第28話 最後まで戦う
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「そうだ、俺は捜査から外されたんだ。今朝、治安部隊が引き継ぐからとか言われて。昨日も傷だらけの女性がモンタージュの前に倒れていた。この街は治安が悪いんだ。それは分かっている、だからこそモンタージュで働いているのに……このザマだ」
彼は我慢していた何かが切れたかのように、全てを話し始めた。警察組織だろうと、治安部隊には叶わない。実際にカービージャンクは治安が悪く、治安部隊が介入するのも分かるくらい条件が揃っている。
「明日からモンタージュは治安部隊の傘下になる、俺はアイツらの傀儡だ。そもそも治安部隊は隣の国の組織だっただろ、それが急にデビルズオール社に買収されたかと思ったら、もう既に介入してきてやがる。俺たちだけじゃ頼りないって思ってんのか」
彼の言う通り、治安部隊はナラティブで活動していた組織だ。それが急にこの国で主力的に活動することになって、そのうえモンタージュの仕事を奪っていく。それだけじゃない、奴らは悪だ。奴らの介入も、事件の揉み消しに使うつもりだろう。
それなら、彼にも教えるべきだ。
「その治安部隊とデビルズオール社が、子供誘拐事件の犯人だと言ったらどうする?」
「……何のつもりだ」
「君には真実を伝えようと思う、一連の事件の真相を全て。事件を解決したいんだろ?」
「どちらの事件も、ただの抗争だ……」
「諦めるな。最後までこのカービージャンクを見捨てずに戦うぞ。このままでは治安部隊とデビルズオール社によって、全てが破壊される。俺たちはそれを阻止するために戦っている」
そこから俺は、奴らについて知っていることを話し始めた。彼は腰にベルトを当てたまま、ここから逃げ出すようなことはせずにじっくりと話を聞いている。
「カービージャンクで生まれた子供には、モンスターを洗脳する特性が備わっているらしい。それに目をつけた治安部隊もといデビルズオール社は、夜な夜な子供たちを誘拐しては、倉庫に閉じ込めて輸送の準備をしていた。2つの事件は、俺が防いだだけに過ぎない。今もどこかで、数多くの誘拐された子供たちが閉じ込められているはずだ」
「証拠はあるのか、ないとモンタージュは動けない」
「証拠はない、しかし君は動きたいはずだ。君を捜査から外したのも、治安部隊の介入があったからだ。決して仕事ができないからじゃない」
「……この件は上司に報告しておく」
「君はそれでいいのか。上司に言えば治安部隊に報告され、君は仕事を失う。それだけじゃない、命だって狙われる可能性がある。魚屋の娘だって誘拐されたままだ、そうだろう?」
彼は少しずつネガティブになっている。捜査から外されたのも、治安部隊の介入によるものだろう。それに対して無力感を覚えているからか、さっきから発言が消極的だ。
「俺の知り合いに、実際に治安部隊によって家族を消された者がいる。君もいずれそうなる、それを阻止するために戦うんだ」
「……それは脅しか?」
「いいや、違う。君に助けを求めている。カービージャンク内のモンタージュで、正義の志を覚えているのは君しかいない。君の力が必要だ」
その言葉を聞くと彼は納得いったのか、何回かうなずいた後、手を広げてあることを聞いてきた。
「それで、俺は何をすればいい?」
「情報収集だ。俺の仲間と共に、治安部隊とデビルズオール社に関する証拠を集めてほしい。上手くできれば、君はこの都市の特別任務官になれる。どうだ、訓練学校の時から夢見てただろう」
「そうか、それでお前の仲間とは?」
「それは今度、3人で会う機会を作ろう。さっき言った、治安部隊もといデビルズオール社に家族を奪われた人だ。彼もまた、俺と共に証拠を集めている。最後に、君の名前と経歴を聞いてもいいか?」
「……俺の名は、ボルト・シャーロック。ハイディアンの第三訓練学校を卒業後、カービージャンクのモンタージュで一般警察官として働いている。さあ、俺は言ったから、次はお前が答える番……って、あれ、いない」
彼の質問に答えることもなく、俺はすぐにその場から立ち去った。
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「今までお世話になりました」
「またいつでも来てくれよな」
あれから2週間後、俺は新聞屋を辞めた。まあ働くようなことをあまりできてなかったし、何より新聞屋から離れたかったというのもあった。
魚屋の主人の家はビアスに明け渡した。俺の新居はもっと狭いし、もっと遠い場所にある。森とスラム街の近くで、真っ昼間なのにとても暗い。新生活にはうってつけの場所ではないが、とても都合がいい。
「本当に良かったのか、ここは治安が悪い。はっきり言って、目が不自由な人が暮らすには適してない」
事情を何も知らないビアスは、心配しながらも引っ越しの手伝いをしてくれた。
「大丈夫だ。ここなら家賃も安いし食糧も安く手に入る。それに目が見えないのも、もう慣れた」
「仕事はまだ無いんだろ、金はどうするんだ?」
「単純作業なら安くても雇ってくれる工房がある。しばらくはそこで働くさ」
何でわざわざ危険を犯してでも、遠くて暗い地に暮らすのか、ビアスには理解できないだろう。理由は簡単、独りで暮らす方がいつでもダークエイジになれるからだ。今までは夜になったら、ビアスを起こさないようにひっそりと着替えて、ひっそりと外に出ていた。
そのビアスに会う時は、ビアスを送り届けてから急いで着替えて、そしてビアスよりも先に到着しなければならなかった。はっきり言って、とても疲れる。それに新聞屋のみんなとは距離を置いておきたい、その方が……俺に大切なものなんて必要ないだろうからな。
まあ、そんなことはどうでもいい。治安の悪い地区の方が、たくさんの悪を殴ることができる。いつからか、戦闘員をやっていた時からか、能力を手にした時からかは分からないが、俺は人を殴ることに快感を覚えるようになっていた。
倉庫で人を殴り殺した時も、別に罪悪感とか覚えなかった。それどころか悪の連鎖を断ち切れたと、どこか嬉しく思えた。そうか、とっくのとうに俺はおかしくなっていたのかもしれないな。
「そうだ、今日の新聞を読もうか。今日のは僕が書いた記事だ」
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