。


 ウォーリアーズのリーダーも、治安部隊もデビルズオール社も、はたまたモンタージュまでもが闇に堕ちている。そんなカービージャンクを救い出せるのは、俺だけだ。




「はあ、はあ、はあ、ヴォオオオオオオオ!」


 ガシャッ!!


 扉を破壊し、扉の前にいた男の顔面を殴る。すぐさま落ちた鉄砲を手に取り、投げてライトを割る。暗闇になったところで、飛んできた拳を避けて背負い投げをし、廊下に吹き飛ばす。向かってきた男の顔面を殴り、頭を持って壁に突きつける。


 ゴンッ!!


 鈍い音がしたところで、別の部屋から武器を持った男らが向かってきた。15人といったところか、狭い廊下にここまでいるとはな。ナイフを構えて突進してきた男の足を引っかけて転ばせる、そしてすぐに屈み腹に拳を入れる。


 ガスッ!!


 後頭部を誰かに殴られてしまった、くそ、痛すぎる。脳がクラクラする、しかしこんなんで倒れてはいけない。おれは、みんなを救うんだ。


「ヴァアアアアアアアア!!」


 獣のような荒らげた声を上げながら、目の前にいる奴に突進し、顔面に何発も拳を入れる。そして腰に差していたナイフを取り出し、後ろから向かってきた男の足に思いっきり刺す。


 ガンッ!!


 突進してきた男の顔面には拳を入れ、勢いそのままに肘で突く。男の顎を持ち地面に叩きつけ、起き上がれなくなったところを蹴り上げる。


 グサッ!!


 ナイフで脇腹を刺された。ぐ、痛すぎる。呼吸もどんどん荒らくなっていく。くそ、そう簡単にはいかないか。俺は声を上げ、痛みを我慢したままナイフを抜き、そのナイフで男の頬を切る。


「ヴァあぁああああ」


 目の前にいた男の顔を掴みながら、右手で殴り続ける。返り血が飛んでこようとも、別の男が突進してこようとも、撃たれそうになろうとも構わない。血まみれの拳を振るい続けるのみ、深く考えない。


「大した男だな、感動した」


 少し離れた位置にいる男が、鉄砲を机の上に置きながら褒めてきた。これが褒めなのかも、今はよく理解できない。




「だが、これには勝てないだろう」


 そうして奴が放り投げてきたのは……爆弾だ。


 ドンッ!!


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