第21話 新天地でのハッピーライフ

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 カールの家族と過ごすようになってから1週間が経った。この間、俺はずっと家にこもっていた。それも食事もあまりとらずに。何を考えていたか、それはクロガと裏にいる組織について。


 奴らはモンスターを洗脳していたのか、ゴブリンを完全な軍隊に仕立て上げていた。意識しないと背後にいると認識できなかったくらいに、気配も感じなかった。普通はゴブリンの強烈な匂いで、姿は見えなくてもそこにいるということが分かるはずなのに。


 そもそも奴らはどうして子供を誘拐するんだ。モンスターを洗脳して軍隊にするのなら、必要ないはず。労働力が必要なら、むしろそこら辺の浮浪者を捕まえて強制労働させればいいだろ。マーベラスは治安の良さを売りにしているが、実際はとても治安が悪い。その浮浪者を利用というよりも、彼らに仕事を与えればいいだろう。


 わざわざ子供を誘拐する理由、そういえば前に会ったボスらしき女性も子供だったな。周りの警備の男らに比べて、心拍数が早かった。あれは間違いない、体が小さい大人ではなく子供だ。


 そもそもモンスターを軍隊に仕立て上げるなんて、不可能だ。モンスターは厄介で人を襲う生命体、なぜ生まれるのかも、どうして生息しているのかも何も分からない。大体のモンスターは森に生息しており、何種かは海に生息している。


 だから太古の時代はモンスターと共存できていたらしい。しかし、いつの間にかモンスターと人類は敵対するようになってしまった、と訓練学校で教わった。


 都市開発の強行により、モンスターの生息地が壊されていった結果、人類を恨むようになったとか。奴らに恨みとかそういう感情があるのかも怪しいがな。


 モンスターを洗脳する能力があるとして、そしてボスのあの少女がモンスターを洗脳していたとしたら。また子供を誘拐する理由が、モンスターの洗脳に関わっているとしたら。ドラゴニック地区にいたゴブリンが真っ先に俺を狙ってきたのも、洗脳能力が関わっているとしたら。


 この考えが当たっていたとしたらマーベラス、いや、都市だけじゃなく国全体が大変なことになる。こういう勘は当たるんだ、元戦闘員だから分かる。そうなると、クロガがアイツらの計画に関わっているのも理解できる。クロガもまた戦闘員で、そのうえ討伐者だからモンスターにも詳しい。


 そうなると、ウォーリアーズは俺以外全員悪人だったことになる。逆に何で俺には何も知らされていなかったんだ。俺だって元戦闘員で、討伐者だ。ウォーリアーズでは副リーダーだったし、戦闘員時代もまあまあ優秀な成績を収めていた。


 あるミスでクロガと共に戦闘員を辞めて、というより戦争のない時代になり戦闘員が必要なくなったから討伐者になった訳だが、それでも十分に戦える。今だって、奴らをぶちのめしているだろ。


 まあいい、悪に堕ちる必要は無いから。俺の仮説が正しいとなると、奴らは子供を求めている。そして誘拐された子供たちは、その日のうちにどこかへ輸送される。どこに行くかは分からないが、まだ生きているものと思われる。そして子供たちを輸送するために、一旦倉庫に置いていると考えられる。


 となると、やることが決まった。誘拐された子供たちを助け出そう。身近な例で言うと、魚屋の主人の娘・ルミカも誘拐されたと聞いた。これは新聞屋で情報通のカールから聞いた情報。


 しかし、手がかりがないな。強盗団は誰も口を割ろうとしない。というより知らない奴らが多いんだろう。子供たちを幽閉している場所なんて機密事項だ、そうなると知っているのは……クロガと少女くらいか。


 いや、ダリアが言っていたラーズ・フェイス、あれは一体誰のことなんだ。ダリアはラーズ・フェイスという人名を口にしたあと、そのまま自殺した。だからラーズに関する情報は名前以外に無い。何かのボスであることは明らかだ、それくらい。


 くそ、俺はこの地域出身じゃないから人名が分からない。未だに新聞屋以外に関わりはない。だからラーズとか言われても、この地域の人ならピンと来るかもしれないが、俺には分からない。そもそも闇社会の人間だ、表に出ることは少ないだろうが。


 それなら、俺もこの地域で暮らしてみるか。色々な人と関わって、新天地でのハッピーライフを楽しみながら、奴らの計画を止める。そのためにも、まずは。


「ここで働かせてください!」


「待て待て、どうしたんだ急に」


 この地域で暮らすにはまず、職業が必要だ。だから俺はカールに働かせてほしいと頼み込んでいる。


「確かに君は浮浪者で、仕事どころか得体も知れない。だが善意で君を泊めていたし、ロリアの空き家に住まわせたりもした。しかしなあ、君は目が見えないんだろう。新聞だって読めないし……」


 その通りだ、文字を読むことも書くことも何もできない。それ以外のことはできても、新聞屋に向いていないことは明らかだ。


「目が見えなくても、できることはあります。もうどこにも行けないんです、何でもできることは、何でもします! だから、お願いします」


「そ、そうか。とりあえず明日から店の前のベンチに座って、新聞を配ってくれないか。人は多い方がいいからな」


 必死に訴えかけると、何とか仕事を貰えた。これもまた善意に由来するものなんだろう、彼は困惑した表情を浮かべている。


「ありがとうございます!」


 こうして次の日、俺はロナと一緒に新聞を配ることになった。店の前のベンチに腰掛けながら、声を出して新聞と金を交換する。といっても俺からすれば硬貨も紙幣も同じ。だから彼女が店番の役割を果たしている。10ルペンで1枚と交換、どうやら比較的安めらしい。


「どう、調子は?」


「まあまあです」


「貴方からしたら紙切れと同じだもんね」


「……また新聞を読んでくれませんか」


「……いいよ」


 正直に言うと、新聞を読んでくれる人を探していた。こうやって働けば、彼女が代わりに読んでくれる。こう見ると、カールやロナを利用しているように見えるし、実際そうだが仕方ない。こうでもしないと最新のニュースが分からないんだ。


「先日、隣国・ナラティブで活動していた治安部隊がこの国・マックスフューで勢力を拡大しているデビルズオール社に買収されました。活動内容は変わらず、引き続き世界全体の治安を良くするための活動を続けていくとのこと」


 治安部隊も買収されたそうだ、少しはこの国も治安が良くなるかな。


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