47、魔法少女のライブは大盛況

 学校の女子グループが現れた!? 玲萌レモ由梨亜ユリアと一緒にいたら俺の正体がバレる!?


 いや、かわいいのも綺麗なのも俺自身だと認めたんだから魔法少女だとバレても平気――なわけあるかぁぁぁっ!


 木々の間から彼女たちの忍び笑いが聞こえてくる。


七海ななみさんと一緒にいる子たち、二人とも魔法少女のコスプレしてる」


 え、俺もコスプレだと思われてる!?


「流行ってるからって、あやかりたいヤツ多すぎ」


「ダンス部の連中も魔法少女の曲で踊ってたし」


 くそっ、俺は本物なのに偽物やダンス部と一緒にされるなんて悔しい!


 心が揺れてMCを忘れた俺の代わりに、玲萌レモがコーラスマイクに向かってしゃべってくれる。


「次の曲は『レヴィ・ストレンジの憂鬱』です。しっとりとしたヴォーカルが綺麗な曲ですので、皆さんどうぞ聴き惚れてください」


 玲萌レモがすました声で話すうしろでは、


七海ななみさん一人ドレスなのはさすがだよね」


「私は何者にも染まりませんわ、みたいな?」


「流行なんてくだらないとか思ってそう」


 女子たちの噂話が聞こえてくる。絶対玲萌レモにも聞こえているはずだが、振り返ると彼女は毅然きぜんとした光を瞳に宿して、俺にうなずいて見せた。曲を始める合図だ。俺もしっかりとうなずき返す。


 そう、玲萌レモはクラスの連中に何を言われようと歯牙しがにもかけない。たとえ恋人が女の子になっちまっても気にしない、どこまでも心の強い人なんだ。だからって俺は、女の子になる気は微塵みじんもねえけどな!!


 しっとりとしたピアノの前奏が流れ出すと、幼児を連れた母親も娘の手を引いてステージの近くへやって来た。 


 玲萌レモの奏でる美しいイントロが俺を曲の世界に誘い込む。


「秘密の場所に 秘密の朱こぼれる薔薇のタトゥー

 銀色の輪照らす月に 秘めた傷跡痛む」


 子供に聴かせるような歌詞じゃないことを申し訳なく思いつつも、頭にファルセットを響かせて、できるだけレガートに歌う。


 子供が俺を指さし、


「魔法少女ちゃん、素敵」


 たどたどしい発音で母親に話しかけるのが聞こえた。


「ママ、わたしも魔法少女になりたい」


 曲が静かなので子供のよく通る声はステージまで容易に聞こえる。


「ねえ このままどこまで行こうか

 もう 戻れない帰れない 純心に」


 俺は歌いながら、子供の姿に昔の自分を重ねていた。俺も彼女みたいに無垢な気持ちでロックスターに憧れたのが出発点だったよな。


「魔法少女ちゃんの声、癒されるなあ」


 観客が隣の席の友人に話しかけるのが聞こえる。目の前でお客さんが感想を言い合うなんて初めての経験だ。胸中のときめきを悟られないよう冷静さを装いながら歌い続けるうちに、クラスの女子たちもいつの間にか公園内に入ってきた。


「ヴォーカルの子、声が動画の魔法少女と一緒じゃない?」


七海ななみさんの上げてた動画?」


「そうそう。めちゃくちゃかわいいのに歌もうまいとか、マジで本物かも」


 クラスの女子グループがステージに立つ俺を羨望のまなざしで見上げる。


 ミニスカート姿で歌っていても楽しんでもらえて、かっこいいとか、ああなりたいとか言ってもらえるとはな。まるで俺が憧れたロックスターみたいじゃんか。まさか魔法少女最後の日にこんな経験ができるなんて思わなかった。


 三曲目『レヴィ・ストレンジの憂鬱』のあとはライブ恒例のメンバー紹介タイムだ。


「オン・キーボード、七海玲萌レモ!」


 俺の声に合わせて、玲萌レモが速弾きで答える。ギタリストがよくやるやつだが、ジャズピアノ奏法で聴かせるのもかっこいい。


「七海さーん!」

「かっこいー!」


 さっきまで陰口もどきを語り合っていたクラスの女子たちが歓声を上げる。現金なやつらだ。


「オン――」


 由梨亜ユリアの紹介をしようとしたら、


「打楽器は魔法少女ユリアだよーっ!」


 本人がカホンの上から飛び跳ねた。こいつ楽器の名前、覚えてねえな。


「かっわいー!」

「ユリアちゃん、こっちこっち!」


 スマホを向けられて由梨亜ユリアはご満悦。客席に向かってピースサインを送る。


「えっと、最後に―― ギターヴォーカルの自分はJUKIっていいます。ロックスター目指してます」


 緊張しながら挨拶すると、


「ジュキちゃん、頑張れー!」

「きみはもうロックスターだよ!」

「ロックスターJUKI、いいぞー!」


 いい具合に酒の回った観客があたたかく盛り上げてくれた。


「次で最後の曲です」


 続くMCに、


「えー、最後ー!?」

「もっと聴きたーい」

「アンコール!」


 と返事が返ってくる。ありがたくて涙がにじみそうになるけれど、ステージから見える楽屋テントの中には、子供たちが太鼓を並べて待っている。俺たちのバンドが押すわけにはいかない。


「今日はどうもありがとうございました。最後の曲は『カモン・ベイビー・トゥナイト』です!」


「おお、いいねえ。若い子なのに我々にとってなつかしいネタだぞ」


 最前列のおっちゃんたちがまた笑い声を上げる。地域の祭りに合うよう、なるべく明るい曲を選んだのは事実だ。だがそれだけじゃない。パトロンである由梨亜ユリアのじいさんに玲萌レモ忖度そんたくして、俺のオリジナル曲の中から七十代が楽しめそうな雰囲気のものをピックアップしたのだ。


 玲萌レモがリズミカルなピアノリフを弾き、曲が始まる。由梨亜ユリアがノリノリでカホンを叩き出し、玲萌レモの左手がウォーキングベースに変わる。俺はアコギでカッティングをしながら歌い出した。


「夜の街は眠らない

 今夜きみを寝かせない

 遠慮はいらない

 ロマンスもいらない

 今夜はRock, rock, rock, tonight」


 またお客さんが手拍子してくれる中、俺たち三人は声を合わせてコーラスを歌う。


「C’mon baby tonight」


 超シンプルなこの曲、コーラス部分の歌詞はカモン・ベイビー・トゥナイトを三回歌って、


「Yeah, it’s alright」


 と俺がシャウトするのを二回繰り返すだけ。コードもCGDGとひねりがないからこそ、ライブでは盛り上がる。お客さんがいる状況でこの曲をプレイできてよかったよ!


 公園の外の立ち見客にも視線を送りながら、二番を歌い始める。


「ママの目ぬすんで

 ネオン坂かけのぼって

 うちの店においでよ

 きみのためショウ・タイム

 今夜はHot, hot, hot, tonight

 C’mon baby tonight――」


 また三人でコーラスを歌い出すと、なんとおっちゃんたちが一緒に叫んでくれた。


「C’mon baby tonight!」


 ビール片手にみんなが声を合わせてくれて、俺は嬉しいやら有難いやら、こみ上げてくる感情の奔流に呑まれないよう、ギターのネックを握りしめてコードを押さえた。


 夕暮れの公園にカモン・ベイビー・トゥナイトの大合唱が響き渡る。ノリのよい客たちが拳を夕日に向かって突き上げる。まるで俺が憧れていたロックフェスのように。


「it’s alright!」


 盛り上がった俺が最後のフレーズをオクターブ上でシャウトすると、玲萌レモがギターをかき鳴らすみたいにシンセの鍵盤を弾きまくった。ディストーションサウンドがなくても、マーシャルアンプを鳴らさなくても、そしてメタルメイクをしなくても、ロックってできるんだな。


 ピンクの雲がたなびく夕空の下、黄金色の夕日に照らされた人々が口笛を鳴らし、大きな歓声と拍手で見送ってくれる。


 楽器を手に俺たちが舞台から降りると、入れ替わりに和太鼓のセッティングが始まった。


 テントの中で生暖かい扇風機の風に吹かれながら、


「ありがとな、二人とも!」


 俺は玲萌レモ由梨亜ユリアに礼を言った。


「楽しかったよー! 次は文化祭だね!」


 由梨亜ユリアが飛び跳ね、玲萌レモが胸に手を当てる。


「私、ヴォーカル緊張したけど楽しかったわ。こちらこそありがと、樹葵ジュキ


 俺の頬にちょんとキスをしてからささやいた。


「文化祭では樹葵ジュキの求めるロックファッションでライブしようね!」


「そうだとも!」


 俺は拳を握りしめ、テントの隙間からのぞく夕日に誓った。


「文化祭では絶対、男の子の俺で歌うんだ!」




─ * ─




最後までお読みいただきありがとうございます!

ページ下の★から評価を入れて頂けると嬉しいです。


また本作のジュキ、レモ、ユリアたちがファンタジー世界で暴れまわる『精霊王の末裔』もよろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/16817330649752024100

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TS魔法少女マジカル💗ジュキちゃん~男子高校生の俺、ピンクのフリフリ幼女服で戦う姿が全国配信されたら大人気ネットアイドルになってしまった(血涙)~ 綾森れん@2/10~男装皇女👑連載開始 @Velvettino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ