第19話 ウォーリアーズのリーダー

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「俺はクロガ、ウォーリアーズのリーダーにして、討伐者だ!」


 鎧を着た男、いや、クロガは市民から拍手で讃えられた。そりゃそうだ、襲ってきたゴブリンを身一つで討伐したのだから。どうして、奴がここにいるんだ。ここはマーベラスの南部、ウォーリアーズの活動範囲じゃないはずだろ。


「怪我はなかったかい? 大丈夫かい?」


「うん! ぼくね、大きくなったら討伐者になる!」


「討伐者はヒーローだ、みんなを救うヒーローに君もなってくれるといいな」


 クロガは幼い男の子の頭を撫でながら、笑顔で微笑んだ。はっ、こんなところでのこのこと何してんだ。アイツは、俺のことを追放した。それだけじゃない、裏で悪の組織と闇取引をしていた。そして何より、俺を殺そうとした。何で奴が、ここにいるんだよ。


「怪我はない?」


「俺は大丈夫です、ロナは?」


「ウォーリアーズが助けてくれたからね、大丈夫」


 そうだ、一般市民はウォーリアーズのことを正義の味方だと思っている。実際に今も、ゴブリンから街を守ってくれた。それは事実だ、しかし裏では闇取引をしている。強盗団だって、奴らの仲間だろう。この事実を知っているのは俺だけ、証拠は無くなった。


 何なんだよ、どうなってんだよ。噴水の前のベンチで返り血を拭うクロガはどこか余裕さを感じられる。それに比べて俺は、とても惨めだ。くそ、お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ。目を失い、職をも失った。はらわたが煮えくり返るほどの怒りを感じながらも、俺は必死にこらえた。


 そして、そばにいるロナにこう言った。


「知り合いを見つけました。ロナは先に帰って」


「えっ、大丈夫? ゴブリンがまた現れるかもしれないのに」


「まあ、知り合いに会いたいので」


 無理やり彼女から離れた後、路地裏に入り壁を伝って屋根の上に登る。そして杖を折りたたみ、腰のベルトに差し込んでから、公園の方へ向かう。知り合いというのはもちろん嘘、本当は宿敵であり、悪だ。


 ベランダにかかっていた黒い服を勝手に拝借し、ポケットに入れていた包帯を頭に巻いて、俺はミイラ男となる。まだ昼過ぎだが、少し経てば辺りは真っ暗になる。そうすれば、目立たない。クロガの行方を追うこともできる。


「ああ、分かっている。ゴブリンを討伐し、市民を救った。俺が一面を飾ること間違いなしだ」


 何やら公園の方から話し声が聞こえる。低くて重い、これはクロガの声だ。待てよ、公園には今1人しかいないはず。これはクロガの独り言か?


「そうだな、ウォーリアーズの名はマーベラス全体に轟き渡っている。この調子で、ウォーリアーズの名前を広めていこう」


 それにしては、妙だ。まるで誰かと話しているかのような口ぶりだ。しかし、奴の周りには誰もいない。


 やがて夜になり、街灯によって街が照らされてきたところで、クロガは森の方へ入っていった。帰り道はそっちじゃないはずだ、そっちはモンスターがたくさんいる森だぞ。マーベラスの中心部に向かうのなら、この森を迂回する必要がある。


「警備ご苦労さま、対象は上手く覚醒してるかい?」


 少しすると、クロガは鎧を着た警備の男らと合流した。奴らもまた鉄砲を持っている、そして近くには倉庫がある。それに、覚醒という言葉も前に聞いた。やっぱり子供誘拐の件とウォーリアーズは関係があるのか。


「ええ、貴方様の仲間も増える一方かと」


「分かった。しかし、あまりにも同胞を傷つけすぎた」


「あれは演劇ですよ、市民からの歓声は素晴らしかったでしょう」


 クロガは警備の男らと変な会話をしている。演劇ってなんだよ、同胞を傷つけるって誰のことだよ。奴は警備の男と交代するように倉庫の中に入っていった。それにしてもこの倉庫、いつもより警備が厳重だな。近づこうにも、近づけない。


「クロガ、例のブツは調達できたか?」


「はい、ただいま訓練しているところです」


 それでも覚醒した聴覚で、奴らの声は聞こえてくる。中に何があるかまでは読み取れない、そこまでは分からない。しかしクロガは女性と話しているみたいだ。クロガが敬語を使っているあたり、相当お偉いさんなんだろう。




「そうか、お前に悪い知らせをやろう。ここから100メートル南に、我々の話を盗み聞きしている輩がいる。とっとと捕まえて、首を切り落とせ!」




 まさか……俺の居場所がバレている!?


 ある女性がクロガにそう命じた瞬間、警備の男が一斉に森に向かって走り始めた。間違いない、奴らは俺のことを狙っている。くそ、何でバレたんだ。俺は静かに木から降りて、巨大な木の根元に隠れる。奴らは四方八方に散らばっており、こっちにも向かって来ている。10人くらいか、みんな鉄砲を持っている。


「ミイラ男か、俺の計画を邪魔しに来たな!」


 クロガは怒りながら、走って森の中に入っていった。アイツもまたミイラ男の存在を知っているのか、つまりは強盗団と関係があるということ。くそ、お前はどういう存在なんだよ。討伐パーティーのリーダーで、戦闘員の同期じゃないのかよ。お前は、いつから闇に堕ちたんだ。


「もう逃げられないぞ、ミイラ男!」


 しかし、クロガはその場で倒れた。気絶しているみたいだ。逃げるチャンスは今しかない、警備の男らがクロガに気を取られているうちに、俺は森の更に深いところに向かっていった。


「大丈夫ですか!」


「俺じゃない……奴を追え」


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