37、ジュキ、自分の気持ちに気付く
「このコンビニに魔法少女がいるって本当!?」
「駅構内からコンビニの入り口なんて見えないからガセだよ」
「でもコンビニの方に向かって行って姿を消したんだって」
外から聞こえてくる声に耳をすましながら俺はトイレの中で息をひそめる。店内を行き交う足音は次第に増えていくようだ。
「あー、喉乾いた!」
「えー、ミネラルウォーター売り切れ!?」
「みんな足止めくらって喉乾いたんだろ」
などという会話から察するに、魔法少女目当てではなく買い物のために入店した者も多いようだ。
「一番端のレジも開けまーす!」
店長らしき年配の人が叫び、
「次の方どじょー!」
と外国人の店員さんらしき声も聞こえる。しばらく様子をうかがっていると、魔法少女の話をする声は聞こえなくなった。どうやらあきらめて帰ったようだ。
ドアを細く開けてこっそり目だけ出す。店内は花火大会前のように大混雑していた。俺は折りたたんだ
「おかえりなさい」
コンビニ前に立っていた
「とりあえず寮まで俺のシャツ着ててくれ」
チェック柄の半袖シャツを脱いで手渡すと、
「いいのに。気にしなくて」
パタパタと手を振りながらも
「うふふ、彼シャツだわ」
ロータリーを見回すと、消防車が到着して火災を起こしたバスを消火している。だがハイオークはまだ倒れたままだった。
「考えてみたら俺、言葉しゃべれる奴の命、奪っちまったんだよな。モンスターとはいえ」
「単なる正当防衛よ」
「あのハイオークは
低くなった
「気にする必要ないニャ」
甲高い声と共に放置自転車の陰から白猫が現れて、ひらりと俺の肩に乗った。
「ワイが仲良くなった野良猫は、雀もトカゲも蛙も獲って食べてたニャ」
「いや蛙は言葉しゃべらねえし、しかも野良猫は生きるためだろ」
「野良猫だって言葉はしゃべらないニャ?」
白猫が不思議そうな顔をすると同時に、反対側から
「わたしたちもハイオーク、食べるよ? ほら、うちのトラックがやってきた」
「大神グループって食肉加工業まで手出してたんだ……」
舌を巻く俺に、
「じいじがずいぶん前にカブ食べた?」
「大神会長がずいぶん前に株式を取得したそうよ。だから
女の子である
「
「いや、ハイオークの件はもういいんだ。そうじゃなくて俺、挑発されたくらいで泣きそうになるとか、男としてみっともねえなと思ってさ」
「何言ってるのよ!」
「男の子は泣いちゃいけません、なんておかしな昭和の考えをまだ信じてるわけじゃないでしょ? 男性だって怖かったり寂しかったりしたら泣いていいのよ?」
「
横から突っ込む
「男とか女とか関係ない。私たちはみんな人間で感情があるんだから。それに私は、感受性豊かな
だけどどうしてこんなにモヤモヤするんだろう?
「
「おなかがすいてると考えも暗くなるわ。少し早いけど寮に帰って夕食にしましょ」
「学食棟に行くのかニャ? それならワイもついていくニャ」
三人と一匹で連れ立って浦和駅を横切りながら俺はふと、もし逆だったら、と想像してみた。
そう、服を脱がされて泣いている人を助けるのは、本当は俺がやりたいこと。ピンチを救ってくれた
俺たちは親友なんだから助け合ってしかるべきなのに、俺は心がせまいんだろうか?
いや違う。自分の気持ちを見ないふりしてきたけれど、もう嘘は付けない。俺は
駅を抜け、学校のある
俺、
いつか
そもそも
考えてみたらなんで俺一人が自分の人生を犠牲にして埼玉県を救わなくちゃならないんだ? ふつふつと疑問が湧いてくる。
学食の前まで来ると、白猫が俺の肩から飛び降りた。尻尾であいさつして去って行こうとするうしろ姿を呼び止める。
「ちょっと待て、ミルフィーユ」
名前を呼ばれて驚いたのか、白猫は足を止めて俺を振り返った。
前を行く
「俺ちょっとこいつと話があるから先に行っててくれ。いつものカフェテリアだろ?」
と確認し、俺は白猫を追って学食棟の裏へ回った。
野良猫が数匹くつろいでいる裏庭に出ると、白猫は不安そうに俺を見上げた。
「どうしたニャ、ジュキちゃん?」
学食棟から漂う
「ミルフィーユ、俺は魔法少女をやめる」
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