41、新しい魔法と、突然の告白
「私にドキドキしなくなっちゃったの?」
「
俺は慌てて否定した。涙をためた目で俺を見上げる彼女の細い肩を抱き寄せる。
「実は俺――」
すべてを打ち明けようと俺は心に決めた。埼玉県を犠牲にして自分の恋心を優先する身勝手な男だと幻滅されるかも知れない。だけどこれが俺だ。隠していても苦しいだけだから。
「俺、もう魔法少女は――」
意を決して言葉を紡いだ瞬間、テントの中に目にも留まらぬ速さで小動物がすべり込んできた。
「
白猫がピンクの肉球で示した耳にはイヤーカフが嵌まっている。
「ミルちゃん!」
「最近見かけないから心配してたけど、そういうことだったのね!」
白猫は肯定するようにうなずき、ひらりと折り畳みテーブルの上に飛び乗った。
「さ、ジュキちゃん」
にょーんと体を伸ばし、頬をすり寄せるようにイヤーカフを嵌めた方の耳を俺に近づける。
俺は指を伸ばしかけて、はたと動きを止めた。変身しない間にサイズが戻ってきたとはいえ、ここでイヤーカフを手に取ったら今までの決意が台無しだ。白猫に魔法少女をやめると宣言したときだって、胃が痛くなるほどの勇気を出したんだ。
「どうしたの、
「俺、言ってなかったよな。魔法少女に変身すると副作用があるんだ」
「副作用!?」
「俺のカラダに悪影響を及ぼすんだ」
「そんな――」
片手で口元を押さえた
「一体どんな悪影響があるの!?」
「具体的に言うと、男らしさが損なわれる」
俺は恥ずかしくて目を伏せた。
「男らしさ――」
「
賢い
「自らを犠牲にして人々を救う――
「ああもう好きなんて言葉じゃ表しきれない! 姿だけでなく心まで美しい
好きを越えて尊敬しているとまで言われて、俺はすっかり魔法少女をやめると言い出せなくなってしまった。俺を信じてくれる親友を裏切りたくない。
「仕方ねえ」
俺は白猫の耳に口を近づけるとささやいた。
「今回で最後だからな」
イヤーカフを手に取り自分の耳に嵌めると、白猫も俺だけに聞こえるように小声で話した。
「魔法のステッキをバージョンアップしたのは本当ニャ」
「まじ?」
「うにゃ」
白猫はいつもの甲高い声に戻って説明を始めた。
「女魔人エスタはプリマヴェーラと違って手ごわいニャ。ジュキちゃんがかわいいからといって見逃してくれるような甘い敵じゃにゃい」
白猫の言葉に
「今度の敵は変態じゃなくてシリアス路線なのね」
「エスタは妹プリマヴェーラのみを溺愛する変態ニャ」
方向が違うだけかよ。四天王は変態揃いなのか?
沈黙した俺たちに、白猫が説明を再開した。
「魔法少女の必殺技『エンジェリック・アロー』はエスタの振るう二本の鞭にはたき落とされてしまう可能性があるニャ。そこでステッキに新たな魔法を付与したニャ。呪文は『フワフワキャンディ・メタモルフォーゼ』!」
「かわいい!」
ソフトケースにしまったカホンの上で居眠りをしていた
「敵がお菓子になっちゃうの?」
「敵自体ではにゃく、敵が持つ武器をすべてピンクの綿菓子に変えてしまうニャ!」
鞭を綿菓子に変えて攻撃力を奪うのか。
「そのあといつも通りエンジェリック・アローで倒せばいいんだな」
納得する俺の横で、
「今度の魔人はプリマヴェーラより厄介みたいだけど、大丈夫なのよね?
「百パーセントとは言えにゃいけれど、ジュキちゃんがミスをしない限りほぼほぼ大丈夫ニャ」
「ほぼほぼだなんて!」
ますます強く俺の腕を抱きしめる
「安心してくれ、
「生きて!? え、そこまで危険ってこと!? 私は
取り乱す
ああ、容易に想像がつく。だって獄中にいるプリマヴェーラは、男子寮の風呂場に全裸で侵入した変態お姉さんということで有名になっているんだから!
俺もプリマヴェーラの二の舞になるのか。いやむしろ魔人と魔法少女の衝突は、変態VS変態の決闘として人々に記憶されるのでは!?
「嫌すぎる……」
「そうよね。かすり傷だって負いたくないわよね。美しい
戦地へ赴く前に、なんとしても誤解を解かなければ! 俺の本当の気持ちを打ち明けなければ死にきれねえ!!
「
俺はまっすぐ
「
涙に濡れた瞳で見上げる彼女を、俺は裏切ることになるのだろうか? 親友に異性として劣情を抱くのも、アーティストがファンに恋心を持つのも、相手を傷付けることになるかも知れない。
だが俺は今、伝えずにはいられないんだ!
「俺、あんたのこと本当は親友だなんて思ってねえ。俺はあんたに恋をしちまったんだ!」
─ * ─
ついに言った!
次回は新たな女魔人エスタとの邂逅もあります!
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