第30話 救出作戦

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「それで、新しい情報はあったか?」


「それなら。子供の輸送方法についてだ」


 最初に口を開いたのはボルト、彼は紙を広げて説明を始めた。


「奴らが子供をどう運んでいるか気になって、調査してみた。誘拐された子供たちは、恐らくだが眠らされた後、馬車に乗せられている」


 馬車とは、馬という生物の後ろに車輪をつけて、それを引っ張ってもらうことで移動できるようにした乗り物の一種。昔はモンスターに引っ張ってもらう物だったらしいが、馬の方が人間を襲う確率は低いため、馬で代用する物が一般的となった。


 そうか、馬車なら一度に数多くの子供を運べるか。昏睡状態にすれば悲鳴を上げることもない。だから気づけなかったのか、誘拐事件となれば子供たちは悲鳴や助けを求める声を上げると思っていた。しかし実際は眠らされていた。そんなの、流石の俺でも気づけない。


「屋根の上に隠れて、馬車が通り過ぎる様子を観察していた。すると馬車は決まった時間に2回ほど、トリロジー区を通過してサナロジー区に行った後、森の中に入っていくのが見えた。恐らく、その森の方面に子供を格納する大きな部屋があるのだろう」


 サナロジー区はトリロジー区の西側に存在する。となると馬車の移動経路から察するに、奴らは集めた子供たちをカービージャンク西部の森近くに格納しているのだろう。カービージャンクを囲う森は東西に伸びているから、隠すとしたらそこだろう。


「また建物の建設履歴を見ると、森に倉庫が建ち並んでいるのが分かった。極秘情報だから一般市民じゃ見れないが、俺なら見れる。そこで調査した結果、ある業者が倉庫のリフォームに関わっているのが分かった。恐らくだが、その業者は治安部隊の息がかかっているものだと思う。そしてその業者がリフォームに関わっていた他の建物の中に、一軒だけ見つかったんだ」


 ボルトは紙の左端の方を指さして、こう言った。


「エスポジートと呼ばれるパン屋の建物の地下室に、子供たちは閉じ込められている。地下室だから、悲鳴とか外には漏れなかったのだろう。このパン屋はあくまでも仮の姿で、夜になったら誘拐犯へと豹変する」


 エスポジート、何回か聞いたことがある。とても美味しいパン屋さんで、行列が当たり前の店だとか。カールの家があるマーカス地区にあるパン屋と比べて高級店だから、彼らはあまり行くことはないと嘆いていたな。


 それにしても、治安部隊はもうここまで潜入していたとはな。こうなってくると、誰が敵かもう分からない状態になっている。昼は普通のパン屋さんで、夜になれば子供たちを幽閉する倉庫となる。闇組織は、日常の裏に潜むというからな、どうにかして止めないと。


「リフォーム履歴によると、厳重な扉が何重にもあるそうで、開けるには特殊な鍵が必要だ。誰かから鍵を奪えれば楽だろうが、残念ながら奴らは口が固いらしいな。鍵を渡すくらいなら飲み込むか、噛み砕こうとするだろう」


 戦闘員は口を割らないことで有名だ、そんな奴らを説得するなんて無理に等しい。


「そこで強行突破の作戦を考えた、実行するのはダークであって俺ではないから、とても危険だ」


 ダークエイジを本名だと勘違いしているのか、彼は俺のことをダークと呼んでいる。それはさておき、強行突破の作戦、実際に拳を使うのは俺だから強行突破とか無茶な作戦も考えられるんだろうな。


「それは俺たちも馬車を使って、入り口をこじ開ける。子供が輸送されたと思わせれば、入り口もきっと開くはず。そこにお前が突っ込んで、中にいる奴らを一網打尽にする。俺も行けば、奴らを逮捕できる。馬車の運転は、ハードに任せたい」


 思ってたよりも、かなり無茶な作戦だ。そもそも輸送にあたって奴らは細かい連携を取っているはず。急に馬車が来ても、入れてもらえないどころか不審に思われて中身をチェックされるはず。荷台には子供じゃなくて俺がいるから、そこで一気にバレてしまうな。


「その作戦は危険です。そもそも奴らがエスポジートに潜んでいるという証拠も掴めてない。もっと調査してから突撃、それももっとより良いやり方で行くべきです」


 何故か、俺よりも先にハードが反論していた。運転手という大事な役目だからそれもそうか。


「俺は警察だ、記者だろうが指名手配犯とは違う」


「指名手配は濡れ衣だ、それに君は年下だろう。僕には妻がいた、その妻を治安部隊によって殺された。その苦しみが……君には分かるか?」


 ボルトは未熟なばっかりに、不毛な争いをハードに仕掛けている。それに対してハードも、涙目になりながらも強い口調で反抗する。とても良いチームになれると思っていたのに、情報屋の2人がここまでバチバチなのはちょっと不安だ。


「分かった。その馬車の作戦をする前に、俺がエスポジートに潜入する。もしも馬車を使わずに入れそうなら、そのまま入って奴らを倒す。鍵が必要になったら、馬車作戦も検討する」


 俺の発言をもって、その日は解散した。実行は明日の夜、そこで全てが決まる。子供たちを解放できれば、治安部隊を更に追い詰めることができる。もし失敗したら、その時はその時だ。とにかく俺には超能力がある。優れた反射神経と運動神経も備わっている。これなら大丈夫だ、きっと彼らも救えるはず。


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