フクロウさん
───カタンっと窓が開き、ふわっと風が吹く。
ほんのりと鉄臭さが混ざっている。
「……アマノちゃん、入る時はドアからってお願いしてるよね」
部屋の男性は振り向かずに書類に向かっていた。
「あ、フクロウさん。こんにちは」
「はい、こんにちは。それと───事後報告はやめなさいってあれほどいってるでしょ? はぁ、また血まみれで……アマノちゃんは女の子なんだから気にして」
机の一番下の引き戸を開く。何故かタオルがビッシリ詰まっていた。
1枚引き抜くとアマノちゃんに投げて寄越す。
「僕の血じゃないから大丈夫だよ」
「そういう事じゃなくてだね。まぁ、さっさと洗ってらっしゃい」
「……はい」
……タオルに埋めた顔が破顔していた。
「アマノちゃん、またダイズさんやヤシロくん連れていかなかったの? 」
血を洗い流したアマノちゃんが出てくると開口一番に2人の名前が出る。
古猫属のアマノちゃん(戦闘担当)、古狸属のダイズさん(回復担当)、古狐属のヤシロくん(補助魔法担当)。フクロウ戦隊? の面々である。
「雑魚一匹に大袈裟にやりたくないし、たまたま同級生がそばに居て、その同級生に呼ばれたのがたまたま彼らだったけど彼女の目くらまし担当をしてもらったの」
「何その偶然……」
「カラオケのメンツにって言われたけど、わざわざあの二人と行く意味が無いし」
「あ、いや、別に遊ぶのはいいんじゃない? 」
「えーー……」
「嫌そうな顔しないであげて……」
───よ・み・が・え・れ、よ・み・が・え・れ、ガンダム~♪♪……ピッ
「はい」
……鳴ったのはフクロウさんのスマートフォンだった。
『はっや! あ、こんばんはー! ねぇねぇ、アマノちゃん帰ってるぅ? 』
「はい、こんばんは……ってヤシロくん、アマノちゃんのおうちはここじゃないからね? 語弊を生む言い方は控えなさい。確かにさっき来ましたよ。……相変わらず窓から」
「タイミングバッチリー! 代わってー」
「……だそうだよ? 」
アマノちゃんにスマートフォンを向けるが、真顔で受け取らない。
「アマノちゃんスンって顔してるよ」
『やっぱりー? じゃあさ───』
───パーンッ!
「アマノちゃん! 『フクロウさん』! いらっしゃ~い! 」
扉を開けるとひとりテンション高いヤシロくんがクラッカーを鳴らしていた。
……現在地は古梟市内某カラオケBOX。
「え? 『フクロウさん』? え? え? 」
言葉にならないショーコちゃんが固まっている。
「初めまして」
と言っているフクロウさんの声は届いていない。
「伝説のフクロウさん? どうみても目の前にいるのは3種類目のイケメン、メガネ属性では? 」
頭をぐるぐるさせていた。
「フクロウさんも歌、上手いんだよ」
ヤシロくんが選曲し、マイクを持たせる。
───流れ出した曲は『哀・戦士』だった。
隣ではがんばれフクロウさんという謎の団扇を握りしめるアマノちゃんがいた。
自分の知ってるアマノちゃんは虚像だったと知り、何かが弾ける。
───ショーコはこの後、統制が取れていないフクロウ戦隊の事務員となるのだが、それは高校を卒業してからだ。
「……上手いけど、古いアニメだ。でもかっこいい」
「え?! アマノさんかっこいい! 」
一夜にして認識をすべてひっくり返されたショーコちゃんは、その日を境にアマノちゃんと正式に友だちとなる。
「アマノちゃんは嫌いな人とは話さないし、やだなってなったらガンスルーだよ」
「イヤホンまで外してショーコちゃんと向き合ったなら興味あるって」
そう後押しされて勇気を振り絞ったのだ。
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