第23話 デビルズオール社

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「僕は、デビルズオール社の不正を追求するために、マックスフューまで来ました。どうか貴方の力を貸してください。お願いします」


 彼は、デビルズオール社の不正を調査するために、わざわざここまで来たのか。カービージャンクは森に囲まれた最果ての地、治安もはっきり言って良くない。良い人はいるが、それでも限られている。それ以上に治安が悪いから、なのに何で彼はここまで来たんだ。


「治安部隊は不正な企業によって無理やり買収された。いや、もう既に買収されていました。数多くの戦闘員が雇われていたその治安部隊が行き着く未来は、戦争です」


 彼は取り出した1枚の紙を俺に手渡してきた。


「デビルズオール社の取引書を再現したものです。異常な金額が動いており、不当に儲けた金が使われているのが分かります」


 普段なら紙に書かれた文字は読めない。しかし彼が力強く書いたからか、インクの染みからどういう文字が書かれているのか分かるようになっていた。確かに、デビルズオール社の金額の振れ幅は大きい。もはや国に近いくらいの金額が動いている。


「僕の妻は治安部隊の第一線部隊として、国の平和を守っていました。しかし事故で下半身を動かせなくなり、それでも頭が良かったのでそのまま治安部隊の経理を務めていました。そこで、不正を見つけてしまいました」


 昔話をする彼は、拳をギュッと強く握り締めている。歯を食いしばっているのか、口元からギシギシと音が聞こえる。


「不正を告発しようとした妻は、殺人の罪で捕まりました。僕には分かりました、妻は無実だと。やがて治安部隊の運営する刑務所の中で自殺したとのことです。しかし何もかも、全て治安部隊とデビルズオール社によって仕組まれたものでした。自殺なんてしてません、証拠隠滅のために殺されたのです」


 そして、カービージャンクに行き着いたと。彼の妻は不正を告発して殺された、少し違えど俺の境遇に似ているな。俺もパーティーから追放され、奴らの雇ったゴロツキに殺されかけた。そして今は、コピーを持っている彼が狙われていると。


「朝起きると、僕の弟の死体が隣にありました。そうです、妻を捕まえたのと同じ手口です。だから僕は、弟に別れも告げずに急いで家を飛び出しました。家の前で治安部隊が待ち構えていましたが、連携をミスったのと、大雨で視界が悪かったのもあって、何とか逃げることができました。ナラティブでは今頃、僕の名前が指名手配されているでしょう」


 大切な人を殺して、殺人の罪という濡れ衣を着せて、そのうえで殺して自殺したかのように細工する。普通に殺すよりも、最低で下劣な行いだ。社会的にも殺すため、残された家族は酷い道を歩まねばならない。


 そうして今、俺の手元にあるのがコピーのコピーということか。治安部隊、もといデビルズオール社がこんなにも悪どい組織だったとはな、内心ビックリしている。何よりも彼は壮絶な人生を歩んでいる。ここに彼の味方は誰もいない。


「治安部隊を買収したデビルズオール社は、子供を誘拐する計画を立てています。どうやらカービージャンクで生まれた子供には、ある特性が備わっているそうです」


 子供を誘拐、その言葉を聞いて俺はハッとした。そうか、繋がった。


 ここからは仮説になる。カービージャンクで生まれた子供に、モンスターを洗脳するような能力が備わっていたとしたら。治安部隊もといデビルズオール社は、モンスターを人間に代わる兵器にするために、モンスターを洗脳できる子供を集めるだろう。子供たちが無作為に誘拐されていたのは、モンスターを兵器にするため。


「モンスターが現れるのも、もはやこの国だけです。巨大な森があって、かつ数年前の地震で隆起した箇所があり、森が破壊された。それに伴って、マーベラスではモンスターが多く出現しています。デビルズオール社は、モンスターを兵器にして、戦争を仕掛けるつもりでしょう。そのためには、子供が必要とのことです」


 俺の勘が当たっていた、それも最悪な形で。まさかデビルズオール社と治安部隊が子供の誘拐に関わっていたとはな。モンスターを洗脳して軍隊にすれば、数多くの人間の命を奪うことができる。モンスターとまともに戦えるのは討伐者だけ、しかしその討伐者という文化は廃れてきている。


 他の国の情報はあまり入ってこない、だから他の国にモンスターが出ないということも知らなかった。この国にしかモンスターが出現しないとなれば、企業は危険を犯してでもモンスターで利益を出そうとするよな。


 そのうえ、カービージャンクで生まれた子供には特性としてモンスターを操る能力が備わっているとか。だから奴らはカービージャンクの子供たちを誘拐している、そんな不思議な話があるのか。


「僕は治安部隊とデビルズオール社の不正を止めて、国を守ります。妻の意志を受け継ぐことを誓う、そのためにここまで来ました。いずれ始まるアレも、何もかもを止めるためなら……僕は何だってします」


 彼の覚悟と心強さは、しっかりと伝わってきた。俺は彼に紙を返してから、彼にならって決意をきっちりと表明した。


「分かった、君の戦いに俺も参加しよう。それで、その、アレとは何だ?」


「アレはもちろん、せ--、おっと、もう日が昇る時間だ。続きはまた今度話します。なんせ僕には帰る場所がない、それに僕は指名手配犯です。きっと治安部隊が僕を探しにこの街にも来ることでしょう」


 そうか、彼は追われてる身だった。カバンの中に入っている紙幣から察するに、金もそこまでないんだろう。カービージャンクの宿泊施設は何故か高い、それに朝になればこのスラム街に行き場を失ったゴロツキたちが帰ってくる。ならば、あそこしかない。


「カービージャンクのマーカス地区に、カールという男がいる。彼の家は町一番の新聞屋だ、記者だと言えば雇ってくれるだろう。もちろん偽名を使え」


 カールなら、彼を引き取ってくれる。別に引き取らなくてもいい、そこにはもう片方の生活をしている俺がいるからな。


「ありがとうございます、僕の名前は、ハード・ブランドンです。貴方の名前は?」


「俺は……」


 名乗ろうとして、ちょっと考えた。今の俺はアーク・コータイガーでも、ブレイク・カーディフでもない。組織の奴らにはミイラ男とかミイラ人間なんて呼ばれているが、はっきり言ってカッコよくない。この際、新しい名前でもいいんじゃないか。


 少し経った後、俺は新しい名前をつけた。


「俺の名は、”ダークエイジ”だ」


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