第29話 ウォーリアーズ、活動休止

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「今日のは僕が書いた記事だ」


 この2週間で、彼は立派な記者となった。俺が成長も何もできていないうちに、彼はヌヤミと共にカービージャンクの各地を歩き回り、様々な記事を書いた。そして今回が一発目、久々に記者として記事を書けたことに彼は喜びを感じているのか、いつもより興奮した状態で記事を読み始めた。




「先日、マーベラスで活動する討伐者パーティーのウォーリアーズが活動休止を発表。リーダーのクロガは取材で『事故で仲間を失った、しばらくは休みたい』と話した」




 ウォーリアーズ、この単語を聞いて俺はガタッと、凄い勢いで椅子から立ち上がった。流石のビアスも急だったからか、とても驚いた様子を見せている。


「ど、どうした?」


「……いや、なんでもない」


 ウォーリアーズが活動休止、それも仲間を失ったことが理由らしい。とても馬鹿げている、仲間を失ったのは事故ではない、治安部隊による隠蔽工作だろうが。俺を殺そうとして、頭に剣を突き刺したはいいものの、脳には届かず目を潰すだけで終わった。


 どういう訳か能力を手にして、傷口も無くなって、しかしどちらにせよ奴らは俺のことを完全に死んだ者だと思っているな。いいや、違う。俺はお前らを潰してやる、強盗団と闇取引していたウォーリアーズ、そして子供を誘拐してモンスターの軍隊を作ろうとしている治安部隊、デビルズオール社を俺は必ず潰してやる。


 それまで、首を洗って待っとけよ。


「それにしてもビックリしたなあ、ウォーリアーズのクロガさんが僕の取材に答えてくれたんだから」


「……クロガと話したのか?」


「まあ、ちょうどモンタージュのところで。他の記者もいたので話したというよりかは、ちょっとだけ答えてくれただけで」


 そうか、これはビアスが書いた記事。きっとウォーリアーズの本部の前に”ウォーリアーズ活動休止”という貼り紙が貼られていたのだろう。そうすると、モンスターを倒す手段を失ったと思った市民たちは困惑し、理由を知りたいと声を上げるだろう。


 そうなるとリーダーのクロガは、説明責任を果たすために各地のモンタージュを回って、説明することとなる。いつの間に、カービージャンクにもクロガが来ていたのか。


「とてもいい記事だと思う」


「……ありがたい、もっと頑張ってみるよ」


 そう言って、ビアスは家を出ていった。そうか、ウォーリアーズも活動休止か。というより、俺が死んだとされてからもう1ヶ月近く経つと思うが、逆にそれまでは活動を続けていたのか。何とも、非人道的な奴らだ。


 逆に言えば、奴らからしたら俺は死んだ身だ。こうやってカービージャンクで生きていることも、治安部隊の戦闘員たちを殴っていることも、裏で仲間を集めていることも、何も知らないわけだ。俺も奴らが裏で悪事を働いていたことを何も知らなかったが、それはお互い様だったってことだ。


 さて、今日の夜は仲間全員で会うんだった。ビアスという名前で記者をやっている、ナラティブ出身のハード。そしてカービージャンクのモンタージュで、治安部隊に負けずに治安を良くしたいと考えているボルト。そして、闇に紛れて戦う、ダークエイジ。俺だけ変な名前だが、ミイラ男よりはマシだ。


 お互いに情報を持ち寄り、交換し合うことが目的だ。記者のハードに警察のボルト、そして夜な夜な人を殴る俺がいれば、少なくとも並の警察よりは情報を持っているはず。


 このためにも、夜に備えて一回仮眠をとることにしよう。幸いにも、今日は比較的平和な一日だ。悲鳴によって無理やり起こされる心配もない。


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「彼はモンタージュで警察官をやっているボルト、警察だが治安部隊が捜査に介入しているようで、色々あって彼は捜査から外された。カービージャンクの治安を良くするために戦うと約束してくれた。この件において、君や俺を逮捕するようなことはしないそうだ。そこは安心していい」


「なるほど……よろしく頼む」


 カービージャンクの、モンタージュ近くの路地裏で俺たちは話し合う。ボルトとハードが出会うのは今日が初めて、だからかハードはとても緊張している。


 それもそのはず、彼は指名手配犯となっているから。ちょうど今日の昼過ぎ、治安部隊がカービージャンクにある紙を撒き散らした。そこには『殺人犯がマーベラスに潜んでいる』と書かれていた。


 裏にはナラティブの弟殺しの殺人犯として、ハードの名前と似顔絵が描かれていた。遂に魔の手がここまで差し掛かってきたのだ。幸運にも、治安部隊の奴らは何もせずにカービージャンクから去っていった。きっとこの土地に留まりたくはなかったのだろう、後ろめたいこともあるしな。


 それでもハードは、震えながらも何とかここまで来てくれた。朝は元気そうに引っ越しを手伝っていたのに、昼には自分の紙が載った指名手配書がばら撒かれるのだから、これでは感情の浮き沈みで自我が壊れそうだ。


「彼はハード、治安部隊に家族を奪われた挙句、指名手配犯という濡れ衣を着せられている。訳あって今は正体を隠して新聞屋で働いている。治安部隊と誘拐事件の関連性を探し当てたのも、彼の功績だ」


「……アンタ、カールさんのところで働いているよな。どこかで見たかと思ったら、あの時はよくも俺に恥をかかせてくれたな?」


「……その節は申し訳なかった。情報を得るために、仕方なかった」


「まあまあ、2人は情報屋として奴らに関する情報を集めてきてもらった。お互いに仲良くやってほしい、それに目的は一致している」


 どちらも真犯人を捕まえたいことに変わりはない。ボルトはカービージャンクの治安と自身の出世のため、ハードは着せられた濡れ衣と復讐のために戦っている。立場の異なる2人だからこそ、より情報を集めてくれるだろう。


「それで、お前はどうなんだ?」


 ボルトはまた腰にベルトを当てたまま聞いてきた。


「名前は何だ? 職業も経歴も出身も、何もかも教えられてないぞ」


「名前はダークエイジ。他は秘密だ」


「それは平等じゃないな。俺たちに喋らせたんだから、次はお前が話す番だ。お前は何の目的で、奴らの破滅を望むんだ?」


 流石は警察官、若くても尋問が上手いな。話術だけで戦える戦争があったら、彼は多少なりとも残りそうだ。もっとも、そんな安全な戦いがあったら苦労しなくて済んだが。


 仕方ないな、素顔とまではいかなくても、言えることは話しておこう。


「俺は治安部隊に派遣された戦闘員によって、大切なものを失った。だから、復讐のために戦っている。幼馴染も治安部隊に関わっているらしく、彼を救い出すという意味でも、戦うことにした」


 かなり回りくどいことを言っているが、ほとんど本当だ。俺は奴らによって大切な目を失ったし、クロガという訓練学校時代の同期が治安部隊に関わっている。救い出したいとかはまあ嘘だが。


「本名は言わないのか?」


「この件においては必要ない」


「それもそうか、分かった。ダークエイジだな、覚えておくことにする。それで、ダークが名前でエイジが苗字ということでいいんだな?」


 ボルトは何か、ちょっとだけ勘違いをしている気がする。


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