第25話 治安部隊の戦闘員

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 その日の夜、俺はダークエイジとなって街を出た。昼のうちに青年のポケットにメモを入れておいた。目が見えないから拙い字で書いたが、彼なら分かってくれるだろう。


「……こんばんは、ダークエイジさん」


 時間になると、彼が来た。ここはそう、俺たちが最初に出会った路地裏だ。彼からすればゴロツキに襲われた場所でもあるからトラウマだろう。しかし、集合場所と言える場所が他にはなかったから、仕方なくここにした。


 噴水の前とか言って、こんな包帯だらけの男が来たら、理由を知っている彼ならまだしも、他の市民はびっくりするだろう。だからメモには「君が襲われた路地裏で待っている」と書いた。


「気づいたらポケットの中にメモが、こんなのいつどこで入れたんですか?」


「昨日の夜、話した時にこっそり入れた」


 それは嘘、今日の昼休憩くらいに書いて、夜に彼が家を出る前に入れた。


 結局、彼はヌヤミの元で修行することになった。一緒にウォークアバウト、そしてカールの新聞屋を大きくするためにも面白い記事をたくさん書くらしい。そして家は、俺と共有で暮らすことになった。魚屋の主人の家だ、当分彼らは帰って来ないから、そしてその家は俺ひとりにしては大きすぎるから、と貸すことになった。


 特訓スペースが減るのは心苦しいが、幸いにも外にたくさんいる。治安が悪いからな、サンドバッグの代わりなんていくらでもいる。


「アークさん、よろしく。早速で悪いんだが、どうしても知り合いに会わないといけない用事があってね、みんなには内緒にしてほしい。朝になったら帰ってくる」


「分かった。おやすみ」


 こうして彼を送り出した後、俺も彼に会うために着替えた。そう考えてみると面白い構図だな、彼からすれば話す相手は変わっていない。それに気づく日は、かなり先のことだろう。だって目の見えない人が、また別の人をボコボコにするなんて考えられないことだから。


「流石ですね、ダークエイジさん。現状を報告すると、無事にカールさんの新聞屋で働けることになりました。もちろん偽名を使って、これでいいんですよね?」


「ああ、今日からチームだ。君は情報通になり、手に入れた情報を全て俺に教えろ。代わりに俺が全て叩き潰す」


 情報通のカールと記者のヌヤミは、あらゆる場所から情報を仕入れている。魚屋の娘が誘拐されたということも、カールが教えてくれた。いずれはハードも、ビアスという記者として活躍するだろう。そして情報通となった暁には、俺に全てを教える。力の部分は俺に任せろ。


 こう見ると良いチームだと思う、パワーとデータで役割が完全に分かれているのだから。


「今日、ヌヤミさん……カールさんの奥さんの元で記者の勉強をしていて、そこで新聞を読みました。アルディアーク地区とドラゴニック地区の倉庫で、強盗団が殺されていたそうで……あれ、貴方の仕業ですよね?」


「……何故そう思う?」


「ヌヤミさんは強盗団同士の抗争だと言ってました。ゴロツキは誰かに雇われているだけ、仲間意識が低いから金を奪い合おうとして殺し合いが起きたと推測していましたが、実際は違います」


 ハードは勘のいい男、とっくに俺の介入を見抜いていたようだ。


「何故なら彼らはただのゴロツキではなく、治安部隊によって先に派遣されていた戦闘員です。まあ、組織の介入を疑われないようにゴロツキに扮していましたが、実際は治安部隊とデビルズオール社の一員です」


 待て、そうなると俺が殺した奴らは、ゴロツキなんかじゃなくて治安部隊の兵士だったのか。ゴロツキぽい格好と口調をしていたから気づけなかった。


「ゴロツキやギャングが子供を誘拐するのは、違和感ありませんからね。治安部隊が介入していることを知っているのは極小数ですが、そんな奴らを倒せるのは貴方しかいないと思って」


 治安部隊は元戦闘員が多くいると聞いた。そうなると、俺は戦闘員と戦っていたことになる。ただのゴロツキなんかじゃない、優秀な戦闘員を俺は倒した。ほとんど強襲だが、それでも拳は鈍っていなかったようだな。


 何なら、この能力によって運動神経や反射神経が向上している気がする。体が軽くなったような気もする。空間把握能力とセンサーで、どこに何があるかは分かる。だから相手の攻撃も簡単に避けることができるし、すぐに反撃することもできる。


 ともかく、俺の目を奪った奴らもまた治安部隊の戦闘員であることが分かった。つまりクロガは、他国の戦闘員とつるんでいる。これは立派なスパイ行為だぞ、まあナラティブとマックスフューは国同士仲良いから、スパイではなく共同作業となるか。


「そうだ、俺がやった。治安部隊の戦闘員とは知らなかったが、誘拐事件を阻止するためにやった」


「やっぱり。訓練された戦闘員とまともに戦えるのは貴方しかいない。それにしても、よく奴らを倒せましたね」


「……そうだな」


「それはともかくとして、奴らは輸送した子供をどこか一箇所に集めていると考えられます。特性のある子供を、倉庫ではなくもっと大きい場所に。どこか心当たりはありませんか?」


 倉庫よりも大きく、目立たない場所か。俺もカービージャンクに来たのはここ最近だから分からないな、目立たない場所となると森の中だろうが、森はとても巨大で暗い。カービージャンクは森に囲まれている、とても閉鎖的な場所だ。どの都市に行くにも、1回は森を通らねばならない。


 もちろん整地されているため、舗装された道を行けば安全に行くことができるものの、カービージャンクを出たいと思う人はあまりいない。というより、そこまでして森に行きたいという人が少ないんだろう。それは土地によって異なる価値観に基づく。森に住む神様がどうたらこうたら、という話だ。


「それを調べるのは君の仕事だ、俺は拳で君は脳、そういう関係だろう」


「……そうですね。引き続き調査をしてみます。それと、これをヌヤミさんから貰いました」


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